【あとがき】

あとがき

 この度は、拙作「皿の上で生まれたわたしは」を読んで頂きありがとうございます。サークル「萬楽破天孔」としては初めての媒体である「小説」。いかんせん、素人の域を出ない文章ではありますが、「けものフレンズ」という作品に対して私の抱く思いを、普段とは別の形で感じ取って頂ければ幸いです。

 私は、けものフレンズという作品が大好きで、その優しさに、楽しげな冒険に、心癒やされているファンの一人です。アニメ一期以降で描かれる「文明崩壊後のパーク」と言う設定は、我々人間を「過去の存在」とすることで、その営みを、動物の魅力を、純粋に楽しめる形へと昇華しました。これはとても偉大な発明であると思っています。

 ……しかしその反面で、私は「人間の不在」に、ある種の居心地の悪さを感じてしまう時があります。偽らざる現実として、私たちは動物たちに対する業を抱えて生きています。そんな中で「崩壊」の作中設定が「仮想的な贖罪」として働き、現実における「動物と人間」の関係性から目を反らしてしまうのではないか、そんな不安が時折脳裏をよぎるのです。

「私たち人間は動物と友達になれるのか」と言う問い。これに対し、「文明の支配者」と言う要素をオミットした「ひとつの動物種としての人類」の代表たる「かばんちゃん」は、「友達になれる」と全面的に肯定する答えを導きました。それは、人間として生きる私にとって、暖かな救いであると同時に、一つの問題を提起することになりました。「文明の当事者としての人間は、アニマルガールと友達になれるのか」です。

 この物語は、それに対するアプローチのひとつです。パークには様々な動物がいて、それぞれ異なる境遇を抱えています。それと関わる人々もまた、各々異なる葛藤を抱えていることでしょう。時には互いに傷つけ合いながら、それでも隣人を幸せにするために、寄り添い支え合おうとする「人間」と「フレンズ」の関係性。それを描くべく、文明存続中のパークを舞台に、物語をしたためました。


 この物語はあくまで娯楽作品であり、食肉用の家畜飼育をとがめたり、人為的絶滅を糾弾したり、愛玩動物の殺処分を非難したりと言った、動物愛護を啓蒙するスタンスとして描かれているわけではありません。……もちろん、私自身の生命に対する倫理観として、それらの現状に思い悩むことはありますし、現実において持っている、終わりのない葛藤の一つではあります。ですが、この話は「ジャパリパーク」と言う特殊な世界において、「人間と言語での意思疎通が可能になった動物」を前にした人々が、これとどう関わっていくのか、何に悩むのか、どういった覚悟を抱くのか、それを描くものです。

 アニマルガールという存在の仮定は「現実には起こりえないフィクション」ではあります。ですが、そのフィクションを「現実」として生きている「パークの人々」は、これらと向き合って結論を出そうとします。それを追体験することが、読者の皆様の、あるいは筆者である私自身にとって、「今まで見逃してきた何か」への気付きに繋がるのではないか、そういった期待を持って、この物語を執筆しています。


「飼育員」は他人の意見や、身の回りに起こる変化で、価値観がコロコロ変わります。遠回りに遠回りを重ね、「トンちゃん」の本当の願いに辿り着くのは本当に最後です。しかし、それは「飼育員」ひとりの結論ではなく、多くの人々が「フレンズ」に抱いた「悲しみ」を、バトンとして受け取り導き出したものです。そして、この物語を読んで頂いた皆様もまた、そのバトンを「受け取る側」に立つのではないかと思います。

 私はこの物語で、人類にとって普遍的な「結論」を伝えることは出来ません。私自身がこれらの問いに対する明確な答えを導けていない以上、無理からぬ話と思います。なので、私が読者の皆様に伝えたいことは「こんな状況になったらどうしよう?」と言う仮定と、ひとりの人間が置かれた状況に置ける「悲しい気持ちや葛藤、結論の形成過程」です。

 「答えは出せなくとも、誰かの悲しみを知り、傍に寄り添う事は出来る」ということ。それこそが、「自分以外の誰かアニマルガールと、友達フレンズになるために大事なこと」ではないかと、私は考えています。

 願わくば拙作が、動物に、隣人に対して「優しくありたい」と思うためのきっかけになれることを願い、ここに筆を擱かせて頂きます。


 けものに、そしてあなたに、幸あれ。

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皿の上で生まれたわたしは CarasOhmi @carasohmi

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