オルゴール

 オルゴールの起源は500年程前の今のイギリスにある。


 時計職人であったリチャードの趣味は音楽鑑賞であった。とはいえ、コンサートに頻繁に行ける程裕福ではなく、職業柄器用ではあったが自らの音楽の才能は皆無で楽器の演奏など出来るはずもなかった。


 そんなリチャードは常に音楽と供にある生活が出来ないかと考え、自動演奏機の開発を始めた。時計職人の技を駆使し楽器を嗜む友人の協力も得て3年の月日を費やし自動演奏機は完成した。


 初めは自分自身のために作った物だったが、その画期的な発明はすぐに世間が知る所となり、彼のアトリエには見物人来る様になった。


 そんなある日、リチャードの元に1人のフランス人と通訳の男が訪ねて来た。無論、リチャードの自動演奏機を見るためである。ひとしきり演奏を聴いた彼は通訳を通してリチャードに質問をした。


「リチャードさん、こちらはフランスの実業家、アナトールさんです。彼は言っています。これはずっと同じ音楽が流れていますがどこがスタートなのですか?」


「はあ…まあ、別にどこから聴いても良いんで全部がスタートと言っても良いんじゃないですかね?」


 通訳はアナトールにフランス語で何やら言った。

 実はこの通訳は学生でフランス語をかじった程度の男であった。この事がこの自動演奏機の名前を決定づけてしまうのだ。


「彼は言っています。ではどこがゴールなのですか?」


 これが誤訳であった。実際にはアナトールはこの機械の名前を聞いたのである。それをこの知ったかぶりとんちんかん野郎は適当に通訳したのだ。


「いや…だから、さっきの話からすれば、全部がゴールですよ。」


 お分かり頂けただろうか…。名前を聞いたアナトールはこのリチャードが発した「全部がゴール」がこの機械の名前と勘違いしたのである。英語で「全部がゴール」つまり「オールゴール」である。


 実業家のアナトールはリチャードにこの機械を大量発注し「オールゴール」として売り出した。そしてその名前は現在「オルゴール」となったのである。



 嘘だけど……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘起源物語 ポムサイ @pomusai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ