実行部の活動2
「ちょっとすみません、お客さん。今買ったのはチョココロナちゃんですよね?」門脇が客に尋ねる。
門脇の外見に驚いたのか男は慌てたように「そそそ、そうだよ。おお、おれはなにもしてないぞ」と言った。
「分かりました。ご協力ありがとうございます」
男は「な、な、なんなんだ、ちくしょう」とそそくさと駆けていった。門脇は移動パン屋の主人に向かって話し出した。
「先ほど売られたのはチョココロナちゃんですよね。チョココロナちゃんは無許可でのキャラクターのため、ただ今をもってキャラクター削除を実行いたします」
「ちょ、ちょっと急になんですか」
「申し遅れました、キャラクター監視管理協会の門脇と申します」
主人の鈴木は「あぁ、削除屋か」と小さくつぶやいた。主人はキャラクター監視管理協会のことを知っているようだ。
「削除依頼書が出ているのです。この写真と同じキャラクターですよね」
桜田はクリアファイルから削除依頼書を取り出し、主人に見せた。ワンボックスカーの荷台には、たくさんのパンが陳列されていた。
あんパン、食パン、カレーパン、など。その中にチョココロネ型のチョココロナちゃんもいた。
また荷台の一番高いところにはチョココロナちゃんのフィギュアも数体飾られていて、こちらは二等身の胴体もあり、内股で愛らしいポーズをとっている。
「はい、確かに。このパンやフィギュアはチョココロナです」
「無許可ですよね? チョココロナちゃん」門脇が詰め寄る。
鈴木は口元を堅く結んで黙っていたが、やがて口を開いた。
「……自分は絵を描くのが好きで、最初は趣味で行っていたんです。しかしパン屋の売れ行きが悪くなったもので。じゃあ、この子をキャラクターとして使ってみたらどうかって思いついて。そしたらこの辺界隈でじわじわと火がつきはじめて……届け出そうとは思っていたのです。すみません」
「すみませんね、仕事なもんで。では、こちらのキャラクターは現在をもって削除させていただきます」
門脇は桜田に顎で合図を送った。警察と違って無許可キャラクターを使用していても人間が罪に科せられることはない。キャラクター監視管理協会はあくまでキャラクターの活動のみを監視することが目的のため、人間は罰せられないのだ。
第一に人間は法を犯しているわけでもないのだ。
「失礼します」と桜田はビニール袋内に、チョココロネ型のチョココロナパンとフィギュアを詰め込み始めた。
「あ、あの、チョココロナはどうなるのですか?」
「当協会で一定期間保管後にすべて削除します」
「いまから、登録してもだめですか?」
「申し訳ございません。それは出来ません。決まりなもんで……。桜田! そこにあるチラシもだぞ! ……失礼しました。ご自宅にある分に関しては後日係員が取りに向かいますので」
主人は桜田がチョココロナちゃんを押収している姿を見て、「チョココロナぁ。ごめんよ、俺が悪かったぁ……」と力なく独り言のように言った。
「それではご協力ありがとうございました。鈴木さん。今後このようなことがないよう、キャラクターのためにもしっかり許可を行ってくださいね。では、私どもは失礼いたします。何かありましたらこちらまでご連絡ください」
桜田はそう言ってキャラクター監視管理協会のパンフレットを渡した。パンフレットには協会公式キャラクター「デイリーちゃんとドリームくん」による活動内容の説明と問い合わせ先が記載されている。
桜田と門脇は車の止めた方向に歩きだした。門脇が帰り際に思いついたように振り向き落ち込んでいる主人に告げた。
「あぁそうだ。チョココロナちゃんを買ってくれた人のところには、今もチョココロナちゃんは生き続けているから。削除されても死んだわけじゃない」
「さて帰るか」
門脇はバタンと助手席のドアを閉めた。桜田は「了解」とクラウンをバックさせ駐車場から出し、走り出した。
「門脇さん、最後、かっこよかったですね」
「最後? あぁ、俺たちの仕事は削除屋だからな。削除される側にとっては嫌われ役だよ。せっかく育てたキャラクターを削除させられるってのは、キャラクターの親としては悲しいよな」
「まぁそうですね。でも無許可なのはよくないで――って、ちょっと門脇さん、なにしてるんですか!」
「んん。このチョココロナちゃん、うめぇな」
門脇は押収したチョココロネ型のチョココロナパンを美味しそうに食べながらつぶやいた。
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