急転直下の後に次々と足元から這い上がってくる寒気に慄く

急転直下。正に、そうとしか言えない。

物語の前半があまりにも希望に満ちていて、また、こちらを拝読している今がたまたま麗かな春ということもあり、事故物件というけどその条件なら最高じゃないか、転職先での人間関係も良くて、奥さんは料理上手で、その手料理を共に食べる為に早く帰る旦那さんなんて、理想でしかない。明るく暖かな春の陽射しを思わせる絵でしかなく。
そこに事故物件情報を齎す男が実に嫌らしいノイズにしか考えられなかったのに。
痩せたんじゃないか、という姉の一言から流れ込んでくる不安。いつ結婚したの? あぁ……うわぁ……やめてくれ、と。
穏やかな気持ちでこの主人公を見守っていた読者の私もまた、内心で頭を抱えました。
結局、あの男は間違っていなかった。嫌らしく感じていた「心配」という言葉も、気の弱そうな男の精一杯の気遣いに変わり、罪悪感と感謝のようなものすら覚える。
でも、そんな気づきは、欲しくなかった。
痩せたりさせず、そのまま不穏を齎さずに愛に溢れた家庭の夢を彼に見せ続けてくれたら良かったのに。
ああ、だからこのタイトルだったのか。と、また一つ唸らされ。
この会食のシーンで話が終わってるのもまた嫌な後味を残して怪談として最高ですね。

いい厭怖を読ませて頂きました。ありがとうございました。

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愛のある部屋