平等なんて、あるのだろうか?

心夜@浅井三姉妹

平等なんて、あるのだろうか?

三か月前、俺は深く嘆いた。


 病院の先生から、余命を宣告されたからだ。


 そして今日。その日を迎え、とうとう俺の身体は動かなくなった。


 声も出ない。手足が動かない。


 自宅のベッドで今、両親や妹に見守られているという状態だ。


 きっと皆、俺に奇跡が起きる事を祈っているのだろう。


 小児がんに侵された時、死ぬ覚悟はしたというのに。


 今から死ぬと考えると、とても気が気じゃなかった。


「・・・・・・」


 死ぬ前に、親と話したい。


 だが口も動かない。喉すら動かない。


 苦しい。


 ――思えば、この苦しみと常に一緒に生きてきた。


 子供の頃、いつものように友達と遊んでいて、急に倒れた時。


 それが俺にとっての生き地獄の始まりだった。


 倒れて目覚めた時、俺は疲れて倒れただけだから大丈夫だ、と強く信じていた。


 だがそれは裏切られた。


 病院の先生曰く、俺は小児がん――白血病だったらしい。


 現在では白血病に効果的な薬物もある、と言っていたが、医者はそれを使う事は無かった。


 一回投与したものの、拒絶反応が出てしまったのだ。


 以来医者も取り敢えずは、俺を治す方法を真剣に考えてくれた。


 また前みたいに、俺も友達と遊びたいと、治療に対して前向きな姿勢で養生していた。


 だけど、効果的な治療法は見つからなかった。


 白血病は発症当時よりも悪化し、どんどん死が近付いていた。


 そしてその後言い渡されたのが、余命三ヶ月。


 十二歳にして死を告げられた心境は複雑だった。


 まだ生きたいという気持ちと、楽になれるという気持ち。


 両方が俺にあった。


 余命を宣告されてからは、自宅療養になった。


 自宅で車椅子に乗りながら過ごし、たまに外に出てお日様の光を浴びて、そして疲れと共に眠る。


 四年間お世話になった病院食も美味しかったのだが、四年ぶりに食べる母の料理は格別にうまかった。


 あるいは、死後に口に出来ないと知っているからこそ余計にそう感じたのかも知れないが。


 余命まであと二か月に迫ったある日は、本屋に連れて行ってくれた。


 自由な外出が出来ない代わりに、親が本を買ってくれた。


 その時俺が選んだ本は、医療ものの小説だった。


 その本は小学生の俺には難しい筈の内容だったが、俺は不思議とその一冊の本を延々と読み続けるようになった。


 ――命とは平等ではない。人はどれだけ良いことをしても、死ぬときは死ぬのだ。


 俺が一番心を動かされた台詞。


 社会に出ていない俺は、大人の世界を知ることなく死を告げられた。


 何もしなくても、死ぬときは死ぬ。


 そう思うと、世の中とは実に残酷だなと感じた。


 俺に限った話ではない。


 流産によって生まれる筈だった赤子が死ぬこともあれば、何の問題もなく元気に生まれてくる赤ん坊もいる。


 恋人を庇って命を落とした者がいる裏で、それを殺した犯人は今も逃走し生き延びている。


 俺は昔から、死は誰もが平等に迎えることだと教えられた。


 病気になる前はそんな事考えもしなかったが。


 でもそれを告げられた時は、少し悲しかった。


 今そう話してくれた母も父も、病気の俺を笑わせようと一緒に遊んでくれる妹も、いつか老いて死ぬのだと思うと。


 そして、老いて死ぬのが当たり前と思っていた俺が心動かされたのがその台詞というわけだ。


 老いないで、しかも善事や悪事すらせずに、死ぬ。


 俺はその事実に涙した。




 過去とその小説を思い出した頃には、もう死が近付いてきていた。


 眼はほとんど見えなくなり、瞼が重くなり始めていた。


 死神がこちらに近付いているようだった。


 俺の異変に気付いた両親や妹が、俺の身体を揺する感覚もない。


 必死に叫んでいる声すら聞こえない。


 目の前の死神が、両手で鎌を振り上げる。


 そのまま振りかぶり、それは俺の目に突き刺さるように振り下ろされた――。


 ああ、これが死なのだろうか。


 全ての感覚が、完全に消えてなくなり。


 全てが終わろうとしていた。


 魂が、死神に持ち去られていくように。


 俺は息を引き取った。


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