いつかその時が来たら

 さてそろそろみんな帰ろうかって時になって、ハルトさんが頭を下げてから話しはじめた。


「今日はありがとうございました。高校卒業をこんなにたくさんの人に祝ってもらえるとは思っていませんでした」


 顔をあげて、こっちを見る。


「それもこれも、愛良と会えたから。愛良が俺を前に向かせてくれたんだ。あのままだとずっと妹の死にとらわれてつまらない人生になったと思う。愛良、ありがとう」


 ハルトさんがにこりと笑って手を差し出してきた。

 ぶわわっと目に涙がたまった。

 よかった。ほんとに、よかった、ハルトさん。


「それは、ハルトさんが、変わろうと思ったからだよ」

 手を握って答えた。


 前に言ったと思うけど、何度だって言うよ。


 門扉までみんなを送ってって、わたしからもハルトさんに言いたいことを言う。


「あのね、わたしもハルトさんに言いたいことがあるんだ」


 わたしがそう切り出したから気を使ってくれたのか、さっこちゃん達はそそくさと帰っていく。

 目でありがとうと言って、ハルトさんを見上げた。


「わたしね、ハルトさんにまだ言ってないことがあるんだ」


 気づいてると思うけど。


「うん」


 相槌を打つハルトさんは、何を言われるのか判ってるって顔してるように見える。


 けどね。


「でも、今言うのは、やめとく」

「えっ?」


 驚かれた。まぁそうだろうなぁ。

 もしかしてお返事も考えてたりした?

 それなら聞いてみたいような、聞きたくないような。

 だからって考えは変わらないんだけど。


「あのね、わたし、ハルトさんに追いつきたいんだ。隣に立って恥ずかしくないようになりたい。狩人としても勉強も。もしかしたら追いつけないかもしれない。けど、せめてもうちょっと自分に自信持たないとって思うんだ。だからその時までは」


 ハルトさんは、ちょっと口を開いて何か言いかけたけど、それは言わない、みたいに口を閉じてふっと笑った。


「そっか。なら、その時を待ってる」


 ……えっ?


 今度はわたしが驚く番だった。


 待ってる? 待ってるって言ったよね?


 アワアワしてるわたしにまた笑って、ハルトさんは「それじゃ、また」って手を振って帰ってった。


 ええぇっ? 待ってるってそういう意味? 期待していいの?

 いやいや思いあがっちゃだめだ。違った時のダメージがでかすぎる。

 でもこれ期待するなっていう方が無理だよねっ!?


 まだまだ冷たさの残る風にびゅっと吹かれても、わたしは熱いままだった。




 青の夢魔との決戦から二週間後、春休みになって狩人の仕事が回ってきた。


 お母さんも狩人復帰しててわたしにはお声はかからなかったんだけど、やっぱり狩人の数って充分足りてるわけじゃないみたいだし、仕事がなくなるってことはない。


「今日のにえは一人暮らしの大学生さんだ。特にこれといったトラブルはなさそうだけれど、たまたま夢魔に目をつけられたのかな? って感じだ」

「道端でばったり変質者にあっちゃったみたいな不運だね」


 春になったら増えるって話だから気を付けないと。

 あ、いや、今は変質者の話じゃなかった。


「あはは、そうだね。低級夢魔だろうから今のうちにささっとやっつけてほしいんだ」

「りょーかい」


 ということでいつものように渦巻きトンネルをくぐる。


 すがすがしい青空の山の上だ。贄さんが来たことある場所なのかな?

 周りに人の姿はない。

 どこから何がやってくるか判らないから辺りを注意深く見てると。


 来ましたよ夢魔出現のサイン、チリチリって感覚が。


 黒いマーブル模様に変わる景色の中、飛んできたのは。

 ……フライパン! 使い古された感じのちょっとコーティングはげてるフライパン!


 えっ、ナニコレ。初陣の再現?

 いやでもあの時は最初に前座でおたまとかだっけ。


『また尻を叩かれんようにせんといかんな』

「もうあの時とは違うからっ」


 からからと笑う声に思わず勢いで反論したけど。


 さ、サロメっ? 今の声、サロメ!?


『ワシのほかに誰がおろうか』

「あんた消えたんじゃなかったの?」

『あの攻撃で魔力を使い果たすことは肯定したが、消えるとは一言も言うておらんわ』

「じゃあなんで今まで一言もしゃべんなかったのさ」

『魔力ゼロの休眠状態だ』

「それじゃ今の魔力は?」

『一万分の一ぐらいか。言うまでもないがワシの魔力は期待するな』


 なんだってー!?


 わたしの悲しさ、寂しさは一体……。


『ほれ、夢魔は待ってくれんぞ。愛良、ワシを抜け。夢魔を無に帰すのだ。……倒すのはお主の魔力のみだがな』

「へいへい」


 いい加減に返事しながらサロメを抜き放った。


 魔力のないサロメなんて、ただの口やかましいじぃさんじゃないか。

 けど、……よかった。


 わたしとサロメのやり取りの剣幕に圧されてたのか、たじたじとなってるふうに見えたフライパンが、気を取り直したかのようにこっちに向かって飛んでくる。


 いくよ、サロメ。復帰第一戦を華々しく飾るんだ。


「力を解き放て、サロメ!」


 言いながら自分の魔力を思い切り相棒の魔器に注ぎ込んだ。

 刃から白い光があふれ出る。




 変わってないようで、周りは少しずつ変わっていく。

 それでも、それだから、これからもわたしは戦い続けるよ!



(どりぃむ☆IN☆ドリーム 了)

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どりぃむ☆IN☆ドリーム 御剣ひかる @miturugihikaru

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