つづきの季節のお話
11/24
おやすみを
伝えるひとが
いないから
まだ眠らない
夜更の天使
11/25
飛ぶ姿
見てみたいけど
きみの羽
戻ってきたら
さよならだろね
結末を
知ってなお飛び続けるか
果てへと向かう
星の片割れ
11/27
どこを探しても出てこない、去年は確かに着ていたのにな、お気に入りの風通しの良いシャツ。この家では物が失くなる。いつの間にか埋もれてしまう。おおい、出ておいで。窓を開け放つ。見えもしない暗がりの中にいるよりは、せめて雲まで飛んで行け。
12/18
朝も晩も休まず家の前を綺麗に雪かきしていたあのおじいさんは今年の春に物置きで死んでしまった。おばあさん一人の冬、玄関先だけだが、やっぱり綺麗に雪かきされていた。おじいさんが雪かきして行くのだ、と教えてくれた。
マルメロを部屋に置いておくと香りが広がる。この書斎の元の持ち主はマルメロが好きだった。部屋に香りが染みついていて、秋になると隙間風が香りを運ぶ。記憶に誘われて私もマルメロを探しに出るようになった。同じ名前の詩集を古書店で見かけた。
12/20
行方知れずのあの子、きっと今もどこかで生きているんだ。幾度となく見る、夢であの子は家まで帰って来る。そうして目覚めて、焼き場から昇る煙を思い出す。確かにあの子、きちんと帰って来たのだけれど、私の中ではまだ行方不明のまま。
5/16
呼ばれない名前を持っている。私も知らずに生きてきたのだが、つい先日、耳元を通り過ぎた魂が囁いた、その言葉に振り向いた。どこの国の言葉だったか、何と言っていたのだか、もう忘れてしまったけれど、ひとや猫や生命は幾つかの名前を予め持っている。
6/5
時々会う天使は、決まって「はじめまして」と挨拶してくれる。車道をはさみ、樹木の影に埋もれ、小さなこの街ですれ違う度に手を降るのだけれど、言葉を交わすときはいつもこうなのだ。ひとは再生を繰り返す生き物で、昨日の君はいないから、だからはじめましてと言うのだと。
2/3
雪の中に骨を埋めたのは誰。赤黒い大腿骨。地面に落ちたままの姿で骨になった鳥。巣穴を間違えたネズミ。埋もれたままの彼らは無言で見つめてくる。どこに行きたかったのか。春はいつ来るのか。
12/23
空を覆う大鳥が、草原に影を落としました。なにもない草原の、木も虫も花蛇も、すっぽりと闇に包まれました。大鳥が通り過ぎ、再び陽が射すまでの間に、いくつかの生命は生涯を終えました。虚空の大鳥は、花の芽を啄むこともなく、終わりを告げる鳥なのです。
12/25
もう寝なさいと促した。夜は眠るものだ。一日のほとんどを寝て過ごしているというのに、今日だけ惜しみ頑なになることもない。音楽は鳴り止むものだ。お喋りは尽きないが。眠くなったら眠ればいい。明日が来ない私でも、そろそろ寝ようとしているところだ。
12/30
昼間に留まる夜の闇。座る人がいない椅子の上。押入れの奥。目を向ける者がいない場所に、切れ端が落ちている。空も海もない浜辺に月が浮かんだと思ったら、片目を開けた夜だった。どこにいたって会えるから、ぼくはきみを探さない。瞬きの間に季節が変わる。
9/11
探しに行くのだ。夏がどこかに隠れているから。入道雲や月の向こう側。回り込んで別世界。家までの帰り道でも寄り道。家々の屋根を伝って遠くを見渡す。今日は知らない道を通ってみようか。今日も探しものは見つからないけど、おみやげ拾って帰るから。
9/17
数年前に亡くなった人が、サンダルを突っかけて朝の川辺を散歩していた。ああ生きていたのか。確かに見送ったはずのその人とすれ違う。記憶の中の人々は、時々抜け出し街での生活を楽しんでいるようなのだ。誰にも言わない。街には忘れられた隙間の空き地がたくさんある。
5/24
夕暮れの橙色の空にきみを探す。きみは風になり、夕焼けになり、花になる。どこまでもぴょんぴょん飛んでいけるのが嬉しくて遊び回っている。りんごの花が咲いては散り、たんぽぽの綿毛が飛んで、初夏の木々が若葉を揺らす。季節が過ぎていき、きみは遊び、また夕暮れがやって来る。
漂流する天使譚 ほがり 仰夜 @torinomeBinzume
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