実行部の活動1
「おい、
桜田はキャラクター監視管理協会の実行部と呼ばれる部署に所属している。
主な業務は監視部にて活動状況を監視されているキャラクターに対して削除・統合要請がでた場合、直接現場に行き依頼内容を実行することである。
今日は上司の
「門脇さん、監視部の情報ですとホシは移動パン屋に乗っているようです」
「あぁ聞いている。移動パン屋にはパン屋経営者の鈴木さんと例のチョココロナちゃんがいるそうだ。監視部から資料もらったから、目、通しておけ。ほら」
資料によると、移動パン屋の主な活動範囲は秋葉原周辺となっており、「チョココロナちゃん」は移動パン屋のマスコットキャラクターとしてパン屋経営者の鈴木が創り出したキャラクターとのことだ。
「チョココロナちゃん」はいわゆる美少女キャラクターとして描かれており、秋葉原という地域特性を活かした容姿となっている。
資料には画像も載っていた。「チョココロナちゃん」は二頭身にデフォルメされた女の子のキャラクターで、特徴としてはチョココロネのような茶色の巻き髪をしていることである。さらに性格情報も記載されており「基本的にチョコのように甘いが、たまにブラックユーモアを口走るブラックチョコの部分が見え隠れする」とのことだ。
「チョココロナちゃん」の主な活動内容は、移動パン屋のPR活動および自身のオリジナルパンとフィギュアの販売となる。
「チョココロナちゃん」による移動パン屋の販売貢献実績は、フィギュアなどの販売も含め、月二十三万円と予測されている。
しかしながら当協会には「チョココロナちゃん」の出生届および活動許可申請書が提出されていない。
このことから、活動申請違反の無許可キャラクターであり、キャラクターの強制削除を実行するものとなった。
今回の削除対象は「チョココロナちゃん」本人およびそれに付随する制作物としている。
桜田の運転する黒のクラウンは外神田五丁目交差点手前のハンバーガーショップを過ぎたあたりで停車した。
「よおし、この辺で張るぞ。ホシはこの交差点から秋葉原駅方面へ向かうとの情報だ。昼時には現れるはずだからな」
門脇が助席でタバコを吸いながら言った。
黒髪短髪に顎髭とサングラス、黒のトレンチコート、そしてタバコというのが門脇スタイルだ。体格もしっかりとしていて、一見するとどこか怪しい組織の人間のようで近寄り難いが、話してみると外見に似合わず親しみやすい性格の持ち主である。
時刻は十二時を少し過ぎた頃。
「門脇さん。お腹空きませんか? ぼく、ちょっとそこのハンバーガー屋で何か買ってきますよ」
「おう。んじゃ、ビッグダブルとポテト、あとクランベリーシェイクでよろしく。うまいんだ、これが」
クランベリーシェイクは若い女性に人気の飲み物だ。この辺をチョイスするところが門脇らしいところだ。
桜田が運転席から降りようとしたところ「おい、ちょっとまて」と門脇に呼び止められた。
「あれだ、みろ。あの車が例のパン屋だ」
蔵前橋通りから外神田五丁目交差点を秋葉原方面へ右折しようとしている一台の白のワンボックスカーが見えた。ワンボックスカーは後部座席を改造してパン屋の荷台にしている。
「よし、桜田、出すぞ」
「了解」
桜田は車に乗り直し、キュルルルとタイヤを鳴らし急発進させた。パン屋は外神田五丁目交差点を右折し終わって秋葉原駅方面へ直進している。
「おい、いそげ、見失うぞ!」
交差点の信号は桜田たちのいる通りが青から黄色に変わろうとしている。アクセルを踏み、グンッと速度を上げる。
赤信号になるギリギリで交差点を通過することが出来たが、移動パン屋はだいぶ前を走っていた。
「もっとつめろ! つめろ!」
門脇が発破をかけてくる。彼はこうやってホシを追うときが一番熱くなる。クラウンはカーチェイスの如く片側二車線の道路を何度も車線変更しながら、移動パン屋を追う。
移動パン屋は信号に捕まることなく、秋葉原の中央通りを走っていく。中央通りの左右には電気屋やアニメ・ホビー関連のビルが立ち並んでいる。
移動パン屋と桜田たちの車の間に三台の車が走っているところまで距離を縮めた。中央通り端の万世橋交差点までくると、移動パン屋は左折した。
「桜田! 次だ、そこ、左に曲がったぞ」
「了解。曲がります」
移動パン屋に続いて左折すると、通りの右側には万世橋警察署が建っていた。移動パン屋はその前を直進し山手線の高架橋をくぐり抜ける。追従して車を走らせると、移動パン屋はその先のコンビニ前にある広場に停車した。
「よし、販売場所は分かった。ひとまず通過しよう」
門脇の指示で近くのパーキングエリアに車を停め、徒歩で現場へ向かった。パン屋の主人には死角になるようにベンチに座って見張る。
「チョココロナちゃんが売られた時に、取り押さえるぞ」
キャラクター削除の実行は、実績を上げている現場を確認しないと行うことが出来ない。
移動パン屋に一人の若い男が近づいてきた。男はそのままパン屋でフィギュアらしきものを買った。チョココロナちゃんである。
「桜田! いくぞ」
「はい!」
桜田と門脇は走って男のもとへ駆け寄った。
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