自殺志願者の夢

サーナベル

死にたい

私は誰もが羨む家庭で育った。

優しい父。頑張り屋の母。そして3歳年上の陽気な兄。

家庭円満。金銭問題に支障が出ることもなく、私がイジメに逢うこともなかった。

何もかもが上手くいっていた。


仮に私の名前を幽(ユウ)としようか。ある日を境に私、幽の日常は壊れた。兄が大学入試で失敗して、ネトゲ廃人になったのだ。都会にしては寂れた街だったから、その噂は尾ヒレを付けながら拡散した。

当然のように、私はイジメられ、両親共に世間一般的に肩の狭い想いを強いられた。

私は気が弱かった。臆病と言ってもいいぐらいだった。

夢の中で私は自殺していた。



血が見える。鮮血とはこんなに綺麗な赤色なのだ。感動すら覚える。

痛みは--感じない。感覚が狂っている。ただドクドクと脈打ち、血を垂れ流しにする左手首を見て自分がリストカットしたのだと分かる。

これで楽になれる。少なくとも誰かが助けてくれる。私を追い詰めた人達が罪悪感を抱いてくれる。

裸になったひょろひょろの自分を見て考えた。

--本当にそうだろうか。根性なしとしてより見くびられるだけなのではないだろうか。留年して歳下の玩具にだけはなりたくない。


絶対、死ななくては…ッ!!


私はまだ新しいカミソリを取り出した。予防接種の注射器でチクッとする痛みを拡大させたような痛みを抱きながら、歯を食いしばって力一杯肉を引き裂く。

「うぁぁぁあ!!!」

私はむざむざ泣き喚きながら、パックリ割れた左手首を眺めた。色んな神経が千切れている。

我が手首の惨たらしさの余り、嗚咽に混じってゲロが溢れ返った。

失血死手前だったのだろう。よろけながら、血塗れのバスタブの熱湯にもう人間の身体として機能しない左手首を浸けた。

油の中に放り込まれた唐揚げの肉になった感触だった。

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