へんにゅう
小梨羽音
第1話
「あ、赤ペン先生だ。」
入口を見て、沙也が言う。
入口では、メガネ、黒のジャンパー、スラックス、薄汚れた白のトートバッグという、なんとも冴えない格好の、なんとも冴えないおじさんが、空席を探している。
「何の勉強してるか分かんないけど、まじめにやってるのに報われない感じ、可愛いですよねー。」
沙也は、回し車を一生懸命回しているハムスターを眺めるのと同じ目をしておじさんを見ている。
そんな憐れなおじさんは、店の奥の方のテーブルを選び、トートバッグと向かい合わせに座ってメニューを眺め始めた。
「毎日頼む物決まってるのに、メニュー一通り見るってのも、なんかけなげで可愛いですよねー。あ、オーダーとってきます。」
沙也よ…可愛いの閾値低過ぎないか?
ニコニコしながらオーダーをとる沙也を横目に、有理は空いたテーブルを拭き始めた。
有理は、おじさんが何の勉強をしているのか知っている。
そして、沙也が言う通り、その勉強が限りなく100%に近い可能性で報われないことも。
へんにゅう 小梨羽音 @agedashi
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