「私、メリーさん、今○○にいるの」
切れた電話線の向こうから、今夜も彼女の声が聞こえる。
沖縄から始まるメリーさんの旅物語。ラジオDJのように朗らかに語られる観光案内。
けれど彼女の行く先々を、別れの言葉を、何故か彼は知っている。
そして転機が訪れる22日目を境に移りゆく会話。
流れるように歌うように紡がれるお話の美しさたるや!
端々に溢れるウイット、小粋で洒落たダンディズム、ロマンチシズム。
楽しくて、ちょっと切なくて、でも最後はちゃんと笑顔になれる。
なんて贅沢で幸福な10分間!!
ぜひ味わってみてください。きっと何度だって、美味ティーですから。
読み始めから、最後へ。ここまで色を変える小説も珍しい。しかも、短編ときた。
ある男性のもとへ、かかって来た一本の電話。相手は『あの』メリーさん。日本人なら知らぬ人もいないのでは、と言うほどの、有名な怪談である。ああ、最後に「あなたの後ろにいるの」で終わる、あの怪談を面白おかしく書いたんだな。それが最初の印象だ。
その印象が変わったのは、物語の中盤だ。
どうかわったか? それはとても私の口からなど言えない。もったいない。もったいなすぎる。これは自分で感じなければいけない類の感覚だ。そこに私なんかの感情が忍び込んだら、もったいない。
ただ一つ言えるとすれば、冒頭でも言った通り、この小説は季節の移り変わりに色を変える木の葉のように、優しくゆっくり色を変える。それだけ。
この小説に、何を感じたか。それについて私は、あえて、口を閉ざさせてもらう。どうぞ、自分で、感じてほしい。
ああ、でも――言葉の乱れを許していただけるなら、一言だけ、私の感じたことを残す。
――そういうの弱いんですってば……!!
都市伝説。
皆さんも色々ご存知でしょう。
口裂け女、テケテケさん、トイレの花子さん……は怪談か?
メリーさんも、その中で負けず劣らずの有名伝説。
これらの都市伝説には、なんというか、テンプレの形が存在するのです。
大体、こういう形で起こるんだよという流れ。
この物語は、その流れと雰囲気を非常に上手く掬い取りつつ。
それでいて自由に、とても素敵にアレンジしています。
オカルトはよくホラーの題材として使われますが。
私は、寧ろ人の心に触れるような、こういった扱われ方が非常に好きです。
(ホラーも好きは好きですが)
学校の怪談という映画が昔ありまして、私は相当好きなんですが。
意味はちょっと違いますが、それをほんの少し思い出してしまいました。
優しい奇跡。その魅せ方としての都市伝説。素晴らしかったです。
後、旅行行きたくなりますね。