殺し屋・高橋君の恋愛模様
松尾 からすけ
殺し屋・高橋君の恋愛模様
「がっはっは!!今日の男もいいカモだったな!!」
恰幅のいいスキンヘッドの男が『金』と書かれたセンスを扇ぎながら上機嫌に笑い声をあげた。ここはビルとビルの狭間にある路地裏。人の姿が見えないとはいえ、普通の人なら眠っているであろう時間帯に出す声量ではない。だが、この男は周りを気にする、という気遣いは一かけらも持ち合わせていなかった。
一目で高級だとわかるスーツを着ているこの男の両側には、漆黒のコートを着た男が二人控えている。明らかに堅気とは違う空気を醸し出す男達を従えている事から、この男がただの成金ではないことがうかがい知れた。
「やっぱり仕事に追われている男っていうのは心に余裕がないから騙すのがらくちんだな!!『癒し』っていう餌を撒いてやればホイホイ釣れやがる!!」
男はにんまりと笑みを浮かべる。だが、両側の男達はまるでロボットのように表情を変えることはない。
そんな二人を見て、男はつまらなさそうに鼻息を漏らした。
「おいおい……少しは愛想よくしろよ」
「……それは給料のうちにはいっていませんので」
右側に控えるポークパイハットをかぶった男が機械的に答える。
「まぁ、そう言うなって。今回の結婚詐欺は成功したも同然だ。そうすれば、お前ら二人の給料も上がるかもしれないんだぞ?もっと嬉しそうにしろよ」
「……それはありがたいお話で」
「けっ!!全然気持ちがこもってないじゃないか!!つまらん奴らだ!!」
恰幅のいい男がバカにしたような目を向けても両側に控える男達は表情一つ崩さなかった。それを見た男は呆れたようにため息を吐く。
「まぁ、いい。ちゃんと仕事をしてくれさえすればな」
「……その点は抜かりないかと」
「ふんっ!!高い金払ってんだから当然だろ!!裏社会きっての護衛集団、『月光』に所属しているんだからな!!まったく……俺はお得意様なんだから少しは値引きしてくれてもいいだろうに」
先ほどまでの上機嫌さはどこ吹く風か、男は忌々しそうに鼻を鳴らすと、不機嫌そうに胸ポケットからボールペンと手帳を取り出した。
「お前らのボスと来週会う予定になっているからな!仕事ぶりはしっかりと報告するつもりだ!『月光』の名に恥じないようにしろよ!!」
「……善処いたします」
何のひねりもない答えに、男は顔をゆがめながらスケジュール帳に予定を書き込み、イライラした様子で手帳を内ポケットに、ボールペンは胸ポケットに刺す。
「本当につまらないやつらだな、お前らは!!今度は会話もできる護衛を…………ん?」
ドシドシと偉そうに歩いていた男の足が不意に止まった。それに合わせて護衛の二人もその場に立ち止まる。
男が歩みを止めた理由は一つ。目の前で普通ではないことが起きたからであった。
月明かり以外の灯りがない路地裏、世間に顔向けできないような後ろめたい連中が蔓延るような場所に、学生服を着た一人の少年が地面から湧き出たかと思わせるほど、突然現れたのだ。
年のころは高校生くらいだろうか。背丈も体格もその年代の標準。目元まで隠れる少しだけ長い黒髪も、学生であればそう珍しいことでもない。どこぞの学校をちらりと覗き込めば、目にできそうな平凡な少年だった。
では、なにが普通じゃないことなのか。そんなありふれた少年が、こんな普通じゃない所にいることだった。
「なんだ?あのガキは」
恰幅のいい男はゆっくりとこちらに近づいてくる少年を怪訝そうな顔で見つめる。だが、両脇に控える男達は警戒の色を強くし、静かに手を胸元へと近づけた。
黒髪の少年は少しだけ俯きながらこちらへと歩いてくる。長い前髪のせいでその顔を確認することはできない。
「おい、ガキィ!!ここはてめぇみたいなやつが歩いていい場所じゃねぇんだよ!!」
男は両手をポケットに突っ込みながらドスの利いた声を出した。だが、少年は声が聞こえていないかのように、その歩みを止めることはない。
手を伸ばせば届きそうな距離。そこまで黒髪の少年が近づいてきたところで恰幅のいい男は盛大に舌打ちをした。
「シカトこいてんじゃねぇぞ!!殺されたくなかったらさっさとこの場から……」
その男の言葉はそこで途切れる。黒髪の少年は顔をあげると同時に、目にもとまらぬ早業で男の胸ポケットにあるボールペンを取り出し、そのまま頸動脈に突き刺した。
「あぁ?」
何が起こったかわからない男は間の抜けた声を出し、自分の喉から噴水のごとく噴き出る血を見ながらそのまま地面に倒れこむ。
一瞬の出来事に目を見開いた護衛の男達であったが、長年の習慣から即座に胸の内ポケットから得物を取り出す。いや、正確には取り出そうとした。だが、それは叶わなかった。なぜなら、常備しているはずのコンバットナイフが、なぜか内ポケットから消えていたからだ。
「おそいよ」
自分達のコンバットナイフを両手に持っている少年を他人事のように見つめる護衛の男達。だが、次の瞬間にはそのコンバットナイフにより喉を掻っ切られ、二度とは覚めぬ夢の世界へと旅立った。
盛大に血をふきながら護衛の男達が膝を崩す。黒髪の少年はその場でひらりと宙返りをし、返り血を防いだ。
路地裏に静寂が訪れる。
月明かりが真っ赤に染め上げれた路地裏を照らした。その真紅の様はどんなに質のいい絵の具を用いても表現することは叶わないだろう。それほどに美しく、そして凄惨だった。
黒髪の少年は物言わぬ躯となった男達をつまらなさそうに一瞥すると、血だまりにコンバットナイフを投げ捨てる。そして、先程と同じようにゆっくりと歩きながら路地裏から去っていった。
*
僕の名前は
本当の名前なんて知らない。いや、ないって言った方が正しいかな?名づけられる前にその辺のゴミ捨て場に置き去りにされたらしいからね。この名前も、育ての親がつけてくれたもんだ。
そんな僕は別に有名でもなんでもない普通の学校に通う高校二年。その学校を選んだ理由も家から近いっていう、何の面白みのないモノ。学業の成績は中の中、運動神経も真ん中。本当にどこにでもいるような一学生……ではないかな。
なぜなら僕は殺し屋だから。
なんでそんな職業についているかって?僕の親父がそうなんだからしょうがない。
親父は裏の世界では知らない奴はいないってくらい有名らしい。親父に命を狙われたら生きることを諦めるべきだ、そういわれるほど凄腕の殺し屋。よく親父に会いに来る同業者からそんな話を聞いたんだ。
そんな血も涙もない伝説の殺し屋が俺みたいな捨て子を拾った理由。すごいくだらなくて自分勝手な理由。
―――もう殺すのかったるいから俺の後継者が欲しいんだけど、探すのめんどいから自分で育てることにしたわ。
……やっぱり殺し屋っていうのは屑しかいないな。そんな理由で純粋な子供に殺しのイロハを叩き込むとか狂っているとしか言いようがない。子供は遊ぶのが仕事だ、ってよく言うけど、僕は殺すのが仕事だったからね。まじで倫理観が崩れるよ。
まぁ、でも、養ってくれていることは感謝している。二ミリぐらいは。
ただ、もう少し普通の人に拾われたかったっていうのは僕のわがままなんだろうか?
*
殺し屋っていっても四六時中、誰かを殺しているわけじゃない。昼間の依頼ってのも偶にあるけど、どうしようもないやつ以外は基本的に親父は断っている。学生生活は殺しのスキルに必要不可欠だから真面目に行け、ってさ。どの辺が必要不可欠なのかはよくわからないけど。
というわけで、現在一人で昼休みを満喫中。自分の席でぼーっとしながら今朝かったコンビニ弁当を頬張っている最中。正直、昨日の殺しは時間帯が遅すぎて眠気が半端ない。
…………えっ?なんで一人でいるのかって?友達がいないからだよ。
目立つ殺し屋は三流以下。親父が口酸っぱく僕に言ってきた言葉。
高橋啓介って名前もそうだ。鈴木一郎と迷ったらしいが、それはそれでなんか目立つ気がしたからこっちの名前にしたらしい。
名前だけ目立たなくても何の意味もない。だから僕は、物心つく前から気配を殺す極意をこの身に叩き込まれた。おかげで、無意識に気配を消して生活する術を身に付けたのだけど、そうなってくるとクラスではただの存在感のない奴になり果てる。
この学校に入学した日、誰も僕の存在に気がつかないから誰も話しかけてこない。誰も話しかけてこないから誰も友達ができない。
これも殺し屋として腕を磨いてきたことによる弊害。僕のコミュニケーション能力の問題では断じてない。
……でも、僕の責任も少しはある。
僕が初対面の人を見た時、その人を「殺せる」か「殺せない」かを一番に考える。その人物が醸し出す空気、佇まい、呼吸、そのほかいろんな要素を注意深く観察し、頭の中でシミュレートする。こんな世界に生きているからね。そういう判断を一瞬のうちに条件反射でできないと命に関わっちゃうし。
とはいっても、たいていの人間は「殺せる」って判断するんだけどね。
このクラスの、っていうかこの学校のほとんどの連中は2秒あれば確実に息の根を止めることができる。平和ボケしたこの国の一般人ならそうなるよね。まぁ、まれによく分からない人も出てくるんだけど。
例えば、一番前で男子達にチヤホヤされながら囲まれているぶりっ子女子の遠山さん。顔を見ても全然本心がわからない。殺し屋でもあそこまで自分を隠せる人はなかなかいないよ。
僕の隣の席にいる加藤君もそうだ。なんか左腕に巻いた包帯をさすりながら「クックック……終焉の時だ……」とか、一人でぶつぶつ言ってんだけど。単純に怖いから近寄りたくない。
後は……。
僕はさりげなく後ろに視線を向ける。そこには度がきつそうな丸眼鏡をかけた三つ編みの少女が静かに本を読んでいる姿があった。
この人は文字通り本当によくわからない。地味すぎて僕よりも存在感がないんだ。名前は確か……佐々木さん?いや、笹山さん?あっ、佐藤さんだ。
名前を思い出すことすら危ういとか本当にやばい。気づいたら席に座って文庫本を読んでいて、気づいたらいなくなっているからね。俺に気配を悟らせないとか、こっちの世界でも普通にやっていけるよ。まさに尊敬に値するレベル。あっ、もしかしたら、こういうことが「殺しに必要不可欠なこと」ってことなのかな?うるさいよ。
僕はため息をつきながら何気なく窓から校庭に目を向けた。最近カップルになったと噂の木村君と花村さんがベンチに座って一緒にお弁当を食べているのが見える。
いいなぁ……僕だって本当は普通に恋とかしてみたいよ。あんな風にみんなの目を盗んでこっそり二人でお弁当を食べるのとか、すごい憧れる。
でも、無理なんだよね。
今まで生きてきた中で、僕に耐えられそうな同世代の女の子は一人もいなかった。えっ?普通の女の子じゃダメって?そりゃ、そうでしょ。
デートをしていて、「だ~れだっ?」とか言いながらバックを取られたときに、反射的に殺しちゃったらシャレにならないからね。少なくとも僕の回し蹴りを笑顔で受け流してくれるぐらいの人じゃないと厳しいよ。……その時点で普通とはかけ離れた女の子だね。
あーぁ。どっかに簡単には殺せない女の子はいないかなぁ……。
*
学校が終わると、僕はまっすぐに帰宅する。部活動には入ってないし、生徒会なんてもってのほかだ。そうしたら友達のいない僕は帰る以外に道はない。
校門を出て10分ぐらい歩いたところにある喫茶店が僕の住処だ。……あんまり家庭を感じないから家とは呼びたくない。
親父が店主をしているこの店は、表向きはしがない喫茶店だけど、裏では殺しの依頼を受ける事務所になっている。僕も偶に参加するけど、それは本当にお得意さん相手だけ。
大抵は僕がいないときに親父が依頼主との打ち合わせを済ませていた。
基本的に、僕は現場要員。その割には報酬がめちゃくちゃ安い。訴えれば絶対に勝てると思う。……そんなことしたら僕が豚箱にぶち込まれるだけだね。
いつものように『喫茶 サンセット』と書かれた店の扉を開き、いつものように飛んできた二本の包丁を顔の間近で止めた。
「おせぇぞ。時は金なりっていつも言っているだろ」
僕は指で挟んでいる包丁をカウンターテーブルの上に置きながら、気怠そうな声の主の方に目を向ける。
そこには煙草をふかしながら、声よりも更に気怠そうな様子でカウンター席に座って新聞を読んでいる男がいた。顎に生えている無精ひげに白髪が混じっていることから、結構な年だとは思うけど、年齢は一切不詳。死んだ魚のような目を見ても、何を考えているのか皆目見当がつかない。
この、まるで覇気を感じられないダメそうな大人が僕の親父。名前は知らない。前に一度尋ねたら「タロウでもヒロシでも好きなように呼べ」って言われた。だから、僕はずっとこの男のことを親父って呼んでいる。
親父は灰皿にタバコを押し付けながら、退屈そうに大きな欠伸をした。何も知らない人がこの姿を見ても、誰も伝説の殺し屋だって思わないだろうな。
「うるさいな。文句なら学校に言ってくれ。僕は寄り道せずにちゃんと帰ってきたよ」
「他人のせいにするところが、まだまだ甘ちゃんだ、って言ってんだよ」
んな無茶苦茶な。自慢じゃないけど、ホームルームが終わってから学校を出るまでの速さなら誰にも負けてないって。……ただ単に話をする相手がいないだけなんだけど。
まぁ、そんな話をしたところで不毛な会話が続くだけなのは目に見えている。ここは無視するのが吉だ。面倒臭いのは勘弁願いたい。
「……そうやってすぐに見切りをつけて楽な方に行こうとするところも甘ちゃんだな」
ぐっ……相変わらずやりづらい事この上ない。流石に育ての親だけあって、考えてる事はお見通しってわけか。親父の前では完璧に心を無にしないと。
僕は今日の晩御飯のことに意識を集中させながら鞄を下ろし、近くにあったコーヒーメーカーに手を伸ばした。いくら仮初の店とは言え、喫茶店としても営業しているのだからコーヒーぐらい置いてあるのは当然だ。
適当なカップにコーヒーを注ぐ僕に対して親父は鼻を鳴らすと、こっちに顔を向けることなく茶色い封筒を投げ渡してくる。ミルクと砂糖を入れながらそれを受け取った僕はさっそく中身をテーブルの上にばらまいた。
中に入っていたのは、どこぞの場所が描かれた地図と写真が一枚。あとは何かのスケジュールが書かれている紙と、誰かの情報が書かれているメモ。僕は素早く内容に目を通す。
「東都第三ビル……あの建設中のビルか。どうして悪党ってのは埠頭の倉庫とか、廃ビルとかそういう場所を好むんだろうね」
「邪魔されにくいからだろ?ヤクの取引をその辺の幼稚園の中でやるわけにもいかねぇし」
それはそうなんだけどさ。まぁ、勝手に一目のつかないところに行ってくれるのはこちらとしても大歓迎なんだけど。
「取引は午前零時。写真の男がターゲットだが、目撃者はいないにこしたことはねぇ……この意味、わかるよな?」
親父が新聞から目を離し、僕の方を見る。相変わらず生気の感じない目だったが、その眼光は刃のように鋭かった。僕は面倒くさそうに肩をすくめると、資料に目を戻す。
「名前は……どうでもいいか。なになに……護衛は自分の部下に任せてんのか。ってことは素人ってことだね」
「そういうこった。……そういや、昨日の『月光』の奴らはどうだった?」
親父が新聞をたたみながらニヤニヤと意地の悪い笑みを向けてきた。やっぱり知ってたのか。それなのにわざと僕に伝えなかったんだな、このクソ親父。
僕はコーヒーを一口飲むと、つまらなさそうに息を吐いた。
「お粗末な連中だったね。護衛対象がやられてから動き出していたし、得物も手入れされていなかった。正直、話にならない奴らだったよ。あれじゃ『月光』の面汚しもいいとこだって。ちゃんとマトさんに言っておいてよ」
「くっくっく……そう言ってやるなって。組織がでかくなればなるほどいろんな客が来ちまうんだ。それなりの客には、それなりの団員を派遣するってこった。そういう客は結構金を落としてくれるみたいだぞ?」
「なるほどね」
金だけで成り上がったバカにはあれくらいが丁度いいってことか。そう考えると実に合理的だな。あのおっさんはどっかの男をカモにして喜んでいたみたいだけど、おっさん自身もカモだったなんてお笑いもいいとこだ。
「今回は『月光』の奴らは参加しねぇ。啓介にほいほい殺されてたら商売が成り立たないってマトが嘆いてたしな」
親父は愉快そうに笑いながら言った。マトさんが困っているのを見るのは親父の大好物だからね。
それにしても『月光』の連中がいないってことは今回は楽そうだ。素人が何人いようと別に脅威じゃない。
そんな僕の心内を読んだのか、親父が不敵な笑みをこちらに向けてきた。
「油断して足元掬われないようにな。……今回は面白い奴が関わっているって噂だ」
「面白い奴?」
「
ピクッ。
親父の言葉に身体が勝手に反応する。そんな僕の様子を見て親父は楽しんでいた。
「最近、流星のごとく現れた話題の殺し屋だよな。お前も少し気になるんじゃないのか?」
殺し屋が集まる場所に行けば、この人物の話を聞かないことはない。それほどにハイペースで仕事をこなしている。
一切の痕跡を残さない鮮やかな手口。緻密に計画された暗殺手法。今まで話題に上らなかったのが不思議なくらい、忽然とその姿を現した。
そして、何よりも驚くべきことは、これほど噂されているというのにその人物に誰一人として心当たりがないということ。新進気鋭の殺し屋集団に所属している、という事以外は何一つわかっていない。
「……それは期待しちゃうね。ベールに包まれた殺しの天才を拝見できるかもしれないんだから。その姿は誰も知らないんでしょ?」
「けっ!よく言うぜ!お前だってほとんど姿を知られてねぇくせに。
……その呼び名が好きじゃないことを知っているくせに。
不機嫌そうにジト目を向ける僕を見て、親父は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
*
午後11時50分。
僕は目的のビルにたどり着き、完全に気配を殺しながら移動していた。流石に工事中ってだけのことはあって隠れる場所には事欠かないな。まだ組まれていない鉄骨が山積みになっていたり、いたるところがブルーシートで覆われていたりする。
確か、このビルの五階だったかな。
当たり前のようにまったく足音を立てずにビルの中を進んでいくと、なにやら複数の人の気配がしてきた。
階段を上り終えたところで様子を窺うと、一番広い部屋の中に何人かの人影が目に留まる。ふむ、確かに後ろめたい取引にはもってこいの場所だね。
僕は最大限の警戒をしながら部屋へと侵入し、物陰に姿を隠した。気配を殺すっていったって姿が消えるわけじゃないからね。相手が素人だろうと、その目に触れれば俺の存在がばれてしまう。一応見えにくいように黒い服は着てるけど、これ学生服だし。一番目立たない服だから、殺しに行くときはいっつもこれを着ているんだよね。
僕は一言も漏らさないように男達の会話に耳を傾ける。情報は命の次に大事だから手を抜くことなんてできない。
どうやら定刻通りに取引は行われるようだ。悪党っていうのは意外に時間に几帳面な奴らが多くて助かる。
人数は十六人。全員の胸ポケットが少し膨らんでいるようだけど、戦えそうなやつは一人もいない。
部屋の広さは問題なさそうだ。ただ、建設中のビルだっていうのに、工事用の照明器具を使っているから視界はすこぶる良好。僕としてはあまり好ましくない状況なんだけど……照明器具は五つか……。
僕はキョロキョロとあたりを見渡し、手ごろの石を五個拾い上げた。まだ工事の途中で天井がないから月明かりが差し込んできているけど、大丈夫でしょ。
僕の殺しのポリシー……ってわけじゃないけど、僕は殺しに行くときに決まって手ぶらで行くようにしていた。
そりゃ、入念に手入れをした武器を使えばそれだけ成功の確率は上がると思うけど、もし何かの手違いでその得物が使えなくなった時、心に隙が生まれてしまう。そうなれば、地面の下に眠ることになるのは標的ではなく自分自身だ。一瞬の迷いが命取りになる。
だから、僕は決まった武器を使わない。殺すときはその場にあるものを最大限利用する。鉄パイプだったり、木の枝だったり……時には相手が持っている武器なんかも使ってるよ。
さて……そろそろいいかな?
僕は静かに息を吐きだすと、ほとんど同時に五つの石を指で弾き飛ばした。
パリーンッ。
その全てが照明に命中し、ガラスの砕け散る音が響き渡る。縁日の射撃も指ではじかせてくれるんなら、とれる自信があるんだけどな。
「な、なんだ!?何が起こった!?」
一瞬にして暗転した部屋の中で男達が戸惑っているのが手に取るように伝わってきた。何が起こったって、いきなり照明が割れたんだ。どう考えても自分達に不利益を被る何かがやってきたに決まっているだろう。
あらかじめ目を閉じ、暗闇に目を慣らしていた僕以外、周りが見えている者はいないようだ。だが、相手を威嚇するためか何人かの男達は懐から光物を取り出した。
ようするに僕に餌を撒いてくれたってわけだ。
僕はその中の一人に狙いを定め、一直線に駆け寄っていく。無論、音なんか立てずに。そして、背後に回り込むと躊躇なく両腕を首元に回した。
「がっ……!!」
そのまま腕を縦に九十度回転させる。すると、ゴキッと嫌な音を立てながら男は力なく地面に崩れ落ちていった。
ちょっと、借りて行くよ。
僕はすぐさま男の手からナイフを抜き取ると、一番近くにいた男の胸に突き立てる。引き抜いたりはしない。返り血は浴びたくないからね。そのままそのナイフはあんたにプレゼントするよ。僕のじゃないけど。
この男がナイフを持っていることはちゃんと確認済みだ。僕は男が倒れこむ前にその手からナイフを奪うと、次の目標へと移動する。
「くそっ!?て、敵か!?」
この期に及んでなんで疑問形なのか理解に苦しむ。敵じゃなかったらなんだと言うんだよ、まったく。
完全にパニック状態になった男達は手当たり次第に銃を発砲し始めた。そんなの当たりっこないし、そもそもマズルフラッシュで自分の居場所を教えているだけにすぎないよ?
僕は流れ作業のように男達の間を縫っていきながら。ナイフを振りぬいていく。断末魔すら上げられずに倒れていく男達。死んでいるかなんて確認なんてしない。僕がやったんだ、死んでいるに決まってる。
気が付けば、周りは血の海になり、立っているのは僕だけになっていた。ゆっくりと深呼吸すると、ナイフをその辺に投げ捨て、自分の服を確認する。丁度、月が雲にかかって見えにくいせど、自分の服くらいはであれば問題ない。
よし。返り血は浴びていないな。
コキコキ、と首を鳴らし、軽く伸びをする。本当に手ごたえのない仕事だった。素人にもほどがあるって。こんな実力でよく今まで悪を気取っていられたな、こいつら。
僕は呆れたように肉塊となった元悪党共を一瞥すると、踵を返し部屋の出口へと歩いていく。
結局、
まっ、でも、仕事を続けてたらいずれお目にかかることもあるかな?裏の世界っていっても意外と狭いし。僕もその人も殺し屋を続けている限り……。
ヒュッ。
何かの風切り音が僕の耳に届いた。その瞬間、脳を介さず本能的に大きく横へと跳躍する。だというのに、投げられたナイフの一本が僕の肩を抉っていった。
避けることまで想定済みか。
僕は地面を転がりながら身体を反転させ、ナイフが飛んできた方向へと目を向ける。僕の視線の先、作業用に組まれた鉄骨の上に何者かの姿があった。
謎の人物はそこからひらりと飛び降りると、見事な五点着地を披露する。その様を見て、僕は警戒レベルを一気に引き上げた。肩が焼けるように熱いが、そんなことは二の次だ。投げナイフのスキルからいっても、相手はさっきまでのハリボテ達とはわけが違う。
僕は男達から奪ったナイフを捨てたことを少し後悔しながら、謎の人物のことを見つめた。影になっていて顔はよく見えないが、背丈はそんなに大きくない。少なくとも僕よりは小柄そうだ。
「……驚いた。学生服を着た殺し屋がいるなんてね」
……女の人か。別に驚くような事じゃない。女性の殺し屋だってごまんといる。男には男の、女には女の武器があるからそれだけで相手を見くびるような奴はバカとしか言いようがない。
「しかもその制服……運命って言葉はあまり好きじゃないんだけど、これは見直さないといけないかしら?」
クスクス、と楽しそうに笑う謎の人物。僕は何も言わずに、相手を観察する。指の動き一つも見逃してはならない。それを怠った瞬間、僕は天国の門をノックしに行く羽目になる。目の前に立つ者はそういう手合いなんだ。
僕が相手の出方を伺っていると、かかっていた雲がゆっくりと流れていき、月明かりがこの場を照らし出す。
そこに立っていたのはとびきりの美少女だった。
全ての顔のパーツが完璧に配置され、ある種の芸術作品のような顔立ち。長めの黒髪はサラサラと風にたなびき、美しさに拍車をかけていた。
キャットスーツに身を包んでいるおかげか、ボディラインがしっかりと確認することができる。まだ成熟しきっていない体つきではあるが、その美貌と相まって男を魅了するには十分すぎるほどの破壊力を秘めていた。
お茶の間を騒がしているアイドルなんかよりも数段魅力的な少女。両手に刃物さえ携えていなければ完璧だったというのに。
……まぁ、僕には関係ないんだけどね。
美しさはそれだけで凶器になる。ただそれは特定の人物に対してだけ。僕にとって「可愛い」か「可愛くないか」は「殺せる」か「殺せないか」とは無縁の話だ。
気配を一切感じない。ただ立っているだけだっていうのにまるで隙が無い。さっきの攻撃といい、飛び降りといい…………こりゃ、手を抜いていい相手じゃないね。
なんにせよ、この子が
僕はスッと目を細めると、頭のスイッチを切り替える。これは殺しのスキルとして必須の技術。自分の意思で身体を一気にトップギアまで上げるものだ。
そんな僕を見て、彼女は微かに笑みを浮かべた。絵になるな。地味な僕とは大違いだ。
「あなたが
まるでコットンキャンディの様な甘い声。
「……その呼ばれ方は好きじゃないんだ」
「そうなの?それは悪いことをしたわね」
全身の血流が速くなる。今の僕の頭の中には目の前に立つ敵を殺す事しかない。
「まさか噂のあの人がその辺の高校生だったとはね」
「それはお互い様でしょ?僕もあんたがこんなに綺麗でこんなに若いとは思わなかったよ。
「ふふっ、お褒めに預かり光栄だわ」
とにかく武器が必要だ。この相手に素手だと勝てない。僕の本能がそう告げている。
「お互いに知っているみたいだから自己紹介は必要ないわね。あっ、でも、挨拶がまだだったかしら?」
僕と彼女の間にさっき投げ捨てたナイフが落ちている。隙を見せることになるがあれを取るのが第一だね。その間の攻撃は、全神経を集中させ、なんとか致命傷だけは避ける。いや、確か後ろにも一本落ちていたな。それを拾うほうがリスクが少ないか?
会話をしながら頭の中でプランを組み立てていた僕だったが、彼女の一言でその一切が吹き飛んだ。
「こんばんは、高橋君」
……………………えっ?
殺しの時は常に冷静でいなければならない。例え、身内を盾にされようと、伏兵が現れようとも、頭の中は常にクレバーであることが長生きの秘訣だ。
僕もその訓練はしっかりと積んできたし、感情のコントロールについては多少の自信があったけど、今回ばかりは唖然としてしまった。
「あら?その様子だと私に気づいてないのかしら?だとしたら、私の演技も捨てたもんじゃないってことね」
気づいてない?演技?僕は彼女と面識があるっていうのか?知らないぞ、こんな美少女。
混乱している僕を見て彼女は嬉しそうに笑いながら、ポケットからあるものを取り出し、見せびらかすかのように身に付けた。それは度がきつそうな丸眼鏡。それを見た瞬間、僕の頭に文庫本を読む地味な女の子の姿が映し出される。
「まさか……佐藤さんっ!?!?」
「……斎藤だけど」
…………名前違った。マジで恥ずかしい。
さと……斎藤さんは不服そうな表情で俺を見つめる。結構表情豊かなんだね。学校では能面みたいな顔しか見たことがなかったからとても新鮮だよ。それはそうと、心の底から申し訳ないと思っているから、そんな目で僕を見るのはやめてくれないかな?
斎藤さんはこめかみに手を添え、大きくため息を吐いた。
「目立たないように、と思ってきたけど、それも考えものね。まさかクラスメートに名前すら覚えてもらってなかったなんて」
「…………ごめんなさい」
「はぁ……
「あっ、はい」
何この会話?全然緊張感がなくなってるんだけど。もしかしたら、このまま解散っていう流れに―――。
「まぁ、いいわ」
斎藤さんの纏う空気が激変する。
「そんなことはどうでもいい……私はこの上なく嬉しいの。やっと私の願いを叶えてくれる人に出会えたのかもしれないから」
……まぁ、そうだよね。いくら見知った同級生だとしても僕達は殺し屋。殺り合わない道理はない。
すさまじいほどの殺気を放っている斎藤さんを前に、僕はスイッチを入れなおした。
「……その目よ。たまらないわ」
艶やかな笑みを浮かべるや否や、斎藤さんは一瞬にして僕との距離を詰めてくる。この速さ、縮地を使っているな。
僕はしっかりとナイフの軌道を確認し、上体を反らしながら後方へと三回転し、彼女から距離を取った。地面に手が付いた際に落ちているナイフを拾うのを忘れない。
得物を手にした僕が目を向けると、すでにナイフが三本投げられた後であった。額に胸に首。どれも当たれば楽にあの世へと旅立てること間違いなし。
その投擲の正確さに内心舌を巻きつつ、二本を拾ったナイフではじき返し、残りの一本はわずかに身体を横へとずらして空いているもう片方の手で掴み取る。速度もコントロールも正確すぎるから、逆にナイフが来る位置を予測しやすい。
「女の子のモノを奪っちゃうんだ。高橋君ってひどい男ね」
「普通の女の子はナイフなんて投げないよ」
天気の話をするみたいに軽い口調で会話をする僕達。お互い、口と頭を切り離す術くらい身に付けている。
「もっと優しくできないの?」
「不器用なもんで」
「こんなに激しく攻められたら耐えられないわ」
僕の振るうナイフを全部紙一重で躱しているくせによく言うよ。女性特有の柔らかい動きのせいでやりにくいことこの上ない。
このままじゃ千日手だな。
そう思った矢先、彼女がその場にしゃがみこみ、地面に両手をついた。そして、倒立をするみたいに勢いよく地面をけり上げ、足を百八十度に開いたまま、その場で回転する。カポエイラもマスターしているってわけね。いつもだったらカウンターを狙うところだけど、恐らく……。
互いに武器を持っている状態で不用意に蹴りや拳を繰り出すのは、相手に絶好のチャンスを与えることになってしまう。力の差が歴然ならば別に問題ないんだけど、こう拮抗しているとね。その動きに合わせて刃物を突き立てるだけで、相手に致命傷を与えることができてしまうからね。
そんなことは彼女も百も承知のはず。
僕は咄嗟に地面を蹴って、彼女の足が確実に届かない位置へと非難する。にもかかわらず、俺の学生服が真一文字にぱっくり切れた。
斎藤さんはそのまま回転を利用して、ブレイクダンスのごとくスルリと立ち上がる。その足からはさっきまではなかったはずの鋭い刃が飛び出していた。
「へー……避けちゃうんだ」
「避けないと痛いからね」
やっぱり隠し武器か。本当に油断ならない相手だよ。
斎藤さんは軽く足を振って隠し武器を取り外す。その顔には相変わらず嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「……高橋君、まだ何か隠しているでしょ?」
隠していたのは斎藤さんの方だと思うけど。僕の一張羅を切り裂いたし。
「まだって……最初から何も隠してないけど?」
「嘘。あなたは全力で私を殺しに来てくれているけど……まだ本気じゃない」
彼女の言葉を聞いて僕の眉がピクっと反応してしまう。……僕もまだまだ修行が足りないな。
そんな僕を見て、斎藤さんはますます笑みを深める。そして、ナイフを華麗に一回転させると、誘うように両手を大きく広げた。
「さぁ、あなたの本気を見せて?そして……」
彼女は期待に満ちた瞳を僕に向ける。
「ちゃんと私を殺して?」
…………はぁ。
意外と勝手な人なんだね、斎藤さんって。
こんな可愛い子にお願いされたら、男だったら断れないね。
仕方がないから教えてあげるよ。
僕が
僕はナイフを持ったままゆっくりと彼女に近づいていく。変わったことはない、本当にただ歩いているだけ。
彼女は僕を見たまま動かない。眉を顰め、怪訝そうな表情を浮かべていた。それでも僕は歩き続ける。
そして、手が届きそうな距離まで近づいたとき、持っているナイフを彼女の顔めがけて突き出した。
「なっ……!?」
斎藤さんは大きく目を見開きながら、慌てて顔を右へと動かす。僕のナイフは彼女の首筋を薄く切り裂いた。
斎藤さんはそのまま逃げるように僕から距離を取ると、首から血が出ているのもお構いなしに、あり得ないものを見るような目で僕を凝視する。
「信じられない……あなたは殺気をなくして人を殺すことができるの?」
……あーぁ。失敗しちゃった。
「そうだよ。これが僕の奥の手。……初見で看破したのは親父以外で斎藤さんが初めてだよ」
殺し屋っていうのは腕が立つほど相手の殺気に敏感だ。それを読み取り、相手の動きを予測するほどに。
だから、僕はその殺気をなくして、相手に動きを読ませないようにした。……言葉でいうのは簡単だけど、実際やるとなるとめちゃくちゃ大変だったよ。
確実に殺れると思ったのにな。なんでかわからないけど、殺ろうとした瞬間、殺すのが惜しいって思っちゃったよ。……そんな迷いのある攻撃、斎藤さんなら避けられて当然だな。
こりゃ、本格的にまずいね。彼女の実力を見誤っていた。勝てるビジョンが想像できないよ。
諦めモードで大きくため息を吐く僕。
―――でも、なんでだろう
軽く肩をすくめると、静かにナイフを構えた。
―――なんでこんなに
彼女も僕に合わせて構えを取る。
―――身体の芯が熱くなるのだろう
僕は薄く笑みを浮かべながら彼女に向って駆け出した。
ガキーンッ!!
ナイフとナイフがぶつかり合い、激しく火花を散らす。俺は一切、攻撃の手を緩めない。一撃一殺が基本の自分としては考えられない戦闘スタイル。
だが、止めることはない。楽しすぎて止めることなんてできない。こんなにも自分にこたえてくれる
何十合とナイフをぶつけ合ったところで、こちらに近づいてくるサイレンの音が聞こえた。おそらく僕が殺したヤクザの発砲音を聞いた誰かが通報したのだろう。
僕は大きく後ろに引きながら盛大に舌打ちをした。同じタイミングで彼女も僕から距離を取る。
「……ここまでのようね」
夢のような一時が終わりを告げる。斎藤さんはナイフを腰のベルトに差し込むと、スッと髪をかき上げた。
「あなたとの殺し合い、楽しかったわ。またできるといいわね」
言いようのない脱力感が僕を襲う。だが、なぜだか胸だけは熱く高鳴っていた。
斎藤さんはあっさりと僕に背を向けると、鉄骨を飛び渡っていく。そして、一番高いところまで登ると、こちらに振り返り、柔和な笑みを浮かべた。
「じゃあね、高橋君。また明日」
何も言い返すことのできない僕を置いて、彼女は夜の闇へと消えていく。一人残された僕は、彼女が最後に立っていた場所をひたすら見つめ続けていた。
ははは……まさかこの僕が、ね。
信じられないけど、間違いないよな。
だって、こんなにドキドキしているんだから。
そう、僕はこの瞬間、生まれて初めて恋に落ちた。
*
翌日、早朝。
校舎に人の気配はない。
それもそのはず、まだお日様が昇って間もない時間帯。生徒はおろか、日直の先生だってまだ来てないくらいの早さ。
僕は誰もいない廊下を一人進んでいく。
いつも歩いている場所だっていうのに、人がいないだけでこんなにも印象が変わるなんて知らなかった。普段は雑踏この上ないというのに、今は寂寥感に満ち溢れている。
そんなことを考えていた僕は、目的の教室の前までたどり着いた。
「ふぅ……」
大きく深呼吸をしてから、教室の扉を開ける。
教室の中は、廊下と同様、静寂に包まれていた。お調子者の古川君も、高嶺の花の荒川さんも、人気者の渋谷君もいない。
だが、一人だけ。
いつものように地味なおさげ髪をして、いつものように分厚い眼鏡をかけている少女が教室の隅っこの席でいつものように本を読んでいた。違うのは首筋に絆創膏が貼られていることだけ。
僕は何も言わずに歩を進める。バクバクと破裂しそうな心臓を必死に抑え込み、彼女の席の前に立った。
彼女は静かに本を机の上に置くと、ゆっくりと僕の方を見上げる。
ぶつかり合う視線。
僕は両手を彼女の机に置くと、意を決したように口を開いた。
「一目惚れしました。好きです。付き合ってください」
彼女は僕の言葉を聞いても、何の反応も示さない。ただ、右ひじをそっと机に乗せると、僕を値踏みするように見ながら頬杖をついた。
「そうねぇ……」
そして、能面のような顔に広がるあの妖艶な笑み。
「―――私を殺してくれるなら」
この日から、僕と彼女の
殺し屋・高橋君の恋愛模様 松尾 からすけ @karasuke
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