エピローグ

    ◆探偵 立花レン



「……良かった」


 僕は顔がほころぶのを自覚した。

 正直、このような結末になる様に仕向けるつもりは昨日時点では全く無かった。

 しかしふと、もし雨下ふらしが目覚めていたら細かい部分の確証を得る話を聞いてからにしよう、と思い立ってブロードスカヤさんから聞いていた病院に寄った所、彼が抜け出していた所にばったり遭遇したのだ。話を聞くと、彼は彼女を大切に想っているということがよく分かった。

 だからこそ、こっそりとここまで連れて来たのだ。


 ……バレたら怒られるけど、まあ、この結末を得られたことでよしとしようか。


 僕はゆっくりと腰を上げ、2人の邪魔をしないように彼女の部屋から外へ出て行く。


 この先、彼女が刑事罰を受けるのか、それとも示談なのか、被害届けすら出さないから事件も無くなるのか――そんなのは分からない。

 だけど、2人の間でわだかまりが無くなったのは確かだ。

 願わくばこのままでいてほしい。


 僕はバッドエンドは嫌いだ。

 ハッピーエンドが好きだ。

 世の中は全部、幸せで満ちてほしい。


 しかしながら、リアルでは困難なことがある。


 例を挙げるならば、子供の時になりたかった職業。

 実際になれる人など一握りだろう。

 みんなどこかしらで限界を知り、諦めてしまう。


 だけど――仮想空間ならば何にでもなれる。


 空だって飛べるし、探偵だってなれる。なんならAIにだってなれる。

『楽しいこと』に対して無限の可能性だって秘めている。


「……そういえば、今回の事件は『楽しいこと』がキーになっていたな」


 デスBANをしたら楽しいだろう。

 楽しいことが脅かされたから犯行に及んだ。


 このようなことが引き起きてしまうことがあると考えると、楽しいを求めるのは難しいのかもしれない。


 それでも。

 僕はVtuberであることを楽しんでいる。

 それだけは間違いない。


 この楽しい世界を、全力で楽しむために努力する。

 それもまた楽しい。

 探偵として、間違いなく楽しんでいる。

 それを改めて自覚できたことが、この事件に関われたことで良かったことだろう。



 さて。

 この事件はここで終わりだ。

 自分の心の中の事件簿にだけ記しておこう。



 では家に帰り、1人の探偵Vtuber、立花レンに戻ろう。

 仮想空間には僕にとって楽しい、が待っているのだ。

 

 そう。

 楽しい世界は、いつだってそこにあるのだ。



                          Vtuber殺人事件 完

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Vtuber殺人事件 狼狽 騒 @urotasawage

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