終幕 正義の味方と僕
ここはS県某市。JRを駆使すればまあまあ都心と通勤圏内。実はこの町は、昨年度「住みたい町ランキング№1」を獲得したが、それとは別に「正義が広まっている町№1」の称号も持っている。 しかしながら、そんなのはただの名前で、実際はそこまでだ。今日もファストフード店に行ってきたが。お客さんがまあまあいるなかで、人目もはばからずしゃべりまくっている学生グループがいた。みんなうるさそうにしていたよ。でも、あの日と違って、ここに身勝手なまでの正義の味方はいなかったんだ。だから、誰も注意しなかった。これが現実だ。
仕方ない。今日ぐらいは、身勝手な正義の味方の看板をしょってやるか。
「すみません」
僕はその学生グループに声をかけた。
____________________
そうそう。ここが正義が広まっている町№1な理由だが、とても陳腐なものだ。
蘇りという奇跡をなした、正義の味方がいるからだ。
一週間ほど前、隣の県で、漁師に発見された少女は、自分のことを星川響と名乗った。自宅の住所、電話番号、どちらもしっかり言えたため、漁師は警察に連絡し、親御さんと併せてあげることを求めた。そうしたらなんとびっくり! 星川響は既に死んでいましたとさ! しかし、顔も完全に一致、親子しか知らないことも知っているなどから、同一人物と断定。星川響はよみがえったのだ。
かくしていて一躍時の人となった星川響にはメディアが殺到した。死後の世界がどうとか、どうやってよみがえったのかとか。でも星川響は「何も覚えていない」と回答。
しかし、自分がよみがえったとき、神様から授かったという言葉を公開した。
「この世界に、正義を広めなさい」
という言葉だ。
「よみがえった美少女は正義の味方だった!」
この言葉が一人歩きして、彼女名声はドンドン高まった。
全く。馬鹿らしいよ。僕はこの種を全部知っている。
でも、止める気は無い。僕らは僕らのやり方で、正義を見つけるんだ。
……ああ、そうそう。正義が広まっている町№1な理由か。
星川響は、元の場所に帰ってきた。
ここ、三月学園に。
____________________「じゃあ、新入生の自己紹介に入るか」
今年も担任は津山先生だった。安心安全で助かる。
「じゃあ、浅井から」
「はい」
僕は立ち上がる。今までと同じように、でもはなすことは少しだけ前と変えて。
「浅井です。今までもお世話になったかと思いいますがこれからもよろしくお願いします。実は曲がったことが嫌いです。これかあらはドンドン言っていくつもりです。では、一年よろしくお願いします」
パラパラとした拍手が起こる。去年の当事者がいたら、もしかしたら大きな拍手をくれたのかもしれないが、みんな違うクラスだ。
……いいや、一人だけ違うか。
「じゃあ次。星川」
「はい」
クラスの人間が、一斉にそっちを向いた。僕だけは違ったが。
「星川響です。昨年度はいろいろお騒がせして申し訳ありませんでした。ですが、あれはすべて事実です。私はここでも、その方針を貫きます」
そこで不意に言葉が切れた。またざわめきが聞こえる。どうしたのだろうか。
「浅井」
いつの間にか、星川は僕の目の前にいた。
……最後に会ったときよりいい目をしてるじゃないか。
よかった。いつもの星川だ。わがままでまっすぐで、そのくせ優しい、いつもの星川響だ。
彼女が僕に手を差し出す。
「今年もよろしくね」
僕はしばらく、差し出された手を見つめていた。
全く。こんなやり方で退路を断つなよ。
僕は苦笑しながら立ち上がって、
「ああ。よろしく」
星川と固い握手を交わした。
————
正義の味方と僕 改稿版 大臣 @Ministar
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