魔王が生まれた日

京羅

プロローグ





アルドニア連邦 宗主国王都 カロ城 城内





 「まったく、お父様は何故あんなに頭でっかちですの?」


 豪華な彫刻の柱に丁寧に磨かれた窓。その窓からは陽の光が射し込み、きらびやかな雰囲気の廊下を一人の少女が頬を膨らませながら歩いている。


 「書庫の中に灯りがなかったから火の魔法で代わりをしただけですのに!そもそも灯りの魔道具を設置していないことが問題ですわ!」


 お父様と呼ばれた人物に聞かれでもしたら、怒られてしまいそうな発言である。しかし、光の魔法ではダメだったのだろうか?さらに、付け加えるなら彼女は魔法にて封印されていた鍵を、無理矢理破壊して書庫へと入っている。防犯用の魔方陣が発動し警備兵に知られ、犯人が王女だとわかると当然のごとく父もとい国王へと報告されたのだ。

 

 いまだに頬を膨らませて歩いている少女は、自身の部屋の扉の前で立ち止まり勢いよく扉を開く。まだ気は収まらないようだ。しかし、部屋に入り椅子に座ると表情は柔らかくなり、むしろ笑顔へと変わっていった。


 「ついに、ついに見つけましたわ!この国の、#家族__わたくしたち__#の秘密につながる手掛かりを!」


 どこから出してきたのかいつの間にか両手で抱える程の書物を机の上に出し始めた。


 「お城の宝物庫やお父様の書斎、王立図書館の立ち入り禁止区域。様々な場所を探しましたわ。そして、#漸__ようや__#くこの日記を見つけましたの!」


 どうやら、今回のことは初めてではないらしい。懲りない少女だ。お目当ての物を見つけて上機嫌になった少女は早速日記を読もうとしているのだが


 「表紙にタイトルがありませんわね。背表紙にも。どれが最初の日記かわかりませんわ。」


 むぅ…と眉間に#皺__しわ__#を寄せて困った表情を浮かべる少女。


 「仕方ありませんわね。とりあえず1つ1つ確認して、私が表紙に番号を付けてさしあげますわ。」


 そう言うと作業に取りかかる。1ページ目の日付を確認して並べ替えるといういたって#単純__シンプル__#な作業の為さほど時間はかからなかった。


 「終わりましたわ。これで#漸__ようや__#く#家族__わたくしたち__#の秘密が、分かるというものですわ。」


 少女の家族…いや家系というべきだろうか?アルドニア連邦宗主国王家の秘密。この国の大公家を含む王族は成人すれば成人の儀を取り行う。その儀式で直系の王族のみに告げられるものではあるが、口外は決してできない#呪__しゅ__#がかけられる。例えそれが我が子であろうとも。


 秘密を知るには成人の儀までは待たなければならない。だが好奇心旺盛な少女は待ちきれなかった。正確に言えば彼女の探し物は日記などではなく、その王家の秘密なのだ。


 しかし、王立図書館を始めとして、あらゆるところでそれらしき物は見つからなかった。そして今回、城の一番古い塔の書庫のさらに奥で保管されていた金庫の中から見つけたのがこの書物だ。不思議な事に少女が近づくとこの金庫の鍵が自然と開いたのだ。


 そしてその中にあったもの、それこそがこのアルドニア連邦宗主国初代国王として#名前だけ__・__#が残っている『リョウ・タチバナ』の日記であった。初代国王、建国の王であれば普通は色々な伝記や記録が残っていてもおかしくはない。というよりは残ってるものだ。しかし、不思議なことにこの国の歴史は初代国王が国を興した年より数年から十数年の空白の#後__のち__#、『聖王』と呼ばれた2代目から始まるのだ。


 2代目国王にして初代アルドニア連邦盟王『オリバー・ぺリステラー』は歴史に名前が出てくるまでその半生は謎に包まれている。そしてこの人物こそが彼女達の祖先でもある。


 「さてと…」


 少女の指が最初の一冊目のページを#捲__めく__#る





ーーーー





ツアレスティア暦 214年 ヴィダーの月 10日


 初日から日にちがズレているのは勘弁してもらいたい。書いているのは11日なんだが、まあとりあえず昨日の事を書こう。

 昨日の感想はこの一言に尽きる。やっぱ#娑婆__しゃば__#の空気はうめえ。





ーーーー





 「は?」


 少女はアホみたいな顔をして一瞬氷つくのであった。







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