広報部の活動

 広報部の主な活動は、キャラクター監視管理協会の活動を世間へ広く認知してもらうためパンフレットの作成やテレビCM、ネット広告を出稿しPRすることだ。

 協会の公式キャラクターである「デイリーちゃんとドリームくん」も広報部が手がけたキャラクターである。もちろん協会の規定通り、デイリーちゃんもドリームくんも出生届と活動許可申請書、さらに定期的な活動報告書を届け出している。

 出生届の設定によるとデイリーちゃんとドリームくんは六歳の双子の姉弟。姉がデイリーちゃん、弟がドリームくん。デイリーちゃんは金髪の女の子で頬のそばかすがチャームポイント。ドリームくんはツバ付き帽子を被った野球少年。

「また書き込まれているわ、イヤだわね」

 真亜子まあこはパソコンに向かって独り言を言った。

「どうしたの? 真亜子?」隣のデスクの恵美えみが尋ねる。

「これ、みて。また書き込まれているの。『削除屋、秋葉原でチョコちゃん殺す』だって」

 真亜子はとあるSNSサイトの画面を指差しながら言った。

 そこには刑事みたいな格好の男が移動パン屋のキャラクターを押収していった、ということが書かれていた。

 投稿者は削除屋の男に声を掛けられたらしく、危うく買ったばかりのフィギュアまでも押収されそうになったので逃げたのだが、遠くで確認するとフィギュアもパンも刑事気取りとその連れの男によってすべて押収されていたと書かれていた。

「いつものことよね。キャラクター削除はホントに印象悪いものね」

 アニメファンや同人誌関係者から見ると、キャラクター監視管理協会は自分達の領域を脅かす対極の存在として特に疎ましく思われているのだ。

 彼らはキャラクター監視管理協会を「削除屋のデイリー」と揶揄している。また「デイリーちゃんとドリームくん」をもじって「」、つまり「夢を壊す」と言っている。

 削除したキャラクターはこのように削除情報としてネットに書き込まれるのだが、その際に削除したキャラクターの既に出回っている商品の画像なども一緒に投稿されるため、削除後に人気が出るキャラクターも少なくない。


 ここ最近、削除後に話題になった例として、「水洗戦隊トイレン・ジャー」というキャラクターがある。

 「水洗戦隊トイレン・ジャー」はトイレメーカーのPR活動として作られたキャラクターだった。活動するにあたり、企業側は協会へキャラクターの活動申請届けを提出していたにも関わらず、PR活動に五人も戦士は必要ないだろうと協会が判断し、協会側の一方的な理由で二人の戦士の削除が実行されてしまったのだ。

 この判断に対してネット中心に協会への批判が殺到した。 

 協会側によると、「水洗戦隊トイレン・ジャー」は、いわゆる戦隊ものにあわせるため五人に設定しており、つまり五人いるが、数合わせのために設定されたキャラクターが二人いた、とのことである。PR活動を円滑に出来るようキャラクターの数を減らした、というのが協会側の主張である。

 この判断には真亜子も批判的な見方をしている。企業がせっかく育てたキャラクターを協会側の独断に近い、一方的な理由で削除するのは、自由な創作活動を阻害しているようで疑問を感じている。


 ちなみに「水洗戦隊トイレン・ジャー」はその後どうなったかというと、ネットを中心に署名活動が行われ、企業側がPRキャラクターとしての届け出を取り下げたのだ。

 企業キャラクターではなくなった「水洗戦隊トイレン・ジャー」は、日曜朝にヒーロー戦隊ものとしての放送されることになったのだ。もちろん五人揃って。

 そしてトイレメーカーがその番組のスポンサーになることで、結果的に企業のPRも出来るようになったのである。


 真亜子は広報部だから、キャラクター削除自体は直接関わらない。

 ただ、協会の活動をPRするためのパンフレットを作っていると、自分の仕事が果たして正しいものなのか分からなくなってしまっていた。

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