第62話 case2—Last Stage
「ところで、いじめの実行犯はまだ来ないのかな」
「え?」
僕の発言を受けてか、星川がはっとした様子で時計を見る。
「もう三十分も過ぎてる……まさか!」
「もちろん、仕込んだに決まってるだろ?」
一度つけたことによって、実行犯たちが使うルートはわかった。そこの道中にある様々な場所で、妨害工作を行った。たとえば飲食店で人が並んでいたり、買い物袋を持った大人の人が、たまたま転んで中身をぶちまけたり。ともかくいろんなことをだ。
「浦山だったり乃田だったり。井口さんや三野さん、津山先生にも手伝ってもらったかな。ともかく妨害しまくってる。絶対にここには来ないよ」
「そんな……っ。じゃあ、証拠はどうするのよ! いくら彼女が元々いじめの主犯格だったとしても、それが許されてはいけない!」
「ああ。その通りだ。そして同じようなことを考えているやつは実行犯のなかにもいた。いくら相手が悪かったとはいえ、自分たちのしていることも同じじゃ無いかって思うやつがな。つまりは造反だ。その子の証言でもって証拠にする」
「でも! それだけじゃ私たちと何も変わらないじゃ無い!」
「変わるんだ星川。凄絶な証拠写真じゃ無くても、学校というコミュニティだけに流せば、十分な力になる。そして、ネットに流したときほどの過度な破壊力では無く、その後の更生の目も十分にある。人生まで摘み取ることは無い」
「東海さんは? 今のままじゃ……」
「明日彼女の家に行って話すことにしている。全く、男子になら浦山だが、女子には乃田だったり山部さんだな。仕事が楽になる。彼女が考えを変えるまで、とことんやるつもりさ」
やっぱりこれが正解なんだよ星川。急がなくても、すぐに結果が出ないとしても、これが正解なんだ。
君が諦めたとしても、僕はその理想を追う。そして、君に呼びかける。
こっちの方が最高だ。そういう風にな。
でも、今の上田一じゃあ、そんなことを言っても伝わらないかもしれない。
だから僕はこうする。
「なあ星川。僕ら、仲間にならないか?」
星川が顔をあげて、こちらを見つめる。そう。それでいい。君は上を見るんだ。
「今の僕らは、やり方こそ違えど、目指す場所は同じだ。だったら、争うよりも、手を取り合った方が都合がいい」
「……でも、私たちのやり方は違う」
「ああそうだ。でも仲間になるべきだ」
僕はなるべく確信に満ちた風にしゃべる。でも、星川の声は力ない。
「どうして? そんな仲間、口先だけじゃない」
その疑問はもっともだ。でも、そこを解消するためにまずは仲間になるべきだ。
「いいか星川、仲間っていうのは、全部が全部同じじゃ無くてもいいんだ。時にぶつかり合って、前に進めばいいんだ。そうしたら、いつかどっちかのやり方が正しいんだって、わかるだろうからさ」
結論なんて、出ないかもしれない。これは正しさと正しさの戦い。わがままとわがままのぶつかり合いだ。でも僕は、こっちの方が正しいと決めたんだ。
「だから星川。いつか結論が出るまで、僕らは口先だけの仲間でいよう。それでいい。でも仲間でいるんだ」
「浅井……私は……」
星川はまたうつむいた。
「答えはすぐに出さなくていいよ。もしこの提案を受け入れてくれるなら、表に出てきたときにまた一緒に学校に行こう。それじゃ。僕は東海さんと話してくる。もう帰ってもらわないとね」
でも僕は、君のことを信じている。誰よりもだ。心の中でそう付け加えて、僕は下に向かった。
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