超・【短編集】ConteDrops

TSUBAKI

第1話 カレーを食べに行こう

「あれ、こんなところにレストランなんてあったっけな?」

新しく店ができると、決まって僕はスケジュールの合間を縫って駆けつけるのだ。

行きつけの食堂が潰れて早二年。親父さんの手にかかれば、焼き魚のようなありきたりな料理も極上の一品に仕上がる。あの食堂のように足しげく通いたくなる店はまだ見つけられていない。

”ファミリーカレーレストラン マッスルカワサキ”。目を引く”スープカレー半額”の文字。新しく見つけた店。ドアのOPENの文字が輝いて見える。心を躍らせてドアを開けた。

「お客さん、すいませんが今はやってないんですよ」

「どうしてですか?」

「今日は納得いくスープができないんですよ」

「明日以降お越しください」

髭を蓄えた40代くらいのおじさん。この店のマスターのようだ。スープにこだわり店を開けないとは相当こだわっているのだろう。24時間が待ち遠しい。


昨日と同じ時刻になった。どんな味わい深いカレーが味わえるのかと興奮している。

チキンカレーもあったらいいな……

「すいません、スタッフが足りなくて」

「そうなんですか」

ルウ、スープの研究に明け暮れ肝心なスタッフを雇い忘れていたのだという。

「申し訳ございません。1週間で何とかします」

「1週間でスタッフ雇えんの?」

「……townwork……indeed……」

「何か言いましたか?」

「いえ」

「楽しみにしてたのに……」

約束の7日間は想像するより長かった。5日間仕事に行き2日間家で休む。そんな単調な作業と化していた僕の7日間を、例のカレー屋は彩っていた。いつものコンビニ弁当を食べるときもカレーのことを思い出してしまう。例のカレー屋はまた、僕に食べる楽しさを思い出させてくれていた。


8日。8日経ってやっと。やっと審議できる。この店が僕の人生の1ピースとなるかどうかの審議だ。カレーへの羨望を今解き放つ!…………はずだった。。

「内装がまだ」

「なにやってんだよ!内装工事してスタッフ雇ってスープ作れ!」

「すいません」

「あなたは悪くないですよ。店長だよ全ての元凶は!」

宣言通りあの男は1週間でスタッフ4人を雇い万全の体制を整えた。

最近のバイト探しスゲェ。

「いらっしゃいませ、スポーツジムです」

「何で店変わってんだよ!楽しみにしてたのに!」

「冗談じゃないですかやだ~~」

「馴れ馴れしいんだよバカ」

「もちろんお食事もございますよ」

「……じゃあ、いいか」

「おひとりでよろしいですか?」

「ええ」

「クハハハハッ…」

「何がおかしいんだ!」

「お客様、当店はファミリーカレーレストランでございます。カレーレストランです」

バイトの店員も笑い出す。

「一人でファミレスwww」

「やかましいわ!」

もう一人男が近づいてきた。

「一名様ですね」

「はい」

「じゃあ店員呼んできますね」

「お前誰だよ」

「オーナーです」

「しゃしゃり出なくていいよ、、」

「チャイルドシートお貸ししまs」

「要るかバーカ!」

「すいません、ご案内します」

「灰皿はどうされますか」

「いいです。から」

「いや急に謝られても」

「一生タバコしゃぶってろコノヤロー!」

怒鳴った後ため息をついた。なんだこの失礼な奴らは。……でも、これからお世話になるかもしれないから少し態度を変えないといけないかもな…………

「それではご注文がお決まりになりましたら起こして下さい」

…………と思っていた僕がバカだった。

「……寝るなぁ!」

「ん………ムニャ」

「熟睡かよぉ」

「……む……もう食べられないよ…」

「こっちが食べに来てんだよ!」

「ハッ!……寝てたか…スイマセン!」

「お前どうしようもねぇな」

「夜3時間しかいつも寝れないんです…激務なもので」

「……お前大変なんだな」

「ですから5時間昼寝してます」

「割と寝てんじゃねーか」

男はスマホを取り出した。電源切っとけよ……

「ログインボーナス取ってねぇな。あっ、今日イベントだったわあっガチャ引かないと」

「……お前の激務ってゲームか?」

「ご注文は?」

「誤魔化すな」

だめだ。またキレたらだめだ。もう少しでスープカレーが食える。

「まぁいい、このスープカレーをくれ」

「ノンノン、soup curry」

「発音はいいわ!」

帰国子女なもので」

「じゃあ灰皿要らないですね」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

「何が分かんねえんだよ」

おめーが言い出したギャグだろうが。仲良くしようとしてやったのに……。

まあいい。全ては僕の舌で決めてやる。

「このサラダもくれ」

「ノンノン、salad」

「やかましいわ」

「ドリンクバーもつけて」

「ノンノン、drink bar」

この勝負、僕の勝ち。

「……引っかかったな」

「へ?」

「drink barは和製英語だよ!」

「…以上でよろしいですか」

「また誤魔化したし」

「では腕立て伏せしてお待ちください」

「…………なぜ?」

腹減ったのに………聞いたことねえぞ腕立て伏せしないといけない店なんて。

「お待たせいたしました。スープカレーでございます」

8日も待たせて、やっと食える。スープルウをライスに絡めてがっついた。

「……ん?何だこれ」

「プロテインが入ってます」

「スポーツジムか、ってこの店!」

「史上初、スポーツジムレストランです。結果にコミット!」

「もう帰る」

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