導入編3 素質
第10話 4つのゲーム
レクリエーションは、何とも言えない体験だった。4つに区切られたエリアには、それぞれ何個か同じブースが置かれていて、ボクらと同じローブを着たお兄さん、お姉さんが、ブースの机に様々な道具を並べてスタンバイしていた。
ボクたち新入生は、大きな十字マークで4マスに区切られた紙をうさぎ先生から貰うと、各々が『ビンの色合わせゲーム』『音当てゲーム』『箱の中身当てゲーム』『ドキドキカステラゲーム』を、空いてるところから順に遊んでいった。
『ビンの色合わせゲーム』は、机にバラバラに置かれたカードから、4つのビンに入っている液体と同じ色のカードを探すゲームだ。
どれも液体がぼうっと光って色が分かりにくかったけど、この色が近いかなぁ?とカードをビンの横にかざたりしながら悩んだ結果、ボクは『赤、ピンク、黄、紫』のカードを選んで並べた。
お姉さんはまじまじとカードを眺めた後、「ふむ……そうですね。では次のビンを用意しますから、少し目を閉じておいてください」と告げる。すると、別のお姉さんが後ろから、僕の目を手でそっと覆った。手の温もりで、心なしか目が暖かい。
しばらくカチャカチャと音がした後、覆っていた手が外されると、液体の色が変わっているので、またカードを選ぶ……を2,3回繰り返したかな?
最後に『白、赤、緑、青』のカードを選ぶと、「はい、よくできましたね」と言われ、もってきた紙に綺麗な虹色の『◎』スタンプを押しておもらえた。なんだかうれしい。
「それでは次は……あちらの『音当てゲーム』が空いていますね。恐らく、つまらないと思いますが、ご容赦ください」
そう言われた『音当てゲーム』は、その通り、とても難しかった。まず最初に、ついたての向こう側で、お兄さんがコーン、コーン、コーンと音を3回鳴らす。その後、1回だけコーン、と鳴らされて、
「さて、何番目の音と同じに聞こえた?」
と訊かれるんだけど……これがもう全部一緒で、なーんにもわからない。
「どれもいっしょ……?」
そう答えると、お兄さんはウンウンと頷き、
「そうだよなぁ。難しいよな、コレ」
と同意してくれる。どういうことなんだろう。
ビンの色合わせと違って、こっちはこの一回ですぐ終わり、紙に黒色の『♪』スタンプが押された。なんとなく納得がいかない。
次に遊んだ『箱の中身当てゲーム』は、中が見えない箱に、手を入れて中身を触り、何が入っているかを当てるゲームなんだけど……箱に手を入れて、中を恐る恐る探ってみると、不意に指先に硬くて冷たいものが触れ、ひゃっ!?、と慌てて手を引っ込めた。
「どんなかんじだった?」
と、お姉さんに聞かれ、ボクはローブに手をバサバサと擦りながら
「なんか、冷たい石、が……?」
と答えると、
「大正解~!」
と頭をわしゃわしゃされ、紙に青色の『◇』のスタンプが押された。箱の中身は見せてもらえなかったけど、もうあれは触りたくない。
最後の『ドキドキカステラゲーム』は、小さな丸いカステラが8個用意されていていて、こんがりと焼けた表面の香ばしい臭いがたまらない魅惑のゲームだ。
「この美味し~いカステラの中に、1個だけ!変な味のカステラがあるよ!私と交互に1個ずつ食べていって、そのハズレを食べたほうが負け!さぁ、スーラくんから、どうぞ!」
と、楽しそうに説明するお姉さん。添えられている水入りのコップは、ハズレを食べた人への救済アイテムだろうか。
……ボクが真剣にカステラとにらめっこしていると、
「おやおや、慎重だねー、じゃあ、臭いをかいでみてもいいよ?多分わかんないと思うけどッ」
と提案してくれたので、クンクンと臭いをかいでみる。……グゥー、とお腹が鳴った。うん、とても美味しそうだ。全然わからない。
意を決して1つ選び、口に運ぶ。──サクッとした触感の皮の中には、ふわふわでやさしい甘さの生地。もぐもぐと動く口の中は、全く間に幸福が溢れかえった。
「だ、大丈夫?ハズレだったらペッ、してもいいよ?」
そう心配され、ボクは自分が涙をこぼしていることに気が付いた。ごくん、と飲み込んで、
「ううん、おいしくて……」
涙を袖で拭いながらそう答えると、
「えーっ、そんなことある!?もう、紛らわしいなぁ!」
と、笑いながらデコピンされた。
最終的に、残り1個になるまでハズレが出ることはなく、幸せなおやつタイムが続いただけだった。そして、残り一個は当然、お姉さんの番だ。
「……これ、もう食べなくてもいいよね?」
苦笑いしながらそう訊いてくるお姉さん。そんなお姉さんに、なんだか申し訳ない気がして、ボクはちょっとだけ、バカな漢気を見せようと思ってしまったのだ。
「じゃあボクが、食べます…!」
と言って掴んだカステラを、
「わぁぁ!ダメーッ!」
慌ててそう叫んだお姉さんが、サッと掠め取り──そのまま自分の口に放り込んだ。
二人でしばらく硬直した後──お姉さんが、ソレをそっと噛んだのが分かった。すると、じわりと、お姉さんの目に涙が浮かぶ。──直後、ガッとコップを掴むとググッと一気に飲み干し、プハーッと息を吐いた。
「あーッ!アタシの完敗だよ、ボウヤ!」
などと、おかしな声で謎の決めゼリフを言いながら、お姉さんは豪快にポン!とスタンプを押してくれた。それは虹色の『☆』のスタンプだった。
そういえば、ハズレは結局どんな味だったんだろうか……
猫の器 そくほう @foottreasure
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。猫の器の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます