うつつの世に転じ、生まれ始まる恋物語。
「起きろ、勇者。」
目が覚めた、青い天井だ。
丁度、
「ぐ、がぁあ、が。」
瞬間、激痛が走る。吐息が絶息する度、
「勇者、お前はどうする?」
横を向くと娘そっくりの
表情から感情というモノが抜け落ちている。
「ぜーっ、はっ、魔王を助け、る。」
「そんな姿でか」
「ごひゅッ!?かっ、ああ、やって、やるよ、おれ、は勇者だぞ。」
「ふぅ、ふぅぅう!!『功魔導』!」
少しの『
立ち上がる。
相変わらず激痛と
「勇者よ、魔王を救ってくれ」
『
神でありながら。
「こんなすがた、の男に、何が、出来ると
おもう……?」
『功魔導』を発動させる事で理解した。
己の
生命を削り、天に至る事は出来るだろう。
綱渡りだが、出来る。
しかし、空と
初見でその権限を
この
『混沌の権能/
『混沌の権能/真・
『混沌の権能/
『秩序の権能/
『
『秩序の神の加護/
『秩序の神の加護/
「な。」
『秩序の神』の『
全能感が満ちる。
「私は、愛していても。
「この
魔王を知っている者はいない。」
「お前にしか、あの娘を救えない。」
「だから、頼む。」
『混沌の神』は金の粒子となって消えた。
もう二度と、会えぬ予感を残して
「ふぅぅぅぅう…………………
やってやらァ!!!!!!!俺は勇者だぞ!!!!」
身より溢れた
総てを理解する。
空を蹴り駆けるのではなく天を舞う方法を
失った
魔王の痕跡を辿り、歩んだ
全ての権能を肉体、否、全世界を利用し、
空を越え、天を一直線に進み。
随分遠い所まで来た、
「魔王。」
衝撃をコントロールし、月面に降り立つ。
とても静かで、誰もいない、窪みや
起伏しかない灰色の砂漠だった。
何も聞こえない。俺の声も、魔王の声も
聞こえないだろう。
「何をしに来た?」
「質問ばかりだなお前、
母親に似たんだろう。
逆になんでそんなに他が気になるんだ」
『
「私には、
『こわい』
「この平和な街をまた、
『にくい』
「休日なのだろう。殆どの人間は、
嬉しそうな顔をしている。」
『にくい』
「戦禍を知らぬ者にしか、あの様な表情は
出来ない、穏やかで安らぎに満ちた顔だ」
『にくい』
「あんな顔は、初めて見た。私が見る人間の表情はいつも悲しみや憎しみや苦しみだ
当然だ私は人を殺し尽くす魔王だった」
『にくい』
「最早魔王でもなければ魔族すらいない、
私は何者でもない。ならば」
『さみしい』
「ならば『さみしい』私の居場所は無い。『にくい』勇者、貴様は我が『こわい』魔力でこの灰色の大地に封印してやる…!
簡単に『さみしい』殺しは…!」
『だれか、たすけて』
「止めろォ!!!!やめろ!!!
やめて……ぅぅぅう!」
「魔王、お前ももう止めろ。
それ以上己を傷付けるな。」
「何故魔族は滅びなければならないのか
どうして私は魔族を救えなかった、
私は、私は、誰もが畏怖する最強最悪の
魔王で在りながら……!
何故何も出来ない無能なんだ…!!!」
『かなしい』
「お前は、優しい。誰よりも」
「慰めなど」
「俺が決闘を挑んだ魔族の領主は、
お前を尊敬していた。
敬愛であれ畏怖であれ、お前という存在を王として認めていた。」
「そんな筈は」
「お前は……自分への侮辱が、その者達の
忠義を穢す事になるのすら忘れたか」
「お前は、あの時奴らが繋いだ命を、
願いと共に蔑ろにして、俺に負けやがった。
あと一撃喰らわせれば俺を殺せたのに、
馬鹿野郎、馬鹿はお前だ元魔王。」
「俺は、俺の下に積み上げられた、
惨たらしい血塗れの死体を忘れない、
死んでいった者達の嘆きも無念も忘れない、忘れないからこそ全力で生きるんだ。
俺達は、生き続けなきゃいけないんだよ」
無風の月に一陣の風が吹いた。目の前の
白い女は、泣きながら酷く震えていた。
「でも、わたしは、いきていて…いいのか?」
『こわい』
「良いさ、人間だって、魔族だって、
意思を持つ生物には生き続けなきゃいけない義務がある。」
「義務。義務か、どうして、どうして
辛い思いをして生きなきゃいけないんだ」
『しにたい』
「お前を知る全ての人が、願ったからだ。
魔族の領主達も、
「生きろ、我が魔王。俺は、お前と共に
平和な日常を過ごしたいんだ。」
「『いきても、いいのか?』」
「大丈夫だ、俺が必ずお前を守る。
お前が立ち上がるまで、お前を侵す全てから守ってやる」
「俺は『勇者』だ」
「『生きて、みたい。』」
「そうか」
「『穏やかに生きてみたい』」
「そうか」
「『幸せを知りたい…!』」
「そうか!ならば!俺はァ!!!
お前を全力で口説き落とす!」
「俺は勇者だ!お前の運命の男!
お前を幸せに出来るたった一人の男だぞ!!!」
地球では中天まで昇っていた
太陽が目の前にある、破滅的に美しかった。
「幸せに、してくれるのなら、
私も
涙の先に、女の笑顔を、俺は初めて見た。
あの世でも、この世でも、こんなに美しい
モノは無かった。
「決まりだ!」
果てが見えない程に大きい太陽は何時までも二人を祝福していく。
現世に生まれ、これからも悶え、苦しみ
ながらも、幸せに生きていかねばならない
二人の姿を。
『月に抱く。』死にたいひきこもり魔王を 愛する勇者の転生伝。 論理子 @ncr
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