第4話
そして月日が流れた。
この一年で僕をとりまく環境は少し変化しつつある。以前、脚本を書かせてもらったオーディオドラマが好評で、その方面の仕事が増えつつある。小説も僕にとっては好調で雑誌に短編を載せてもらえるようにもなった。
正直に告白すると一年前の僕は作家として自信をなくしていた。書き続けるべきかどうか悩んでいた。あのとき柊子が僕の本を読んでいなければ筆を折っていたかもしれない。だから柊子は僕の恩人ともいえる。
ときどき思うことがある。
僕は柊子に恩返しをすることができたのだろうか。不安や孤独を少しでも取り除くことができたのだろうか。
そのことを話すと夏海は笑ってこういった。
「大丈夫。お姉ちゃん、ありがとうっていってたじゃない」
あれ以来、柊子と会うことはなかった。だから答えを知る術はないのだけど、僕は夏海の言葉を信じることにした。そうしなければ柊子も僕も救われないような気がする。
今日はクリスマスイヴ。
僕は安中榛名駅を訪れて夜空を見上げている。視界には、あの日と同じ星空が広がっていた。
柊子、きみに報告することがあるんだ。
今、僕はきみを主人公のモデルにして小説を書いている。残念ながら出版されるかは分からない。勝手なことをして、と怒るかもしれないね。でも僕は少しでも誰かにきみのこと──きみの孤独を知ってもらいたいと思ってる。きみの人生をページにつなぎとめておきたいんだ。
星空を見上げながら柊子に語りかけた。いつまでも、いつまでも。
ラストクリスマス ひじりあや @hijiri-aya
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