Tico ♪Tico ♪

AKARI YUNG

Tico ♪Tico ♪

 土曜日の朝。あたしはママとパパと遅い朝ごはんを食べる。キッチンのテーブルに向かい合う二人の話を、コンフレークとか食べなから聞く。


 ママが紅茶を一口飲んでカップを置き、頬ずえを付いてから言う。


 「ねえ、パパ」


 パパは、「ん?」と、眉毛を上げてママの顔を見る。あたしは、パパの、ん?の顔が好きだ。


「隣の奥さん、旦那さんから、目をつぶって手を出して、って言われたんですって」


 パパはいちごジャムがたっぷりのったトーストをかじりながら頷いた。


「で、奥さんの親指と人差し指の先をつけて輪っかを作って、目を開けてって言ったらしいの。目を開けたら、旦那さんが瞬間接着剤を持って笑ってたんだって!」

「それ本当なの?」

「どうやっても、くっついた指は離れなかったらしいわ。泣いたって!」

「それで?」


 パパは、一口サイズになったトーストをぱくっと口に入れた。


「お湯の中に指を浸けて、何時間かかけて離したらしいわよぉ~」


 パパは呆れた顔をして、「何しやってんだ……」と言って、それからママとパパは顔を見合わせてクスッと笑った。あたしは思った。つまり、「しゅんかんせっちゃくざい」は、すごいって。


 しゅんかんせっちゃくざいは、確か小さな赤色の細長いやつだ。ママが「それは危ないから使わないで」って言ってた。


 でも、それは4歳の頃の話だ。


 あたしはこの前5歳になったもの! そう! 誕生日が来たからもう5歳なの! 大丈夫! 「しゅんかんせっちゃくざい」は、なんでもくっつけるやつだから危ない。でも指にくっつけなければ大丈夫。便利なやつってことでしょ? わかる! もう5歳だもの!


 ☆   


 あたしの夢は、黄色い小鳥と、青い小鳥を肩に乗せて散歩すること。だから、ママは、この前の誕生日プレゼントに、あたしの好きな鳥のオブジェというのを買ってくれた。


 黄色い小鳥の名前はTicoティコ

 青い小鳥の名前もTico 。

 だから2つ合わせてTico♪ Tico ♪


 TicoTicoは、あたしの部屋の本棚の上に飾ってある。


 もう一つの誕生日プレゼントは、水色のワンピース。とっても素敵だけど、何にも模様がないの。袖のはしには、白いレースが付いてて、それがお上品で良いんだとママが言ってたけれど……。


 ふふふ♪ だから、あたしは思いついたわけ! 


 ☆


 土曜日の遅い朝ごはんが終わると、ママもパパもお庭をいじる。だから家の中には誰もいない。あたしは、部屋を静かに出た。


 ママがいないか一応確認した。


 だって、一度使っちゃダメだって言われたから、なんとなくね。ママがよく言う、ねんにはねんっていうやつ。


「しゅんかんせっちゃくざい」は、リビングの棚の右側の3つある引き出しの真ん中に入っている。あそこに「ぶんぼうぐ」が一杯入ってるの。


 そぉっと、そぉっと歩いて、引き出しの前に立った。引き出しは、丁度あたしの顔の前。もう5歳だもの。中を見れるくらい背が高い。


 ゆっくりと引き出しを開けると、ずずずずずって音がした。赤色の「しゅんかんせっちゃくざい」はすぐに見つかった!引き出しを閉めたら、今度は、ずっすーって音がした。


 あたしは、「しゅんかんせっちゃくざい」を持って走る。部屋に入って、ドアを閉めた。本棚の上に飾ってあるTico Tico を見る。


「ふふふっ! 夢が叶う!」


 ☆


 水色のワンピースは、カバンとか引っかけるラックにハンガーでかけてある。少し背伸びをしてワンピースを取ってハンガーを外して床に置いた。


「しゅんかんせっちゃくざい」の蓋を持って、ぐって力を入れて回す。大丈夫。幼稚園でボンド使ったもの。ちゃんと開けれる。


 蓋を開けてゆっくり押すって知ってる。


 「しゅんかんせっちゃくざい」の真ん中を押しながら、ワンピースの肩のところにぐにゃぐにゃって、少し出した。それから、「しゅんかんせっちゃくざい」を床に置く。そっとね。コトン。急いで黄色のTico を棚から取って、Tico のお腹をぐにゃぐにゃしたところに付けてみた。


 大丈夫そうだ。黄色いTicoはおとなしくくっついている。


 床の上の「しゅんかんせっちゃくざい」を取る。もう1度、反対側の肩の上にゆっくりと、ぐにゃぐにゃと塗った。また、コトンと床に置いてから急いで、青いTico を取って青いTico のお腹を付けてみる。


 「ふふふ♪ うまくいったみたい!」


 あとはちゃんと、「しゅんかんせっちゃくざい」に蓋をする。そして、引き出しに戻しに行けばいい。きちんと蓋をしめた「しゅんかんせっちゃくざい」を持って、急いで部屋のドアを開けて、引き出しのところへ駆けていった。引き出しを、ずずずずっと引いて、ぽんっと、「しゅんかんせっちゃくざい」を入れて、ずっすーっと閉めた。


 ☆


 部屋に戻ってからワンピースを持ってみる。小鳥は外れない。


「ふふふっ! ちゃんとくっついてるぅ~!」


 急いで、洋服を脱いでワンピースを着てみた。チャックは横についてるやつだから一人で着れる。急いで玄関に走っていって、玄関にある大きな鏡を見た。


「あたしの肩の上にちゃんと小鳥が乗ってるぅ~!」


 嬉しくなって大きな声を出した。そしたら、ママとパパが、「いじる」を終わらせて、玄関のドアを開けて入ってきたから、あたしは、


「ママ! しゅんかんせっちゃくざいってすごいね!」


 って言ったの。そしたらママはあたしを見て目を大きくしてから口も大きく明けてから、「はっ!むんんっ……」って言いながら口を閉じたの。


 ママとパパが顔を見合わせて笑った。


 ☆


 土曜日の夜は、パパが絵本を読んでくれる。あたしは、ベッドの中で、うさぎのぬいぐるみを抱きながら、それを聞いてる。


 そして、パパが読み終わったら、ちゃんと眠る。白雪姫に出てくる小人が、「すぅ~すぅ~」と眠るのを見てるから大丈夫。あたしも、ちゃんと「すぅ~すぅ~」と言ってる。そうするとパパは「寝たんだなぁ」って言う。


 あたしはママが「ハム」って言ってから笑うのは、何か、あたしが本当はしてはいけないことをしてしまったからだと、知ってる。


 それは4歳の時にわかったこと。

 それを「いたずら」と、呼ぶんだって。


 そして、いたずらをした日の夜は、ママとパパは、キッチンで、あたしの話をする。あたしは、その話をドアを少し開けて、こっそり聞いてる。


 ママとパパはそれを知らない。ふふふ♪


 ☆


 パパが絵本を閉じながら、「おしまい」と言ったから、あたしは「すぅ~すぅ~すぅ~……」と言った。パパは、「寝たんだなぁ」と言いながら、絵本をベッドの横の本棚にしまう。それから、あたしを起こさないように、静かに「おやすみ」と言う。あたしはそれには返事をしない。だってあたしは「すぅ~すぅ~……」と言って寝てるんだから。


 ☆ 


 ドアが閉まる音が聞こえたら、あたしはパチリと目を開けて、静かに起きあがる。そおっと、そおっと、ドアへ歩いて近づく。ドアをほんの少しだけ開けて、耳を隙間につける。キッチンはすぐ側だから、パパとママの声はばっちり聞こえる。


「もう寝たかしら。」

「寝たよ。すぅ~すぅ~って言ってたもの」


 ふふふ♪ やっぱり寝てると思ってる!


「今日はびっくりしたわね~。あのワンピース高かったのよぉ~」

「そうだね。どうして怒らなかったの?」

「だって、ずっと前から小鳥を肩に乗せて散歩したいって言ってたから」

「そうか~。そういえばそうだったね~」

「でもね。洋服に勝手に何かつけたり、切ったり、もしくは色をつけてはダメって教えなくてはね」

「そうだね。今度洋服にいたずらをしたら、パパがしっかり怒りましょう」

「そうね。そうしてください」


 ふふふ♪ 大丈夫。あたしは聞いてる! 怒られることはしない!


「私、寝顔見に行こうかしら」

「うん。僕も一緒に」


 あたしは、ちゃんと静かにそぉっと、そぉっと走ってベッドに入る。ちゃんとうさぎのぬいぐるみを抱いて寝る。布団をかぶって「すぅ~すぅ~、すぅ~すぅ~」と言う。


 ドアが開いた。ママとパパが静かに歩いて入ってくる。

 あたしの顔を見て言っていた。


「ふふふ。夢が叶って良かったわね」

「よく寝てるねぇ。ちゃんと、すぅ~すぅ~言ってるな」


 ☆


 これが、あたしのいたずらをした日の、夜のいたずら。ふふふ♪ あたしはいたずらが上手!



 Tico♪Tico♪ おしまいっ♪

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