第61話 case2–10 もう何も諦めない。

一応家に帰って、パソコンと捨てメアド双方を確認したが、返信がきたのは三本目だけだった。

 ということは、おそらく、サイトの運営は星川が行っている。

 返信の内容を簡単にまとめると、「詳しく話を聞きたいので、日曜日、午前十時に喫茶店アインワーシュに来てほしい」というもので、ご丁寧に地図までついていた。

 日曜日というのは妥当だ。こちらは学生なのだから、それが一番可能性的には高い。でも午前十時というのが驚きだった。アインワーシュの開店時刻は午前十一時なのだ。開店前に呼び出したと言うことは、ここの店は星川たちが押さえていると言うことだろうか。だとすれば、ここを拠点にしている可能性が高い。アインワーシュが入っている建物を確認したが、二階建てで、一階にアインワーシュがあり、二階は空だった。ここで寝泊まりしているのだろう。

 決まった。目的は達成された。

 僕は浦山たちに連絡をした。

「星川の潜伏先がわかった。毎週日曜日、朝十時に、喫茶店アインワーシュで張り込む」

____________________「で? どうしてここに私が来るってわかったの?」

 そして今。僕はここまでのことを星川に話していた。

「張り込んでいた時期的に、二度目に東海さんが来たときは確かにばれているかもしれない。でも、それだけでしょ?」

「そう。たったそれだけだ」

 でも星川、東海さんは三月学園の生徒だ。僕らの学校の人なんだ。「東海さんに恨みを持っていそうな人物はすぐに割り出せた。でも、それがあまりにも多すぎてね。実行犯の特定には時間がかかった。そもそも後輩たちの事件だから、僕らには全貌が見えにくいんだ。でもなんとか実行犯に気づくことができた。東海さんに特に恨みが深かった三人だったよ。毎週水曜日、つまり今日だね。彼らは一緒に帰る。毎週水曜日というのがちょっと気になってね、つけてみたらここの下についた。毎週毎週、東海さんを呼び出していたんだろうね。全くひどい話だ。で、僕はその翌日にここに再度来てみた。そしたら見下ろすのに最適な場所があるじゃないか。証拠をとるなら絶好のスポットだ」

 星川は口に手を当てて驚いている。そりゃそうだ。こんなやり方、僕らしくない。どもこんこん回は、どんな手も使うと決めたんだ。

 ごめんと、心の中で、僕は星川に謝る。僕はまた君に、最悪な真実を告げる。

「なあ星川、君は東海さんになにをお願いされた?」

 星川は唐突な僕の質問に怪訝そうにしている。でもしっかりと答えてくれた。

「元通りにしたいって。元の友達関係にしたいって。これのどこがいけないの?」

「そう、言葉尻だけ見れば正しい」

「……何が言いたいのよ」

 星川はまだこちらの意図が読めていない。仕方ない。これは君の知らなかったことだ。

「君は中学から入ったから知らないだろうけど。僕が小学五年生の時、一つの事件が起きた。僕らの後輩の一人が、リストカットして自殺をはかった。結局は未遂に終わったがな。原因はいじめ。主犯格は東海さんだ」

 星川の顔から、表情が消えた。

「彼女はそのときこう言っていた。『私は何も悪いことをしていない。みんな楽しんでたじゃん』ってね。本気でだよ。つまり彼女の善悪の設定は少しおかしい。こう言ったんだろ? 元に戻したいって。つまりはそこに戻りたいんだよ。目標設定が間違っている」

 話し続けていけば行くほど星川は崩れ落ちていく。耳を塞いで、目を閉じて、もう何も受け入れたくない風に。

「でも今回は何も失わない」

「……何を言っているの」

「ごめん。心の声が漏れちゃったみたいだね。でもそういうことだ」

 一度目は深海の事件。気づいたときには何もできなくて、星川は知らず知らずのうちに失っていた。でも二度目の今回は事前に察知できた。そして事件は僕らの庭で起きた。なら、もう何も諦めない。絶対に、だ。

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