先輩のJ系カレシ。
アイオイ アクト
先輩のJ系カレシ。
「ちょっと先輩! ガムはもうちょっときれいに剥がしてくださいよ」
「えぇ~? あたしガムの処理が一番苦手なんだけど」
「何万回も聞いてるから知ってます。克服しましょうよ」
まったく。優しくて思いやりのある先輩に恵まれたとは思うけど、もう少し仕事を真面目にしてくれたらいいのに。
「むぅ……後輩ちゃんのためにがんばる」
「うふふ、がんばってください。応援してますから」
清掃員歴一年の私と、一年半の先輩。周囲から良いコンビだと褒められることも増えた。同時に、恋人ナシコンビと揶揄される事も増えたけど。
「うわ、ブドウ味だ。この匂い苦手! 後輩ちゃんやって! 他のゴミはちゃんと取るから!」
「はいはい。先輩ちゃんはわがままでちゅねー」
「後輩ママー! ばぶー!」
こんな先輩だけど、私を育ててくれたのもこの先輩だから、文句はいえない。
でも、最近先輩がちょっとおかしい。なんだか艶が出てきたというか。きれいになった。
「あの、先輩、仕事中にこんな話したら良くないとは思うんですけど……」
「何よ? 改まっちゃって?」
「えぇと、恋人……出来ました?」
「え!?」
先輩が固まった。
どうやら図星らしい。まったく、隅には置けないな。
「ど、どうして分かったの!? あの、その、抜け駆けしようとか、そんなつもりはなくてね、が、頑張ってる後輩ちゃんになんか悪いし……!」
「人聞き悪いこといわないでくださいよ。なんで言ってくれないんですか!」
「え……ええと、その……J系だから?」
なん、だと。
超高レベルの相手をゲットしたとでも言いたいのか先輩のバカヤロー!
いや、先輩は常に身だしなみはしっかりしているし、仕事もできる。外見も中身もしっかりしているから、いい相手と結ばれるだろうなぁとは思ってはいたんだ。
いたんだけど、なんだか抜け駆けされた気分が拭えない。
「先輩、そんなJ系どこで……?」
「……幼馴染みだから、どれくらいかっこいいかはあんまり分からないんだけど、写真見せた友達はみんなJ系のアイドルだよねっていうから」
なんだよ誇張ナシかよ! 周囲の公認アリかよ!
茶化してやりたいけれど、先輩のオクテっぷりからすると久々か、もしくははじめての恋人かもしれないんだ。ここは心の底から祝福してあげよう。
そして、恋人さんの交友関係からJ系を紹介してもらえばいいんだ。ここは媚びて媚びて媚び倒そう。
「それでぇ、先輩ぃ、私の隣ぃ、空いているんですけどぉ?」
「……皆まで言うでない後輩よ。出会いならセッティングしてやるさ……あ!」
「どうしたんですか?」
「こ、ここで仕事してるとは言ったけど、あいつ本当に来ちゃった!」
「え……?」
先輩の視線の先だけ、空気が違った。恐ろしいほどの清涼感を与える優しげな声が、先輩の下の名前を呼んでいた。
「や、やだ……汚いから近寄らないで! あ、汚いってあたしが汚いって意味で!」
ウソでしょう。ウソって言ってよ。
ああ、完膚なきまでのジャ○ーズ系だ。
「う、ウソでしょ……?」
「う、ウソじゃないよ! 私の恋人だよ! それより合コンの予定組もうよ、後輩ちゃん」!
「で、でも、その、あまりにも住む世界が違うっていうか……」
「そうだけどさ、ここで会ったのも何かの縁でしょ! 後輩ちゃんみたいな子でも気にしないって人だけでメンバー固めちゃうからさ」
「そうだよ。はじめまして後輩さん。勝手に申し訳なかったんだけど、友達に後輩さん会いたいにってヤツいっぱいいてさ。いつにする?」
気持ちがすっと落ち着いた。なんというか、途端に興味を失ってしまった。
「……考えて、おきます」
遠回しの断りは伝わったらしく、先輩は申し訳なさそうにしながら、早めの休憩に入ってしまった。
「うわ……またガムのポイ捨てだ」
勘違いした私が悪いんだ。J系といったら、普通そっちだよね。
勝手に失望してどうするんだ。
道路にこびりついたガムの上に乗っかり、ジュルジュルと溶かして剥がす。
「誰か……私にJelly系紹介してよ」
先輩のJ系カレシ。 アイオイ アクト @jfresh
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