監視部の活動

 監視部は二つの班に分かれて活動している。一つは届け出キャラクターが活動しているかどうか、違反をしていないか監視する班、もう一つは無許可キャラクターの発見と行動を監視する班だ。

 長田おさだは未知の無許可キャラクターの発見業務を行っている。無許可キャラクターは協会が把握しているもので数万件に上る。このうち九割は個人のPR活動レベルで生まれたキャラクターであり、これらは「個人の範囲の創作活動」だとする意見があり、協会も黙認している部分があるが、残りの一割は無許可キャラクターを使用し利益を上げており、これらに関しては実行部へ依頼し、随時削除・統合を行っている。しかし増え続ける無許可キャラクターに協会側が把握しきれていないのが現状だ。

 

 無許可キャラクターの監視・発見には「POLICEポリス」と呼ばれるソフトを使う。

 AI技術を駆使し、キャラクター情報を自動的に収集している。

 情報収集源はインターネットの他、企業や自治体が設置した監視カメラ画像も使われている。

 長田は監視カメラ担当で、東京二十三区内の無認可キャラクター発見に努めている。

 長田の液晶モニタには都内の地図が映し出されていて、地図には赤色や黄色の点がいくつも表示されていた。

 これらは協会が認識しているキャラクターで、中でも赤い点は影響力の強いキャラクターが存在する場所である。

 長田はタッチパネル式の液晶モニタを指でスライドさせ、地図を動かしている。親指と人差し指を離す動作をして地図を拡大させると、そこには渋谷の地図が映し出された。

 渋谷にはいくつかの点が存在していて、そのひとつに指を合わせるとキャラクターの詳細情報が表示された。客引き用の着ぐるみ「ラビットちゃん」だ。届け出済みキャラクターである。

 長田はさらに渋谷周辺をゆっくりと指でなぞる。長田の目的は無許可キャラクターの発見だ。

 無許可キャラクターは黒い点で表示される。

 渋谷は至る所に黒い点が存在するのだ。長田の見ている画面上にも既に二つ表示されており、その一つを押した。

 黒い点にもAIが収集した範囲でキャラクター情報が表示されるのだ。

 詳細情報にはゴリラのイラストが表示されていた。イラストというより落書きだ。アクセサリーショップのシャッターにスプレー缶で描かれたゴリラの落書きである。

 さらに詳細情報にはキャラクター名が「UNKNOWN」と表示されていて、キャラクター発見日には昨日の日付が記載されていた。

 「POLICE」の監視精度が良いのか悪いのか分からないが、このような落書きでも検知する。

 協会が認めるキャラクターにはいくつかの基準があり、結論としてこのゴリラは「キャラクター」ではなく「落書き」として扱われるのだ。

 長田は黒点の対応欄に「対応なし――落書き扱いのため」と記載した。

 このようにして地道に地図を確認していき、無認可キャラクターを見つけるのが長田の仕事なのだ。


 そして、渋谷駅東口の宮益坂付近を調べているときに、ついにそれは現れた。

 渋谷駅東口にある商業施設「アカリエ」の裏通りを一点の黒い点が点滅して移動している。

 ハチ公口と比べて東口方面には黒い点はあまり現れない。

 長田の記憶でも宮益坂で確認したのはこれが初めてかもしれない。

 東口にはキャラクター監視管理協会の事務所があるのだ。何か問題があるとすぐに協会の人間に目を付けられてしまうため、この付近には届け出済みキャラクターですら数が少ない。

 黒い点はあろうことか、その協会がある方面に向かって移動しているようである。

 長田は黒い点を指で触り、詳細情報を表示した。

 キャラクターの発見日は今日、しかも発見時間はつい五分ほど前になっている。キャラクターの写真も表示されていた。

 自治体提供の防犯カメラ画像で少々画質が粗いが、そこには黒いスーツにサングラスを掛けた人物が写っていた。

 「POLICE」の誤認だろうか。確かに異様な格好ではあるが、キャラクターではなく明らかに人間だ。

 確かに特定の人物がそのままキャラクターとなることもあるため、すぐには誤認と断定することができない。

 ただ、黒い点は協会事務所に近づいているように思える。

 画面を見ていた長田は目を疑った。宮益坂につながる小道から突如、黒い点が画面上にもうひとつ現れたのだ。

 急いで画面を触り詳細情報を表示させると、先ほどと同じ黒いスーツにサングラス姿の人間が写っていて、発見時間は六秒前と表示されている。

 画面にはさらにまた別の黒い点が現れた。次から次へと現われている。

 悪寒がした。何か嫌な予感がする。根拠はなにもないがこの黒い点は、ここ――キャラクター監視管理協会――を目指しているのではないかと。

 地図上には八つの黒い点が現れ、キャラクター写真はどれも最初に発見したものと同じ格好をしている。八つの点は点滅しながらキャラクター監視管理協会の事務所のもう二十メートルほど近くまで迫っていた。

 長田は「プリント」ボタンを押し、画面を印刷した。上司に知らせなければならない。席を立ち急いで走った。

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