EP03 境界

この世界には5つの大国が存在している。人族の国―エデル王国、亜人族の国―亜人連邦、エルフや精霊の国―ユグドラシル、唯一の中立国であるヘブン共和国。そして、これら4つの大国に対し永きに渡り戦争を続けている魔国。魔国は正確には国として認められてはいないが、その規模はどの国にも劣る事ないだろう。


魔国と対立する4つの大国は、条約を結び互いに協力し合い助け合う事を誓っている。特に陸続きであるエデル王国とヘブン共和国は繋がりが強く、もっとも親睦が深いのは疑う余地がない。ヘブン共和国以外の国は、国民である条件として何族であるかを定めてはいるが、特に差別の様な物はない。


観光等では普通に入国する事は可能だ、特例によっては種族が違っていても国民になることも出来る。他の種族を敬い、互いに助け合う、世界は平和に満ちていた。



――魔国を除いては



魔国の目的は不明である、馬鹿げた話だが、魔国が何故戦争を仕掛けるのか――それはどの国も正確な情報は持っていない。魔国にはヘブン共和国と同じく、様々は種族が属している。


魔国の王、魔王がほぼ全ての全権を握り絶対王政による支配。世襲制による、独裁の継続、など魔国が独裁国家である事は確かである。ただし、魔国に魔王以外に国の重要な権限を握る者がいる。



それが、十神滅と呼ばれる魔国最強の騎士団の第一席である。



十神滅は1人で大国の兵団と同等、いやそれ以上の戦力となると言われている。実際に記録上では第三席はたった1人で、1つの"軍"を虐殺した。故に十神滅は恐れられ、最優先の討伐目標として認識されている。



それらの点を踏まえ、エデル王国聖騎士団は2日後の開戦への対策を話し合っていた。










〈エデル王国―王城―聖騎士団本部〉


聖騎士団のメンバーは無論、その他兵団や、参謀等も交え2日後に迫るヘブン第一要塞での開戦について話し合う。しかし、ヘブン第一要塞は特殊だ、故に話し合う面々は眉間に皺を寄せている。



「ヘブン第一要塞は、我らの要塞である事は違いない……しかし、領土は完全にヘブン共和国の物だ。分かってはいたが、実際に攻められると辛いものがあるな」

「えぇ、ヘブン共和国へは既に魔法具にて伝達は完了。全面的な協力は得られそうですが……あまり、被害を出すのはまずいかと」

「……被害を出せば、ヘブン共和国に借りを作る、それは避けるべき」



話し合うのはエデル王国軍の兵長である、ハーバス。勇者アリスに賢者マギである。3人を悩ませるのはヘブン第一要塞の特殊性である、ヘブン共和国は魔国と陸続きで繋がる、簡単に言えば隣同士と言うことになる。そしてヘブン共和国を隔てて、エデル王国があると言う訳だ。


ヘブン共和国はお世辞にも戦力があるとは言えない、4大国の中で最弱なのは確かである。故にエデル王国は魔国と接する境界にヘブン共和国を防衛する為に要塞を建てた。第一から第三までのヘブン要塞は、ヘブン共和国にとって守りの要である。



「建設の際にもかなりの規模で反対運動が起きたからな……我々への宣戦布告がヘブン共和国に飛び火したとなれば、国民が黙っていないだろうな」

「……ヴィヴィアは、それを分かっていてヘブン第一要塞を選んだ」

「うん……それは間違いない、ヘブン第一要塞を過ぎれば目と鼻の先にヘブン共和国の中央都市がある、魔国は避けて通る可能性もあるけど……守りの要である要塞が突破されたなんて事になったら、エデル王国への信頼は地に落ちるからね」



他の騎士団員等は、装備等の点検を急いでいる。自分達が口を挟むより、3人に任せた方が良いことを自覚しているのだ、自らのするべき事を成すべき――彼らは今はもういない団長の教えを貫いていた。



「場所を宣言されたが、守らなければならない訳では無い……ヴィヴィアが作戦を変える可能性は?」

「それはない」

「……私もそれは無いと思う、ヴィヴィアは敢えてヘブン第一要塞を狙った、しかもこちらに宣言した上で……全ては私たちの信頼を他国から無くすための行動だよ」



自らを偽善者と笑った魔王に、アリスは顔が歪む。しかし彼女は止まらない、自らの行動を正しいと信じているから、只の我儘だと知っていても……また彼の隣にいたい。それが願いだから、これは自分の歪んだ願い。



「防衛結界は、私が限界まで強化する」

「それで防ぎきれるか……そうであって欲しいが」

「破られると思って行動して、アルフレッド様があっちにはいる」



その一言で、3人に周囲の視線が向けられた。悲しい顔をする者が殆どである。アルフレッドの存在は彼らにとってそれほど重要な事であった、俯くマギに騎士団員であるロットが声をかける。



「マギ様、あの者は既に敵です。様など呼ぶのは兵の指示に影響を及ぼす可能性もあります。それに……そのような価値もございません」

「…………アルフレッド様は帰ってくる、私が帰らせる」

「この戦いで私が裏切りの剣聖を討ち取ります、マギ様とアリス様をあの者から解放するのは私の使命です」



ロットは曇りの無い眼でマギを見つめる、マギが視線を合わせる事はない。ロットが顔を歪め、去っていく後ろ姿をマギは只見つめるだけだった。その時、マギが何を思いロットを見つめていたのかは、誰にも分からない。







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