EP05 ダモクレスの剣
―EP05 ダモクレスの剣―
〈魔国領土内〉
ヘブン第一要塞より南西へ20km程離れた魔国領土、岩場に囲まれ人気のある場所では無い。しかし、その場には異様な光景が広がっていた。ヘブン共和国の方角へ向けて、何かが地面を抉った様に地面が削り取られていた。
その異様な空間に声が聞こえた、透き通る様な声で異様な光景を作り出している抉れた地面の発生点に佇む男に何やら報告をしている。
「第2射、目標へ命中、誤差なし」
「了解した。直ぐに第三射を撃つ、リンクは俺との同調を再開してくれ」
「―――」
男の名はアルフレッド・ヴァーカイン、エデル王国を裏切った大罪者である。彼の周囲に立つ、4人の人物――1人は2日前に共に王城に参上したメイド、フェルリナである。先にアルフレッドへ報告を行っていたのも彼女だ。
アルフレッドは体制を低くし、投擲体制を整える。高く上げられた掌には魔法陣が展開し、アルフレッドが最強へと上り詰めた最大の要因である"神器"が展開される。
――その名は、ダモクレスの剣
アルフレッドの願いを叶える為、常に姿を変え、その性質を変え、概念そのものさえもねじ曲げる存在。正しく神の所業を可能とする剣だ、ただし――アルフレッドが使うからこその"強さ"が、彼自身の強さの根源共に言えるのもまた事実である。
「―――?」
「あぁ、大丈夫だ。第三射、投擲後は俺は暫く動けない。フェルリナ、メア、アルヴェス、作戦通りに頼む、あくまでも最優先目標の奪取が優先だ」
「あぁ、わかった」
「はぁ~、かったるいっすねぇ……あっ、でもでも!アルフレッド様が1口"食べさせて"くれるなら自分頑張っ…………あ、なんでもないっす。フェルリナ様……足が痛いんすけど」
「気の所為では?」
戦場とは思えない、彼女達の談笑を背景にアルフレッドは体に力を込めた。彼の直ぐ隣にいる少女……口が何やら拘束具の様な物で塞がれ声を発する事が出来ないようだ。リンクと呼ばれた少女がアルフレッドに手を伸ばす、すると彼と少女の間には黒い線のような物が現れ、2人を繋ぐ。
「―――■■■」
「神器の同調確認、ダモクレスの剣、撃つ」
彼の手から、3度目となる光の槍が解き放たれた。
〈ヘブン第一要塞―司令室〉
2つ目の槍が賢者の羽衣に衝突し、その衝撃と起きた事態への理解不能さがマギを混乱させていた。彼女が展開した賢者の羽衣はマギが己の術式研究の粋を集めて完成させた防御結界術式である。
先の2度に渡る、ヘブン第一要塞を襲った衝撃。物理的な衝撃波が要塞内部にある司令室まで伝わるのは何故か――簡単だ、全てのエネルギーを打ち消すのには賢者の羽衣では足りないからだ。賢者の羽衣は魔法エネルギーを真っ先に打ち消す様に術式が組まれ、その次に物理的なエネルギーを吸収する様に組まれる。
魔法や術式を発動させる為に必要な魔力は、体内と体外にそれぞれ存在している。しかし、1部の人物しか体外魔力や他人の魔力を借りて行使する事は出来ない。それは人にはそれぞれ性格があるように魔力にも個性というものがある、他人の魔力を使えば当然の様に拒絶反応が起き、体外魔力に関しても変わらない。
「ありえない……絶対にありえないのに、あんな魔力量はアルフレッド様でも足りる筈ないのに」
「マギ!」
未だに思考が正常に戻らない、マギの肩を彼女の名を叫びがながら誰かが揺さぶった。
「あ、アリス……直ぐに結界の修復を」
「マギ落ち着いて、もう結界の修復は間に合わない。多分、直ぐにもう1発撃たれるって考えた方がいい。そうしたら、もうあの結界は突破される、結界の修復は自己再生に任せて、マギも早く戦う準備をして」
「ち、違う!私の結界はそんな……そんな、それにもう1発なんてありえない!!」
バシンと、乾いた音が司令室に響く。マギが頬を抑えるとそこには鈍い痛みがあった。目の前を見ると右手を振り切った状態のアリス、彼女はマギの目を見つめ静かにマギに言う。
「現に2発目が放たれてる、常に最悪の展開を考えて行動して、いい?マギの結界の質なんて今はどうでもいい、防げないから現に結界に"ヒビ"が入ってる。今出来る事をして、戦って、直ぐに」
「…………ごめん、取り乱した」
「大丈夫、叩いてごめん。…………ガリアスさん、全兵に知らせて下さい。恐らく来ます」
彼女の言う事実を察したガリアスは顔を歪めさせ、連絡兵に事を伝えた。最悪の事態だ、これだけは避けたかった。
「十神滅が来ます」
――3度目の衝撃が襲う
〈ヘブン第一要塞―壁内〉
要塞内は全ての兵士が訪れる死を前に内心怯えていたが、全員その恐怖に屈すること無く武器を構え"破られた"結界の穴を見つめていた。
「いいか、敵が現れた瞬間を狙え!全力で撃ち込め!!」
兵士達の間には緊張が走る――と次の瞬間だった。ナニカが結界の穴を通るのを兵士達は見た、一瞬の驚愕……そして、全力での魔法詠唱を始めた。
「撃て!魔力が尽きるまで打ち続けろ!!」
数千、数万の魔法が穴付近に直撃し、その爆風等で何も見えなくなった。
「美しくないな」
魔法が全て"切断され"花びらの様に舞い、その花びらの奥に怪しく光る赤い光が1つ。その光は声を発した物が持つ武器から発するもの、東の倭国に伝わる刀と言われる剣から発っせられたものだった。
「くっ……なんだと、我々の魔法が」
「美しくない……が、安心しろ全ての生命の最も美しく瞬間は、その命を散らす瞬間……あぁ、あの花に勝るものは無い」
赤い服に身を包み、長い黒髪が空に揺れる。その妖艶な姿は見るものを魅了すると言える……が、その姿は兵士達にとっては怪物、その物だった。
「じ、十神滅」
「ほう、我々を知っているらしいぞヴェス」
「そりゃあ、知ってるっすよ。まぁ、いいっすね……んで、どれが自分の食料っすか?」
「そうですね、左側は私、中央をメア様、右側をアルヴェス様でいかがでしょうか?」
「はーい、了解っす……んじゃあ、早速いってきまーす」
軽い口調で答えるアルヴェスと呼ばれたエルフの少女、犬が座った様な体制からまるで品定めをするかのように兵士達を見下げる。そしてニタっと邪悪な笑みを浮かべると、ある兵士を指さした。
「君に決めたっす♪」
彼女の名はアルヴェス、十神滅、第五席―人喰い―アルヴェス。嘗て大量の同族喰いによって里を追われた哀れな呪い子である。
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