変わってないようで変わってく
まさに夢のようなパーティ
三月十八日。
特に日付には意味はない。けどずっと待ってた日がやってきた。
ハルトさんの高校卒業おめでとうパーティだ。
お昼ごはんを中心にパーティする、ってことになってるから朝からお母さんと一緒にお部屋と料理の準備だ。
あぁ、お母さんが家にいる幸せ。一緒に料理できる幸せ。
ちなみに、お母さん救出日からはわたし一人で家事をしていた。前から保留になってた「大人の言いつけを守らず勝手に行動した罰」で、春休みが終わるまでわたしが家事をすることになったからだ。
でもお母さんがいない間わたしが中心にやってたから全然苦じゃない。お母さんも、こそっと手伝ってくれるし。
罰とか言いながら罰になってないあたり、お父さん優しいよね。
夢魔退治には、あれからまだ出ていない。わたしもかなり消耗したし、夢魔の活動が沈静化したのもある。強力な夢魔がいなくなったのと関係があるんだろうか。また夢の世界の研究材料が増えたってダンディさんがちょっと困りながらも喜んでたらしい。
ハルトさんの妹さんが青の夢魔の贄だったかもしれない話はもう伝わってて、やっぱり確証はないけどそうなのかもしれない、ってことで結論づいたみたい。
力の強い夢魔は夢見や狩人に見つからないように隠れるのがうまいんだって。
だからアキナさんが病名もつかないまま弱っていってるのに、この近辺を活動の中心にしているダンディさんやマダムさん、お父さんを含む夢見が見つけられなかったのかもしれないんだそうだ。
ってことは、他にも夢魔の仕業だって判らないまま犠牲になってる人がいるかもしれないってことだよね。
いつか、夢魔と人とが共存できる夢の世界が来ればいいとは思ってるけど、なかなか難しそうだね。
さてさて、気分を切り替えてお客様を迎える準備を続けましょうか。
「愛良はほんとに、大人になったわねぇ」
戻ってきてからのお母さんの口癖になっちゃってる言葉がまた出てきた。
外見では言われなかったけど、わたしが家事やお勉強で頑張ってるってほめられるのは嬉しい。
「まだお母さんに甘えたい子供だよぅ」
ぎゅって抱きついたら頭撫でてくれた。
「一年半も留守にしちゃったもんね。ごめんね」
「お母さんは何も悪くない。悪いのは玉ちゃん」
「そうねぇ」
この会話も何度目だろうか。
「仲いいのはいいけど、そろそろハルトくん達が来る頃だよ」
お父さんののんびりした声にお母さんと笑いあって、テーブルにおかずを並べに行った。
「それでは、ハルトくんの高校卒業を祝して、かんぱーい」
さっこちゃん淳くん、きらちゃんと冴羽くん、お誕生席にはハルトさん。
みんなが揃った席で、お父さんがなぜか乾杯の音頭を取っている。企画したのわたしなのにね。
「おばさんが無事に戻ってきたお祝いもしましょう」
淳くんがそういって、もう一度乾杯。
まさか本当にハルトさんのお祝いの席にお母さんがいてくれるなんて、希望だったけど実現しちゃうとは半分くらい思ってなかった。
それに夢の世界や夢魔の話を、青井兄妹とも分かち合えるなんてほんと夢のよう。あんまり夢の世界の話は広げちゃいけないんだけど個人的には超嬉しい。
テーブルの上にはわたし達親子手作りのサラダと唐揚げ、フライドポテト、テイクアウトで買ってきたオードブルやサンドイッチが所せましと並べられている。
飲み物はジュース各種とお母さんのハーブティ。
ハルトさんにはまずハーブティを差し出した。
「あの時の話、覚えてたのか」
「そりゃあね。めったに聞けないハルトさんの好みの話だもん」
「俺、そんなに何も話さないか?」
「わりとね」
そっか、ってハルトさんは苦笑した。
青の夢魔と決着をつけた時も思ったけど、何かが吹っ切れた感じに見える。
ハルトさんなりに妹さんのことに心の整理を付けたなら、いいことだと思う。
料理をつまみながらワイワイとお話。
さっこちゃんが夢魔との戦いの話を聞きたがったから、昔お母さんがしてくれたみたいに、ちょっと盛って楽し気に話した。あんまりシリアスにしちゃうと心配されちゃうから。
「最初に戦ったのがフライパンでねー」
「なにそれ!? 夢魔って物なんだ?」
「夢魔によるんだよ。で、お尻すぱーんって叩かれちゃったんだよ。痛かったなぁ」
みんな大爆笑だ。
料理がなくなってきて、カードゲームやろうってノリになった。
お父さんお母さん、さっこちゃんと淳くん、きらちゃんと冴羽くん、ハルトさんとわたし。
自然にペアになって四組でバトルだ。
ハルトさんとの作戦会議も、前みたいにめちゃくちゃ緊張することはない。距離が縮まったんだってなんとなく実感できてうれしい。
きらちゃん達はもう人目はばからずくっついちゃってキャッキャ状態だ。
「いいなぁ、わたしも彼氏候補探そうかなぁ」
さっこちゃんがつぶやいてる。
「さっこちゃんはまず理想を下げるところからだってば」
「わたしそんなに理想高くないって」
「そりゃそばにそんなかっこいいお兄さんいたら理想高くなるよねー。わたしはけんちゃんが理想の人なんだけどぉ」
「でたっ、けんちゃん至高ラブっ」
「そりゃ誰だって好きな人にはそうなるんじゃない? ねぇ?」
うわっ、話振られたっ。
ってかこれ、告れってプレッシャーだなっ。
何気にちょっとむっとしてるお父さんと、優しくなだめてるお母さん。
なんか、公認みたいにされちゃってるっ。
「えっ、あ、あはは……」
笑うことしかできなかった。
夕方近くまで遊んで、パーティはお開きになった。
ゲームは、青井兄妹が一位、わたし達と、お父さんお母さんチームが僅差で同点二位、冴羽くんきらちゃんが最下位になった。ラブっぷりじゃダントツ一位だけどね。
「あー、もっと勉強して賢くなろうっ」
きらちゃんが悔しそうに言うのに冴羽くんが「僕も」ってうなずいてる。
「それを言うならわたしもだよ。志望校にはもうちょっと足りないんだよねー」
思わずこぼすと淳くんが話に乗ってきた。
「愛良ちゃん、うちの高校受けたいんだってね。がんばって。何なら――」
「勉強、見てやろうか?」
わっ? ハルトさんがっ?
「いいわねぇ。家庭教師としてきてもらったら?」
お母さんがすかさず賛成した。
淳くんが、それがいいねって言ってるところにさっこちゃんが肘でつついてニヤニヤしてる。
春休みはもちろん、ハルトさんが大学に行ってもうちに週一ぐらいで来てくれることになった。曜日と時間はハルトさんの大学の
うわぁ、これは張り切らざるを得ない。
やるぞー!
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