新たな一歩


「では、アニスはもう、大図書館に縛られる必要がなくなった、と?」

「ああ。大結界の維持だけは欠かせないが、それ以外は仕事がなくなったようなものだ。それだって、一週間程度なら自動更新させることが出来るし、如月隊の力を借りてもいい。いっそ、魔女の国から追加で人員を呼び寄せてもいいな。現代の魔法技術の高さを見るに、魔女の数が増えたところで、依存は起きないだろう」

 と、俺の意図に気付いたか、アニスが微笑んで姉さんを見つめた。

「だから、館長として片斬に命じよう。――舞、お前も休暇を取れ」

「きゅ、休暇ですか? しかし姉様、それでは上に立つ者としての面目が……」

「そうだ。片斬である舞が休んでこそ、司書も休めるというもの。先の魔法武装の話と一緒だ。これからはしっかりと休みを取るようにな」

「は、はい。……ですが、休めと言われても、どうしていいやら」

 姉さんは、今日まで一日も休まずに働いていたのだ。その顔には困惑が浮かんでいる。

 だから俺は、アニスと姉さんを順に見つめた。


「それなら、俺に提案があります。――アニス、姉さん。一緒に外へ、太陽の下へ遊びに行きましょう。俺が帝都を案内します」

「外、か」

「外へ……」

「この大図書館の外にも、世界は広がっています。俺達が護ったものを、知識や思い出だけでなく、その目で見て欲しいのです。――そうだ。折角ですし、隊長殿もお誘いしましょう。きっと二つ返事で頷いてくれると思います」

「む……」

「神木道場にも顔を出したいですね。あの辺りも結構変わりましたし、父さん達も姉さんに逢いたがっていますから」

「むぅ……」

 マキ隊長殿と父さんの名を出したことで、姉さんが大きく揺らいだのが解った。

 その目が俺を見てから、アニスを見て、

「……姉様は、どうなさるのですか?」

「太陽の話は、前々から誠治としていたからな。いい機会だから、この目で見てみたい。三人一緒にな」

「……。……解りました。私も同行しましょう」

「決まりですね! 後で隊長殿に連絡しておきます!」

 笑みで言うと、姉さんが苦笑気味に微笑む。

 今はまだ抵抗があるだろうけれど、もっと気楽に、それこそ姉さんから『外に遊びに行くぞ』と言ってもらえるように、最高の一日を演出しなければ。

「嬉しい気持ちは解るが、まずは目の前の仕事だ」

「はい、解っています」

 姉さんの言葉に頷いて、俺は改めて報告書と始末書に向かい出す。

  

 これから、大図書館は大きく変化していく。

 三百年の不変から目覚めるのだ。時には選択を間違えることもあるかもしれない。

 それでも、焦らず、止まらず、前へと進んでいくのだ。

 これは、その第一歩だと思えた。







 そうして月日は流れ――四月。

 麗らかな春の日差しを全身で感じながら、俺は本物の太陽の下へ、愛する人達を連れ出したのだった。








 

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帝都大図書館にて。 ―悠久なる魔女の楽園― 宵闇むつき @redchain

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