第2話

ひとまずの完結です、何かあったら続き書くかもしれませんので。

よろしくお願いします。


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俺たちは現在ビーチの辺りに居る。

砂浜にテントを立てていて、俺はその中にいた。

「えいやっ!ロボっ!」

外ではスク水を着たエクストが海の中で魚と格闘していた。

眼鏡は海でも身につけたままなので、眼鏡ロリ巨乳がスク水を身に付けているためイヤでも周囲の視線を集めてしまう。

どうやら水の神の言葉通り、あのスク水には本当に防水の加護があるようだ。

リムはビキニを身に付けて昼食の準備をしている。

リムのスタイルは抜群で胸なんてこぼれ落ちそうだから、イヤでも俺はそっちに目が行ってしまう、男なんだから仕方ないよなっ!

「もう少しで良い具合になるぞ」

リムは海にいた怪しい紫色のクラゲを焼いている。

「これ本当に食べれるの…?」

なながリムに向かって訪ねる。

ななの格好は可愛らしいワンピース水着だった。

「クラゲぐらい可愛い物だぞ、お姉ちゃんは昔妙なキノコを食べて

丸1日中笑いと涙と脂汗が止まらなくて死にかけた事があった

その上翌日何事もなかったかのようにピンピンしてたけど」

リムがサラっととんでもない事を言う、アルエットさんにそんな過去が…

「君のお姉ちゃんはすごい強者なんだ!一度会ってみたい!」

ななも強者で済ますなよ!確かにそんな目にあってピンピンしてたのはすごいけど…

「ってかリムの答えは答えになってるようでなってねーよ!『クラゲは食べて大丈夫か』って訊かれたのに!」

俺は思わず突っ込みを入れていた。

しばしリムの様子を見ていると、焼いてたクラゲは蒸発して、ほとんどなくなっていた。

大半が水分なんだから当然だ。

「あっ…」

「ほら、やっぱり焼くのはまずかったでしょ、そのクラゲ自体不味そうだけど」

何故俺たちがこんなビーチにいるのかと言うと…


俺たちが森を一応防衛して、報酬を受けとるために町に戻ると。

そこには一部破壊された建物があって、怒り顔の町長さんがいた。

「な!なんだこの惨状は!」

俺はその惨状に疑問を覚えたが、すぐにそれは解明された。

「森の方向から巨大爆弾がいきなり飛んで来たんですよ!!そして爆発を起こして!」

「森の方から爆弾…はっ!!」

俺の脳細胞がトップギアになって回転する、ボムリンに放たれた巨大爆弾を跳ね返したが。

あれが町に向かって行ったのか!

テンション上がって打ち返す選択肢をした俺が一番悪いのか!?

「す!すいません!俺が原因かもしれません!」

「あのアホ(ボムリン)をボコるヒマがあったら上空で破壊しとけば良かったロボ!」

俺とエクストは深く後悔していた、少しでも冷静に判断してれば被害は減ったハズだから。

「あーちゃんもエクちゃんも全部悪いわけじゃないよ、リムも頭に血がのぼってたしな」

リムは俺たちのミスをフォローしてくれる、その気遣いが嬉しかった。

「私ももう少し早くあの水鉄砲を使った兵士の動きに気付いてればもっと違ったかもしれないし」

ななも優しく言ってくれる。

「麗しく美しい友情!素晴らしいですなっ!歳取って久々に良い物を見ました」

町長さんが感動でむせび泣く、こ!この調子なら!感動して制裁はなしで報酬はもらえるのか!

「だけどそれとこれは話は別!このありさまなら正規の報酬は払えませんな!

頼んだ手前、無為には出来ませんからこれで手を打ちましょう」

町長さんはそう言い、チケット数枚を俺たちに手渡す。


町長さんから受け取った物は、ビーチでのキャンプ券、数日分だった。

そんなわけで、俺たちはキャンプをしている。

「ところでさ、あいつら魔王様とか言ってたけど、どんな奴なの?」

俺は疑問をぶつける、魔王軍の奴らがあんなに気持ち悪い発言を平然と放つからには

相当のカリスマ性などがあると推測していた。

「外見はこんな感じみたいだよ

グロウちゃんがこの前の戦闘で落としてった」

リムは数枚の写真を取り出す、そこには黒のマントを身につけて、角を携えた勝ち気そうな女の子の写真があった。

その写真には『魔王様(ハートマーク)』と書いてあった。

この女の子が魔王?随分若く見えるな、魔族だろうから外見と年齢は一致しないだろうけど。

「機密守る気ゼロかよ!アイツ!」

だが、俺は良い手を思い付いた、写真をスマホで撮影する。

そして、画像編集アプリを起動する。

「?何をする気だ?」

リムは俺に疑問をぶつける、俺は編集写真の使い道を考えていた。

「秘密ひみつ、イザとなったらある事に使うんだ」

俺がスマホで作業している傍ら、ななが本を眺めていた。

「さーてと、どこかに強い相手はいないかなー♪」

ななはパーティの一員ではないが、金も無く、テントも持っていないため俺たちと共にいた。

金にあまり執着がないらしく、手に入れてもすぐに修行や武具の強化などに使ってしまうらしい。

ななは楽しそうに周辺のガイドブックを眺めている、自分を高めるために戦う相手を探しているようだ。

「ん?強い相手を探してるのか?

どうやら今はあそこの山にアイドルと武将を両立してる強い人がいるらしいぞ?

希望があれば手合わせしてくれるらしい」

リムは山の頂上を指差す。

突拍子がない話だな…アイドルと武将とか…

でもななはリムの話を目を輝かせてワクワクとした様子で訊いていた。

「うんうん!それでそれでっ!」

ななは今にも飛び出しそうな様子でウズウズしていた。

「武器は青龍刀で、代表曲は『恋の青龍刀でめった切りっ☆』らしい

ライブでは青龍刀を投げるパフォーマンスがウリのようだ、観客席に」

「なんだその痛い曲は!しかもパフォーマンスで観客席にそんなもん投げんなよ!」

どんなアイドルなんだよ…それ…

話を訊いていると、ななはいつの間にか着替えていて。

水の神に預けた龍虎丸(オール)の代わりに木刀を手に持っていた。

「じゃあ!ちょっくら私行ってくるねー!」

そう言うと、ななは猛スピードで走り出し、あっという間に消えて行った…

嵐のような奴だな…

「えーと…俺たちどうしようか?」

俺はななに呆れつつも、リムに訪ねる。

「とりあえず、リムは明日タコ焼きのバイトでもして来るかな?

エクちゃんには留守番と食料調達を頼んでいる

君は好きにすれば良いよ」

リムはそう言い、テントに座り一息つく。

俺はどうしようか?少し遊んだ後にジョギングでもしようかな?

俺は少し古い携帯ゲーム機、PNPを取り出し、ゲーム『ブシドーソード』を起動させる。

ゲームには、お互いに一礼してから、外人で胸毛ボーボーで侍のオッサンが女忍者をハンマーで殴り飛ばす光景が写し出される。

ダメージ表現がリアルで、手足が負傷したらその部分が動かなくなり、当たりどころが悪かったら一撃で即死と言うゲームだ。

ちなみに一礼の最中に攻撃したら武士道に背く事になる。

(ただしナイフなどを投げつけたり、砂を活用して目潰ししたり、銃を使うのは武士道に反していないらしい)

リムがじっと俺の方を無垢な瞳で見る。

俺は女の子に慣れてるわけじゃないから、やっぱり照れるな…

「それ面白そうだな、なんてゲームだ?」

リムが俺に訪ねる、女の子が近寄りづらいゲームなのに興味を示すなんて珍しい。

「ああ、これはブシドーソードってゲームでサムライ達の戦いと一撃必殺がウリのゲームだ」

俺はそう説明し、リムに説明書を見せる。

その瞬間、腕輪が発光し、PNPと説明書を照らす。

「えっ!?」

俺はその光景に仰天した、腕輪が説明書を照らすと、文字は見た事もない文字に変換されていた。

「これは…リムの世界の文字だよ」

リムはそう言い、説明書を眺める。

確かに町には俺に読めない文字で色々書いてあった。

「地球だって国が違えば文字も変わるからな、日本語が読めないのもわかる」

リムに日本語が読めるとは思えないから、腕輪に補助的な機能でもあるのか?

変換とか通訳みたいな。

「ふーん、戦いのゲームなのか…」

リムは食い入るようにそれを見つめる、俺はリムにPNPを差し出す。

「良かったら遊んでみる?」

リムはどこか嬉しそうにそれを手に取る。

「ありがとう、初めて遊ぶゲームはわくわくするよ」

リムは可愛らしく座り、ゲームに意識を集中する。

ゲームも音声こそ代わりないが。

説明書と同じように日本語の文字がリムの世界の文字が変換されていた。

「こうすれば武士道に背かないし、エンディングへのルートは…」

俺はリムに解説する、リムは俺の解説を理解すると、サクサクブシドーソードを進めて行った。

しばらくすると、ゲームでは武士道に背きまくった銃を持った敵が出現する。

『死にな!』

銃を持った敵がプレイヤーの外人胸毛オッサンに銃撃するも、リムは初見で難なく回避する。

オッサンは銃撃のスキをついて、男の後頭部をハンマーで強く殴打して撃破する。

「すっげー!あれを初見でかわすなんて!」

俺はリムの腕前に驚いていた。

「そうか?ありがとう、勘と運だよ、たまたま」

リムは謙遜しているが、まんざらでもない様子だった。

しばらくしてブシドーソードをクリアしたリムは、他のゲームに視線をやっていた。

「次はな、これやりたいな」

そう言い、リムはこの前の魔法の元にもなったゲーム、『魔法少女落ち』のパッケージを手に取る。

キャラは萌え系とポップの中間辺りなので、女の子でも手を取りやすいデザインだ。


「んんっ、えいっ」

リムは魔法少女落ちは上手くなく、下手でもなかった。

初見にしては器用ではあるけれど、現時点では普通だ。

「そこは右に置けば良いかも」

リムは俺の言葉に頷く。

楽しそうにゲームを遊んでいる。

ゲーム内でキャラが動く姿をじっと眺めている姿が可愛らしい。

「コツは少しずつわかって来たし、また今度貸してもらって良いかな?」

リムの言葉に、俺は頷く。

俺も好きなゲームだから、リムに気に入ってもらえて嬉しい。


次はリムは刑事物のアドベンチャーを遊んでいた、画面に選択肢が出ている。

選択肢はイヤミな上司にムカつきつつも耐えて挨拶をするか。

もしくは怒りが原因でいきなり射殺かと言うカオスな選択肢だった。

「ん?これはなんだ?まさかいきなり上司を射殺するわけないよな」

リムは冗談半分で射殺の選択肢を選ぶ。

普通に考えたらキレやすい若者を通り越して、ただの殺人犯か放送禁止用語レベルの危険な男だが、これはゲームの中…

「あっ!それは!」

俺は思わず声を出すが、もう遅かった。

主人公は何のためらいも脈絡もなく、上司を射殺する!

主人公は逮捕されて人生は終わり、ゲームオーバー…

「………なんだこれは?主人公は○○○○なのか?」

さすがのリムもあまりの理不尽過ぎる展開に呆れていた。

と言うか何故こんな奴が警察になれたのか、何故こんな物騒極まりない男に銃を持たせているのか…


リムと色々ゲームを遊んでいたが、リムのゲームの腕前でわかった事がある。

アクションやシューティングなどはかなり上手く、スポーツゲームもスポーツのルール自体がわかればかなり行ける。

反面RPG、アドベンチャー、シミュレーションなどが苦手なようだ。

パズルの腕前は普通で、ギャルゲーの類いには興味を示さなかった。

「君の世界のゲームはいろいろあるんだな、面白いよ」

リムは満足そうな顔で言う。

「そうか、もっと色々あるよ、俺が部屋に戻れたら一緒に遊んでみるか?

stitchとかPN4とかいろいろあるし」

俺が言うと、リムはどこかワクワクしている様子だった。

「名前だけじゃよくわからないけど、面白いのが沢山あるなら遊んでみたいよ

ありがとう」

俺は静かに笑うリムにドキリとしてしまう。

「う、うん…」

やっぱり、ストレートに感情を見せられるとドキドキする、可愛い女の子が相手だから。



俺がテントで寝ていると、何やらエクストが大きな声を出しているのが聞こえる。

「やめるロボ!お姉ちゃん!」

俺はその声で目を覚ました。

「ん…ん…」

俺が目を開けると、予想外の光景が飛び込んで来た。

「!?!?」

リムがパンツだけの状態でそこにいたから…

柔らかそうで張りのある胸とお尻がいきなり視界に飛び込んで来た。

い!いきなりこれは強烈過ぎる!

リムは隠す様子も無く、俺の方を見る。

「あ、起きたか」

エクストが大きな声を出したのはこの場で着替えたからか…

「あ、ああ…」

リムは全く俺を気にせず魔法使いの服に着替えていた。

ドキドキするから平然とするのやめろよな…

俺はふとエクストの方を見ると、メイド服を着てフライパンや包丁を用意して、朝食の用意をしていた。

ななはまだ帰っていないようだ。

「しっかし、あいつは急に飛び出しちまったけど、大丈夫なのか?」

ななの力ならその辺のモンスターにやられる心配はないが、やっぱり女の子一人なら危険じゃないか?

そう考えていると、急に猛スピードで何かがこちらに迫って来た!

方向からすると、あの山の方向から飛来して来たように見える。

「あっ!」

エクストは仰天し、そしてそれは、エクストが持ってるフライパンに刺さった。

「な!なんじゃこりゃ!矢?」

俺がフライパンの方に目をやると、そこには矢文が突き刺さっていた。

俺はこの世界の字が読めないので、エクストが代わりに矢文を読み始める。

「えっと…なになに…『今日の夜には戻るから心配しないでね☆』と書いてるロボ

ななの名前も書いてるから、ななからの手紙ロボ」

うわ…演出派手なわりには文章が淡白過ぎるぞ…

「どこで何をどうしてるのか具体的に書けよ!」

俺が言うと同時にエクストは手紙をしまい、朝食の準備をする。

安価なキャンプ用の食器やはんごうなどが並んでいる。

昨日リムが捕っていた怪しいクラゲとエクストが捕っていた魚が並んでいた。

俺もただ見てるのは申し訳ないから、手伝う事にした。

少しは家の手伝いした事あるから、これぐらいは俺にも出来るはずだ。

「エクスト、俺も手伝うよ」

エクストに声をかけると、エクストは頷く。

「助かるロボ、それならお魚を頼むロボ」

そう言い、エクストは魚を俺に差し出す。

「よし、わかった」

俺は魚をさばく、俺なりにやれる事はやっておこう。

エクストは慣れた手つきで調理してるだけに、俺が不馴れな事が際立つ。

身も結構取れてるし、魚の型も崩れ気味だ。

「あちゃー…」

俺は頭を抱える、エクストがその光景を見ていた。

「お米あるから混ぜご飯にしちゃうロボ、お米あるロボよ?」

そう言い、エクストが米を俺の目の前に差し出す、その手があったか。

「なるほどな、さんきゅ」

俺はエクストの指示を受けて、魚の身をほぐす。

エクストはクラゲと野菜を混ぜて、クラゲのサラダを作っていた。

エクストは鼻歌を歌っていて、どこか楽しそうだ。

俺はあまり料理はやらないけど、たまには料理も悪くないかな?


しばらくすると、簡易テーブルの上にサラダと混ぜご飯が置かれる。

俺とリムはいただきますと一礼して、朝食に手を伸ばす。

リムは少食なのか量が少な目で、エクストはロボットなので物を食べる必要がないのか、エクストの前には何もなかった。

そのため、朝食の大半は俺の前に来ていた。

リムは満足そうにサラダと混ぜご飯を食べている。

「うん、美味しいよ二人とも、ありがとう」

リムはそう言い、静かに笑う。

俺も朝食に手を伸ばすと、俺の混ぜご飯は見た目は良くないけれど、エクストのアドバイスでなかなかの味に仕上がっていた。

サラダはクラゲのコリコリした食感と、野菜のみずみずしさが上手くミックスしている。

「流石メイドだ、見た目がロリでもやるな」

「み!見た目は関係ないロボ!」

エクストがぷんすかした様子で反論する。

そんな様子が可愛らしい。

「スゴい色してたけど、マジで美味いやこれ」

「焼くのは論外だったな、エクちゃんのサラダの方が断然素材を活かしてるよ」

俺とリムが食事を楽しんでいると、ふと思う事があった。

エクストは自分で作ってるのに、自分が食べられないのは寂しくないのかって。

だけど、エクストは楽しそうに笑いながら、俺とリムの方を見ていた。

「えと、エクストは自分で作った物食べられなくて良いのか?」

俺が疑問をぶつけると、エクストは目線をこちらに向ける。

「ボクの作ってくれたご飯を美味しく食べてもらえた方が嬉しいロボ

メイドだから以前にボクの趣味ロボ」

エクストはそう言う、不満を感じず、それでいて自分が仕事を楽しむ。

その心構えは見習わないとな。

「よっしゃ!それならご飯の後ジョギングでもして来るか!」

「うん、リムもいつもエクちゃんに助けてもらってるよ」

エクストは俺とリムの言葉を訊いて、照れてはいたが、どこか嬉しそうな様子だった。


朝食を終えると、エクストが着替えを用意してくれていた。

「そうそう、今アキラの着れそうな服はこれしかなかったロボ」

そう言い、エクストが取り出したのは、『うさちゃんパラダイス』のバニーガールの女の子が描かれてるTシャツだった…

「う!うげえっ!?」

汗臭くなってるし、着替えるにはこれしかない…背に腹は代えられないって事か…

俺は確かにゲームとかやるし、萌えも好きダヨ?だけど!人前でこれを着る程の度胸は俺にはない!

色々あって焦ってたから、ロクに着替えも持って来れなかったんだ。

「その服恥ずかしいなら今日はずっとテントに居れば良いロボ」

エクストが俺に言うが、ジョギングをサボるわけには行かない。

男の意地で、どこか引くに引けなくなっていた。

「い!いや!行ってみせるさ!例えどんな格好でも、男として!!一日の鍛練は欠かしちゃいけないんだよ!!」

俺は半ばやけくそで、エクストにそう宣言した。


俺は走り込みをしていた、潮風と熱い空気の中、よぎる風が心地好い。

「なんざましょ…あれ…?」

「あのシャツやっべー…」

「も!萌えるぜ!」

「異世界人ってあんなに痛い奴ばっかなのか…?」

そう、俺が萌えTシャツを着て走って変な目で見られてなければ心地好いんだけどな!

俺は出来るだけ心を殺して走っていた、なんとでも言うがいい!泣いてないよ!たぶん…

俺が無心で走り込みを続けていると、どこからか驚愕の声が聞こえる。

「そ!その服の絵は!」

俺はその声に驚き、脚を止める。

その声の主は、この世界ではごく一般的な格好をした普通の男性だった。

「え、えっと…俺に何か用でしょうか?」

その男性は俺の服を見て顔を赤くしている。

「そ!その絵を見ていると胸が熱くなって!その大きな目やまばゆい笑顔に心奪われて!」

ああ、なるほど、この世界じゃ萌えアニメとかなさそうだから、俺の服に心奪われてるのか。

萌え初体験なら気持ちはわかる…

「ああ、着てる俺が言うのもアレですけど、可愛い絵ですよねコレ」

男性は必死な目で俺にすがりつき、俺を見る。

ある意味アルエットさんより恐ろしいかもしれない…

「譲って下さい!!この服!一目惚れしました!!お金は出しますから!!」

Tシャツは正直恥ずかしいけど、一応俺の貴重な着替えのひとつだから今は譲れない。

そこで俺は提案を出す。

「そうだ、Tシャツはダメでも画集や人形はどうですか?」


俺はテントに戻る、そこにはちょうどエクストもいた。

「どうしたロボ?こんな早く戻って来て?」

「エクスト、俺の荷物を出してもらって良いかな?」

俺が言うと、エクストは異空間から俺の荷物を取り出す。

俺は荷物を漁り、美少女フィギュアと萌えイラストレーターの画集を取り出す。

俺の目の保養のために持って来たけれど、こんな形で役立つのは予想外だった。

「?フィギュアとただの本で何する気ロボ?」

エクストが屈んで俺の方を見る。

「ああ、ちょっとね」

俺はエクストの方を見ると、ふと考えがよぎった。

「?ボクがどうしたロボ?」

エクストは間違えてもあの人と遭遇させてはいけないと考えた。

萌え初心者が耐性ないうちに萌え属性の塊のエクストを遭遇させたらどうなる事やら…


「俺が今譲れるのは、これぐらいですかね?」

俺は先ほどの男性の家にフィギュアと画集を持って行った。

ゲームは今後リムの魔法を形成する上で必要になるかもしれないので、それは持って来ていない。

男性は目をイルミネーションも顔負けなほどにキラキラと輝かせて歓迎してくれた。

「おおっ!!このスカートのチラリズムとと胸元のこだわり!この何かを感じさせる靴下!吸い込まれそうな大きくてキラキラした瞳!小悪魔的な表情!それでいて童顔なのがたまりません!!

今日は僕の誕生日だから喜びもひとしおですよ!」

男性は俺でも引くぐらいに感動していた。

「おおっ!素晴らしいっ!ハッピーバースデー!!」

俺は男性の誕生日を祝福した、色々な意味ですごい誕生日だな!

男性はきちんと領収書を作成してくれていた、猛スピードで手書きで仕上げる辺りに鬼気迫るものを感じる。

「これなら、6000カーナでどうですか?」

この世界の通貨名は『カーナ』と言うるしい。

俺にはこの世界の貨幣価値はわからないが、知らない世界なら少しでも金は持っといた方が良い。

金銭的な事についてはそもそもリムとエクストは家を修理するために旅立っているからアテにするわけにはいかない。

大切なフィギュアと画集を手放すのは惜しいが、俺は承諾する事にした。

「はい、OKですよ」

「うおおおお!ありがとうございます!今日はこの人形を枕元に置いて寝ます!この本は聖書のように崇めます!」

す、すっげー喜びぶりだ…俺が引くぐらい…のテンションだ…相当ツボにハマったんだな…


俺はフィギュアと画集を売った後、走り込みをしていた。

あの人と萌え談義に花を咲かせていたらすっかり外は暗くなっていた。

俺が家から出た瞬間、周囲から何やら悲鳴が聞こえる。

「お!おい!あれは何だ!?」

「あ!新手の飛行魔法か!?」

その声に釣られ、ふと俺も空を見上げると、何か風を切って、猛スピードで空を飛んでいた。

「ん?なんだアレは?」

ってかどんどん俺の方に向かってる気が…その飛行物体?から何か悲鳴のような声が聞こえる。

それも聞き覚えがある声が…

「きゃああああああっ!!ど!どいて!彰君!」

俺が夜空の中、目をこらして見ると、その迫って来てるのは、ななだった。

吹き飛ばされて俺の所に迫って来ているようだ、圧倒的な風圧をまといながら!

「なな!?なんで俺の所に来るんだよ!?そして何故吹っ飛ばされてるんだ!?」

俺が色々な疑問で頭が真っ白になってる中、そんな事はお構い無しにななが俺に向かって来て、激突し、鋭い痛みが全身に走る!

「ぐわらばっ!!」

「きゃっ」

俺が大ダメージを受けるのとは対照的に、ななの悲鳴は小さく短かった、吹き飛ばれた時は大声を出してたけど激突のダメージは軽微とか…どんだけタフなんだよ…

「あ、彰君…」

ななの声が聞こえる。

「む、むぐっ…」

俺が目を開けると、その視界は白かった。

手を伸ばすと手のひらに小さいけど柔らかい感触があって、指先を動かすとそれの形が変わるのがわかる。

そして顔の辺りに暖かくて柔らかい感触が…ってまさか!

「あ、彰君!すぐどいてっ!」

俺の視界が回復すると、ななが立ち上がる。

「ご!ごめん!まさかこんな事になるなんて!」

俺は必死に頭を下げる。

ななが顔を真っ赤にして涙目になって、俺を睨み付けるようにして睨んでいる。

ようするに、俺に激突した時に俺がななの袴の中に顔を突っ込んでいて。

俺の手がななの胸元にあったってわけか…

「今回は私にも非があったから…ゆ、許してあげるっ…」

ななが顔を真っ赤にして胸を隠しながら言う。

ななの様子は恥じらいがあって可愛らしい。

俺はどこか罪悪感と共に、ドキドキするのも感じていた。

「う、うん…ごめん…」


俺はななと共にジョギングをしていた。

ななも鍛練のために俺に付き合っていっしょに走っている。

「なあ、なんでいきなり吹っ飛んで来たんだよ…」

俺は当然の疑問をぶつける、何故あんなむちゃくちゃな登場を…

「えっとね、強い女の子と私で昨日と今日でずっと戦ってて

必殺技を受けて、その衝撃で吹っ飛ばされた」

うわー…説明がざっくりとしすぎて意味がわかるようなわからないような…

「そ、そうなのか…それは大変だったな…」

深く訊いても意味がわからないと思うので、俺は適当に流した。

「ううん、別に大変なんて思わないよ、だって強くなりたいって思ってるだけだから」

なながそう屈託のない顔で言う。

俺はふとななの服に目を向ける、ななの服は戦闘の影響なのか、ところどころ傷ついていてボロボロになっている。

あんな目に合っても好きな事だから頑張れるって事か。

しばらく走り込みを続けていると、身体が熱くなるけど、冷たい夜風が心地よかった。

「なな、先に帰っててくれ、俺はもう少し走るから」

ななは俺の言葉に頷いて、テントに戻る。

俺はななにそう言った、好きな事なら頑張るべきだと思ったから。

俺が夜の町の景色を眺めながら走っていると、ひとつの露店が目に入った。

ふと目を引かれ、俺はそこに向かう。

その露店には、多数のブローチやペンダントなどのアクセサリーが集まっていた。

「これは…?」

俺は露店のアクセサリーを眺める、そこには可愛らしいブローチがあった。

俺は気になったブローチ3つを手に取り、店の人に声をかける。

「すいません、これお願いします」


俺はテントに戻ると、皆が出迎えてくれた。

「ずいぶん遅かったじゃないか、何してたんだ?あーちゃん?」

リム、エクスト、ななが俺にかけよって来る。

この後三人に喜んでもらえると思うと、頬がほころんでしまう。

「皆、これはお土産だ」

そう言い、俺は三人の前にブローチを差し出す。

俺は三人のブローチを先ほど購入した。

リムにはリンゴのブローチ。

エクストにはピンクの花のブローチ。

ななには船の形のブローチだ。

「ありがとうロボ、可愛いロボね」

エクストは花のブローチを手にして、無垢に微笑んでいた。

「こういうのもお洒落で良いね、ありがと」

ななはどこか得意気に船のブローチを掲げる。

「アクセサリーか、嬉しいな、リムは始めて見たよ、どう使うんだ?」

リムはブローチを見るのが始めてのようで、どう扱うのかわからない様子だった。

エクストがリムに駆け寄る。

「お姉ちゃん、これはこうするロボ」

エクストは丁寧にリムの胸元にブローチをつけて行く。

「へえ、これは可愛いな、ありがとう」

リムはブローチを満更でもない様子で眺めていた。

皆にこんなに喜んでくれるなら、フィギュアと画集を売った甲斐があったかな?

喜んでくれてるのを見ると、胸が熱くなる。


テントの中にまで、騒がしい声が聞こえて来る。

ある朝、俺は騒がしい声で目を覚ました。

周囲には悲鳴のような声と獰猛な声が響きわたっている。

「な!何事だ!」

俺が飛び起きると、リム、エクスト、ななの姿か目に入る。

三人はすでに戦闘状態の服を着ていた。

「町にモンスターが襲来したみたいだ、悠長にご飯食べてる時間ないからこれでも食べながら来ててくれ」

そう言い、リムが何もつけてない食パンと水を手渡す。

「っておい!朝食がこれかよ!しかも着替える時間すらないからパジャマだし!」

とか言っても、外からは獰猛そうな声が聞こえるから、着替えている時間すらない、俺はパジャマのまま外に出た。


外には巨大イカのモンスターがいた。

海の中にいて、その巨体で畏怖を放っている。

「何故こんなところにモンスターがロボ!」

エクストが驚愕の声をあげる。

俺はパンを口に含んで咀嚼しながら、その光景に驚愕していた。

「ここには聖なる結界が張ってあって入れない筈!」

ななもまた、町にモンスターが入り込んでいる事に疑問を抱いていた。

俺はパンが喉に詰まりそうになったので、水でそれを流す。

「とりあえず、何故そうなっているのかより町を守るのが先決だ

サポート頼むな」

俺はリムの言葉に頷く、まだ口にパンが残っているからしゃべったら飛び散るから、まだしゃべらない。

海から水上スキーの音が聞こえる。

「ははははは!今日こそ貴様たちの命日だ!」

その水上スキーに乗ってるのは、エクストにダメージを与えたあの科学兵士だった。

エクストにダメージを与えたのを評価されたのか、スーツの色がメタルブルーになっていた。

俺はパンを飲み込む。

「なっ!?」

だが、免許取り立てなのか無免許なのか、両手で必死にハンドルを押さえてぎこちなく操作していた。

それなのにジェットスキーはスピードを増していた。

「……………あれほっといて良いのか?」

エクストは敵である科学兵士があまりに無謀な運転をしている事に困惑していた。

危ない運転の上に、格好つけて俺たちの方を見ているから更に危険指数が増している。

「ど、どうしよう…ほっといても勝手に自爆しそうロボ…」

「ってかバカ!いろいろあぶねーから前見ろ!俺たちより先にお前の命日になっちまうよ!」

ジェットスキーは猛スピードで俺たちから離れた距離で吹き飛ばされて猛ジャンプし、砂浜にあった木に激突した。

科学兵士の装備はボロボロになり、虫の息だった。

「ふ!ふははははは!やるではないか!リムエット・アーガス一味よ!今日はこれで勘弁してやる!」

そう言い、勝手に自爆して勝手に俺たちの仕業にした科学兵士は黒い煙を発生させる。

黒い煙と共に、以前のボムリンとグロウのように科学兵士の姿は消えていた。

「なんだったんだよ…アイツ…」

俺は勝手に自爆して勝手に撤退した科学兵士にあきれ果てていた。

「あ、あいつにやられたロボか…ボク…」

エクストはあいつに弱点を突かれてしばらく戦闘不能になっていた事を思い出し憂鬱になっていた。

気持ちはよーーーくわかる!

「彰君!エクストちゃん!そんなアホはどーでも良いからさっささと援護して!」

ななとリムは科学兵士の珍行動を全く気にせずに巨大イカと戦っていた。

アホって…確かにそうだけど結構辛辣だな…ななとリムもアレをスルーしてる辺りに器の大きさを感じる。

俺はイカをよく見ると、そのイカが妙な装備をしている事に気づいた。

「グローブじゃねーか!何の意味があるんだよ!イカボクサーって映画化でも狙ってんのか!」

そう、そのイカは10本の足全てにボクシングのグローブを身につけていた。

ななは木刀でイカの足と打ち合っていた。

木刀が軋む音が聞こえるため、ななは押されていた。

巨大イカは息を吸い込み、俺に墨を吐き出す。

「グダグダ言ってるヒマはねえか!"しん・ちゅうかむそう"!」

『新・中華無双』とは、古代の中国で中国の武将が戦うゲームだ。

「しん・ちゅうかむそう!」

リムの格好は、かの有名な中国の軍師、諸葛亮孔明の格好になっていた。

「いくぞ、東南の風だ」

リムの背後から大きな風が巻き起こる、その風で墨を吹き飛ばしていた。

ゲーム中の孔明には大きな風を巻き起こすイベントがあり。

リムはそれを魔法にしていた。

「これも受けろ、孔明ビームっ」

リムの身体が宙に浮き、眼前に光が発生し、その光からビームが放たれる。

イカにビームが直撃し、着実にダメージを与えた。

「キシャー!」

なぜ諸葛亮孔明が宙に浮いたりビームを撃てるかと言うと…ゲームなんだから理屈を求めんな!俺も知らん!

「よし!メガネビーム!ビームバケツロボ!」

エクストが眼鏡と謎のバケツからビームを発射していた。

大量のビームの粒子がイカに襲いかかる。

「さーらーに!脳天直撃ロボ!」

更にジャンプしてビームモップをイカに叩き込む。

イカにダメージを与えたのはプラスになっていたが、イカを激昂させていた。

イカは目にも止まらぬ早さで音速のパンチを繰り出す、俺の目には追えない早さのパンチがななに炸裂する。

ななも必死で木刀でガードするも、木刀は破壊され、ななが吹き飛ばされる。

やっぱりその場しのぎの木刀じゃ無理だったか!

「きゃあっ!!」

ななは派手に吹き飛び、ダメージを追う。

更にイカの攻撃の手は止まらない。

イカが水をすくってエクストに大量にかける。

「へっへーん!エクストは強化されてるんだよ!水なんて効くわけ」

「ダッ、ダダダダ…ダイジョブ…ロボ…」

エクストが先日に水撃を受けた時のように、全身から煙が発生していた。

「なっ!何故だ!?」

「よ、汚れたからアレ洗ってる最中だったロボ…」

な!何!?スク水を洗濯してたせいでこんな事になったのか!?

俺は再び腕輪を起動する。

「くそっ!リム!"まほうしょうじょおち"だ!」

俺は腕輪を起動し、リムの魔法を発動する。

「まほうしょうじょおち!」

リムの格好は変化した。

が!その直後にリムは倒れ、当然格好も元に戻る。

「な!何故だ!」

俺は予想外の事態に困惑した、リムが意識を振り絞り、気まずそうに答える。

「あ…き、昨日タコ焼き(そのままタコを火炎魔法で丸焼き)のバイトして…

それから魔力補給するの忘れたんだ…魔力切れだ、ゴメン…」

リムはそう絞り出すような声で言った直後に、気絶した。

………………………

って事はつまり…リムは魔力切れ、エクストはダウン、ななは木刀をへし折られて…

「ピ!ピンチって事じゃねーか!」

俺が困惑しているのを尻目に、ななはエクストのビームモップを手に取る。

エクストじゃなければビームを起動出来ないのかビームは発生していないが、ななの闘志は失われていなかった。

「確かにピンチだけど、わたしは負けないよっ」

流石強くなりたいと言うだけある、危機的な状況だけど、ななの瞳は燃えていた。

「よっしゃ、俺も無理だろうけどやってみるか」

俺は光線銃を取り出す、かく乱ぐらいは出来るだろ。

その時、突然天から光が発生し、聞いた事のある声が響き渡る。

雲も切り裂き、巨大なビジョンが空に出現する。

まるで人間とは比にならないスケールの大きさで。

『里見ななよ!よく勇気を見せた!強化されたそなたの半身(武器)!再びそなたの元へ迎え入れよ!』

いきなり、天から龍虎丸(オール)が飛来した、神々しい輝きをまとって煌めいている。

その人(?)は、以前出会った水の神だった…

「か!神様!!」

まるで、天から舞い降りる閃光のように…悪裁きを下すかのように、ななの龍虎丸は勢い良くイカに落下した。

「クワギャッ!」

ななはジャンプして、龍虎丸をキャッチする。

確かにさ…愛用の武器が再び出現するのは熱いよ…でも俺は、一つ疑問があった。

「オール渡すだけなのにそこまで大袈裟な演出する意味ないだろ!!」

俺がそうツッコムもむなしく、ななも俺の声は完全に耳に入っておらず。

いつの間にか水の神のビジョンも消えていた…

誰も相手にしてもらえないのも空しい…

「いっくよー!炎氷清空滑空斬(えんひょうせいくうかっくうざん)!」

ななはイカに猛スピードで接近し、龍虎丸でイカを下から上に打ち上げた!

イカは炎に包まれ、燃えていた。

その直後にまたななはイカを別方向から打ち上げる。

小気味良い音が響く辺り、ななが的確な攻撃を行っているのがわかる。

その時は炎上ではなく、凍結していた。

つまり、打ち上げる度に燃えたり凍ったりする技なのか?よくオールで出来るもんだ…

「せいっ!はあっ!やあっ!」

ななは何度もイカを打ち上げて、打撃と共に炎上と凍結のダメージを与えていた。

ななが激しく空中でイカに着実にダメージを叩き込んで行く。

一撃の度に炎上、凍結が襲いかかる。

龍虎丸は木なのに炎も氷も大丈夫なんだな…

戦いは当然ななの勝利に終わっていた。

周囲の様子を見渡すと、他の冒険者もモンスターを追い払うのに成功していたようだ。

当然ながら、ダメージを負って戦闘不能になっている冒険者もいた。

「ふう、なんとか驚異を追い払った、ってところかな?」

俺はリムに魔法を二発発動してもらった以外は特に何もしていないが、余韻に浸っていた。

その時、手持ちスピーカーで拡大した声が響き渡る。

幻想世界の住民に不釣り合いだな。

「冒険者の皆さん!先ほど魔物が襲来した理由を追及したいと思います!都合が付く冒険者の方はいらして下さい!」

その声の主は町長さんだった。

本当にいきなり過ぎるな…



俺たちは町長さんの家に集まっていた。

他の冒険者は…いなかった…そりゃ朝方にいきなり呼び掛けられても来れる奴は限られるわな…

俺は朝食が食パン1枚だったので、エナジーゼリーで10秒チャージしていた。

「ところで、科学兵士って人間だろ?あいつらは普段結界の中に入れるのか?」

俺が疑問をぶつけると、リムは答えてくれる。

リムは町の外を見て俺に言う。

「いや、この結界なら人間と言えど一定以上の邪悪な心を持ってたり

悪に与(くみ)していると結界に弾かれるよ、だから入れないはずだ

海や空からも侵入は出来ない筈だよ

地中か海底通路の線が強いか?」

確かに、海から直接侵入出来るならエクストが海で遊んでいる時にモンスターが出てくるはずだ。

結界はそんな仕組みになっていたのか。

だから町長さんが町の中から俺たちの戦いを見物出来たわけだ。

「結界は巨大な円形になっています、なのでリムエットさんの仰る通り、侵入経路が特殊な可能性もありますね」

町長さんが言う、確かにその可能性が高そうだ。

「ラチが開かないロボね、この子たちに偵察させるロボ」

そう言い、エクストは髪から何かを取り出す。

エクストの髪から小さい4つの物が出ていた。

凝視すると、エクストをデフォルメした小さいロボがトコトコ歩いていた。

「わあー!可愛い!」

ななが目を輝かせて、そのロボットを見る。

「ミニ、ミニ」

そのロボットは『ミニ』としか言えないようだ。

「ミニストって言うロボ、偵察や連絡とかに役立つ子ロボよ」

エクストがミニストの頭を軽く撫でる、どこかミニストも嬉しそうに見える。

「ななも連絡のために一体連れてくロボ

この前いきなりいなくなったと思ったらぶっ飛んでくる破天荒さだったからロボ…」

エクストがななをジト目で見る、エクストがそんな目をする理由もわかる…

「わ!私が悪かった!」

ななが頭をかきながら申し訳なさそうにエクストを見る。

しばらく様子を見ると、残りの3体のミニストは偵察に出かけて行った。

町長さんが一息ついて言う。

「いや、しかし今の世の中は物騒ですよ、別の町で悪の女幹部が白昼堂々乗り込んで来たみたいですから」

俺はストローでアイスコーヒーを飲みながら何気無くその話を訊いていた。

「へえ、その人の特徴はなんです?」

「年齢は20ほどで、髪は赤いウェーブががった髪で、オーラを漂わせていたらしいです

『邪魔する奴はぶっ飛ばして全裸にして外に磔(はりつけ)にするぞ!』と言わんばかりのオーラが出ていて

結局151人の騎士が出動してようやく取り押さえられたようです」

「ぶっ!!??」

俺は口に含んでいたアイスコーヒーを盛大に吹き出した。

それってモロにアルエットさんじゃん!変化魔法当たったんだ!

「世の中には変わった人がいるんだな、一度会ってみたい」

リムが何気無く言うが、それ確実に君のお姉さんだから!

エクストが真っ青な顔で俺を見る、可愛いロリ顔が恐怖に染まっている。

「アルお姉ちゃんと再会したら、危ないロボ…」

エクストにそんな顔されるとマジで怖いんだけど!こ、殺されるかもしれん…マジで…



町長さんがモンスター出現について調査してくれるならばと、新たにキャンプ券を受け取った。

モンスター出現の原因についてはミニストによって調査は続けられていたが、いかんせん決定的な線は出なかった。

どうやら地下に魔物の気配はあるようだが。

何らかの方法で妨害されていて、具体的なビジョンなどは見えなかった。

俺とリムは町外れにいた、ちなみにこの日の俺の格好はごく普通のTシャツとジーンズだ。

「よし、"だりあおぶふぁんたじあ"!」

「だりあおぶふぁんたじあ!」

リムが魔法を発動すると、リムの髪型は長いポニーテールになっていて。

服装はピンクのズボンをはいた魔女っ娘の格好に変化していた。

リムの手にはホウキがあった。

これはダリアオブファンタジアと言うRPGで飛行能力を持つ魔女っ娘がいるから、そのイメージからだ。

「よっしゃ、これで飛行出来るか試してみて」

俺が言うと、リムはこくりと頷く。

ホウキは宙に浮き、リムの身体もその力で浮いている。

飛行能力を持てるなら便利だと思ったからだ。

「おお!いいぞ!」

俺はリムのパワーアップを見守っていた。

「あ、あれ…これは…」

だけど、リムの動きはがたついていて、上下左右に振り回されている。

高さも安定せずに、飛行中のリムは俺の方向に向かってきて…

「わーっ!!わーっ!!」

俺の身体に鋭い痛みが走る!リムはホウキを制御しきれず、俺に激突してしまった。

つまりは、飛行に失敗したと言う事だ。

「きゃっ!」

俺とリムは派手に吹き飛び、古井戸の方に落ちる。

古井戸の分厚いフタを破壊してしまい、俺とリムは古井戸に落ちてしまう。


激しい落下音が井戸に響き渡る。

井戸は異様に深く、かなり長い間落ちてるような気がする。

「い!いってええ!!」

俺は全身にダメージを受け、思わず悲鳴をあげる。

井戸の中は広く、空洞化していた。

「いたた…どうやら、リムに飛ぶのは向いてないみたいだ…」

リムの姿は普段の姿に戻り、リムの顔は青くなり呆然と立ち尽くしていた。

俺も無理矢理発動させた飛行能力のせいでこんな目にあったから気持ちはよくわかる…

リムは取り出したランプに光を灯す。

俺は先ほどから手元に違和感を感じたので、手元を確認する。

「ぶっ!?」

俺の手元には予想外の物があった、そこには…リムのお尻が…

だってさ、リムのしなやかな脚と柔らかそうなお尻がスカートからチラチラ見えるんだもん…

落ちた時にうっかり脱がしちゃったのか!

「お、おーい…リムさん…」

俺は気まずくなりながらも、リムに声をかける。

だが、俺の声が聞こえないのか、それよりも気になる物があるようだ。

「あーちゃん、いるぞ」

俺もリムが向いている方に視線を向ける。

井戸を見渡すと、井戸の中は洞窟のように広がっていた。

その先に、ゴブリンが2匹いた。

「なっ!?」

俺はその光景に驚愕した、何故こんな所に!

「シ!シマッタ!見ツカッタカ!」

ゴブリンが俺たちの姿を見て混乱している様子だ。

こん棒を俺とリムに向かって構える。

相手はただのゴブリンで、あの厄介なボムリンもいない事だし。

リムにパンツをはいてもらわないといけないから、さっさと片付ける事にした。

「ごちゃごちゃ言ってるヒマねぇか!"だりあおぶふぁんたじあ"!」

「だりあおぶふぁんたじあ!」

俺が魔法を発動させると、リムの姿は先ほどの魔女っ娘の姿に変わった。

飛行さえしなければ、普通に魔法も使えるはず!

「行くぞ、電光満ちる場所に我はあり…出でよ!神の雷!インデグジャッジ!」

リムゴブリンの群れに向かって、一つの大きな雷が落ち。

直後に巨大な雷の爆発が起こる。

「グ!グアアア!」

邪悪なる物に裁きを下す雷の雷!

しっかし…ゴブリン2匹に派手過ぎだろ…ゴブリン2匹は黒こげになってるし…

しばらくすると、リムの姿は戻っていた。

「あ、あの…リム…これ…ごめんっ!」

俺はリムにパンツを渡す、リムは気にする様子もなく平然と受け取り、その場で履く…

「ああ、落ちた時君に脱がされたのか、わかったよ」

や!やめてくれよ!見えそうで健康な男子高校生には目の毒だ!

この場にエクストがいたらボコられて、アルエットさんなら即死させられるレベルの光景だ…

俺が一応周囲を警戒していると、上の方から何かが降りて来た。

何故かエクストが現れて、エクストはブースターを装備し、それを起動し井戸に降りて来ていた。

ななもエクストにしがみついている。

え!なんでこんな所にエクストとななが…

「お、お姉ちゃん…な、何してるロボ…!?」

エクストがパンツを履いてるリムを見て狼狽えた声で言う。

ななも固まっていた…

「だから!ついうっか」

「あーちゃんにいきなりパンツ脱がされたから今履いてるんだ」

リムはあっけらかんと誤解を招きそうな発言をする…事実だけど!事故なんだよ!

俺は口を挟むヒマすらなかった…

ななもエッチな事してたと思ってドン引きしてる…

エクストが怒りの形相で俺を睨み付ける…

「……お腹に力入れるロボ!」

エクストは目に止まらぬ早さで、俺にボディブローを炸裂させる。

「ぐぶぁー!!」

おもいっきり手加減はしてくれてるんだろうけど、その一撃は当たった場所が消し飛びそうな程の威力に感じられた。

「あーちゃんっ、大丈夫か…?」

リムが心配そうに声をかけてくれる、俺はそれがありがたかった。


俺はエクストのパンチで気絶していたが、なんとか意識が覚醒した。

「げほ…げほ…どうして2人がここに?どうして俺とリムがここにいるってわかったんだ?」

俺が疑問をぶつける、俺とリムはミニストを渡されていない筈だ。

「お姉ちゃんへの愛ロボ」

エクストがリムに抱きつく、リムはそんなエクストが愛しいのか静かに笑いながら頭を撫でていた。

「強者の匂いを感じたから!!」

エクストとななの答えはシンプル過ぎて理解出来ない、ってか答えになってるような、なってないような…

「科学力とか魔力とかじゃなくて愛や匂いかよ!

ところで、なんで井戸の中がこんなに広くて、モンスターが出てきたんだ?」

俺はそれが疑問だった、とてもただの古井戸だとは思えない。

「お姉ちゃん、アキラ、お手柄ロボ、ミニストが見つけたモンスター出現地帯の座標とここの座標が一致してたロボ」

エクストが目から光を出し、壁に画面を投影する。

画面は、座標と現在地が一致した様子を見せていた。

ああ…簡単に潜入出来ないように古井戸をあんなに深くしてたのか。

「ここがモンスターの出現ポイントなんだな、エクちゃん、お手柄だ

早速町長さんに報告を」

リムが井戸からの脱出を試みる。

「いや、そんな余地はないみたいだよ」

ななが言う、ななの向いてた方向を見ると、奥の方からモンスターがぞろぞろと出現していた。

なながどこか楽しそうに笑ってるように見えるのは気のせいだろうか…

「げっ!?」

そりゃ井戸に落っこちたり、派手に雷をぶちかましたり、俺が何度も大きな悲鳴あげればそりゃ来るわな!

「エクちゃん、もう無駄だと思うけどあれをやるぞ」

「わかったロボ!」

リムがエクストに指示し、石板を取り出す動作をし。

リムは石板を掲げる。

「私の名はアーガス家を継ぐ者

リムエット・アーガスだ、こちらからそなたらのテリトリーに踏み込んだ事は詫びよう」

リムはびしりと決めていた。

「だが、ここから町に侵略していた事は無視する事は出来ない

もう二度と侵略しないと誓うならば我々も手出しはしない、報告程度に留めよう」

そうモンスター達に見栄切りをする。

だが、モンスター達には通じていない様子でこちらに押し寄せて来ていた。

それはアーガス家の知名度のなさなのか、モンスターに理解出来ないのかどちらかはわからない。

「やっぱり効果ないか、これ」

リムかどこか残念そうに呟く。

「前に妨害されたし、俺のせいで効果なかった事もあるし

今回も効果なかったからそれをやる意味はあるのか…」

アーガス家の知名度を上げるか、相手を選べば効果はあるかもしれないが。

今のままじゃそれをやる意味はあるのか…

足音はどんどん近くなり、ドドドドドと怒濤の足音が響く。

「まあいいや!むしろこの展開は望んでたよ!全員ぶっ飛ばーす」

ななが龍虎丸をブンブン振り回してやる気をアピールしている。

あっちゃー…バトルオタクが一番怖いかもしれないな…

モンスターの鎧をよく見ると、やはり魔王軍の悪魔の紋章が刻まれていた。


ななが先ほどやる気を見せたように、先頭に躍り出る。

ななは飛び上がり壁を蹴り、それを反動にしてモンスターの群れに頭から飛び込む。

「滑空閃光突(かっくうせんこうつ)きい!」

ななは龍虎丸を槍のように突き立てて突進する、龍虎丸には光のオーラがまとっていた。

突進の威力でどんどんモンスターをなぎ倒して行く。

一点突破の強烈な一撃だ。

ふとのエクストの方を見ると、張り付く手の形をした軟質のオモチャがあった。

「お、おーい…エクストさーん…遊んでる場合じゃ…」

俺はエクストがとうとうオモチャまで出して来た事に困惑する。

そんな物でどうする気だ…幼女がオモチャで遊んでる姿は凄く似合ってるが。

「いーから見てるロボ、ぺっとりハンド!!」

エクストが手のオモチャ、ぺっとりハンドをモンスターに引っ付けると。

なんと!恐るべき粘着力でモンスターに貼り付いた!しかもエクストがぺっとりハンドごとモンスターを振り回してもモンスターが離れる様子はない。

エクストはモンスターをハンマーのごとく要領よく振り回して群れに突進して行った。

「ギャー!グゲァー!」

モンスターが生々しい悲鳴をあげてエクストから逃げて行く…

当然だ…得体の知れないオモチャを振り回す怪力幼女とか俺も恐ろしいから…

「えいっ!行くロボ!」

エクストが恐ろしい事を平然と行っている…一方的な蹂躙が始まっていた…

俺も黙ってるわけにはいかないと思い、腕輪を起動する。

「"うさちゃんぱらだいす"!」

「うさちゃんぱらだいす!」

リムの格好がバニーガールに変化する。

「よし、小さいうさちゃん大量出撃だ」

リムが魔法を発動すると世界一小さいウサギ、ネザーランドドワーフが大量に出現する。

うさちゃんぱらだいすのネザーランドドワーフはRPGのドワーフみたいに斧を使って敵を攻撃していた。

小さいが予想外のパワーでモンスターの群れに襲い掛かり、斧の一撃でモンスターを吹き飛ばしていた。

「グバッ!」

モンスターの群れは悲鳴をあげて吹き飛んだ。

「ぜっこーちょー!ひゃっほー!龍虎丸も上々だよ!」

襲撃が予想外に上手く行っている事にななは満足そうだった。

その刹那、エクストに水撃が襲いかかる。

「くっ!」

その水撃はローブをまとった魔法使いのモンスターの魔法だった。

俺は一つ不安があった、先日スク水を着てなかったせいでエクストがダメージを負った事が。

エクストはドヤ顔で笑っていた、あ、これは大丈夫なパターンだな。

メイド服がびしょびしょに濡れて紺色が見えて来る。

「はっはっはロボ!この前のボクだと思うなロボ!」

エクストは得意気にメイド服を脱ぎ捨てる。

メイドのカチューシャはつけたままで。

服装はスク水と言うマニアック過ぎる巨乳ロリ眼鏡ロボがここに降臨してしまった…

「は!はうっ!」

魔法使いはエクストに萌えてうずくまってしまう。

やっぱりエクストの姿って一部にはとことん刺さるんだろうな…

いや!結構ドキドキしてるけど俺は萌えてないよ!多分…

眼鏡とかちょっと良いと思ったし、胸も顔とのギャップが良いって思ったけど…

「実戦は非情なんだよ、せいっ☆」

そんな魔法使いを容赦なく龍虎丸で殴って気絶させるなな、変なところでリアリストだな…

「えいっ、えいロボッ!」

エクストはライフル型の巨大な水鉄砲を手にして、それを周囲に乱射している。

水で二度もやられたからそれの憂さ晴らしに水鉄砲使ってるのかな。

はたから見ると幼女が水鉄砲で遊んでるように見えて微笑ましい。

が!その水鉄砲の水力は異常だった!

大量の質量の水が弾丸のようなスピードで炸裂する。

水の弾丸の威力は恐ろしく、一発ヒットする度に相手をダウンさせている。

さながら本物の銃のごとく!

「ク、クソッ!」

弓を持ったゴブリンが俺に向かって矢を放つ、俺は気がついた瞬間、眼前に矢があった。

リムが俺の眼前に立ち、杖で矢を叩き落としてくれていた。

俺の命を救ってくれたし、リムは俺の目には神にすら見えた。

「狙いは合格だ、だけどリムもこれぐらいは出来る」

リムは平然とそう言い、余裕を見せる。

「ありがとう!リム!マジ死ぬかと思った!」

リムは俺の言葉に微笑する。

「お礼なら、たくさんサポートを頼むよ」


俺たちはモンスターを蹴散らしながら進んで行ったが、俺は重要な事を思い出した。

忘れちゃいけない大切な事を。

「そうだ!リムの魔力切れたらどうするんだ!」

そう、リムは2回ほど魔力切れを起こした事がある。

また魔力切れを起こしたら戦力がダウンし、一転してピンチになる可能性もある。

だが、エクストはドヤ顔で胸を張る、スク水姿で。

「大丈夫ロボ!こんな事もあろうかと!」

エクストは異空間から何かを取り出す、それはイカしたマシーンなどでなく、だいたい予想していたが。

自転車とリヤカーだった。

てきぱきとリヤカーに水鉄砲とバズーカを装備し、リヤカーを自転車に取り付けていた。

リヤカーには大量に魔力の薬が積まれている。

「これですぐに魔力を補給出来るロボ!!」

エクストが得意気に言う。

「おおっ、ナイスなアイデアだ、エクちゃんっ」

二人で喜んでるところ悪いけと、その装備はスキだらけだと思うんだが…

「………」

俺は空気を読んで口出しはしなかった。

「ななちゃんは大丈夫か?何か気になる事とかあるか?」

リムがななに訪ねる。

「だいじょーぶ!私はちっとやそっとで折れないからっ!

さっきちょっと熱かったりチクってしたけどね」

ななは力強く言う、ここまで自信満々なら頼りにな

「っ!?」

るんだが!俺はななの異変に気付いた。

おもいっきり背中に矢が10本ぐらい突き刺さってる!何平然としてるんだよ!

しかも炎の矢と思わしき物は未だにななの背中で燃えてる…

俺はエクストに耳打ちする。

「なあ…これ言った方が良いのか…」

「いや…言ったら痛がる系かもしれないロボ…寝てる時にでもこっそり抜くロボ…」

エクストも流石に今回のケースに困惑していた。

あんな耐久力持ってればそりゃあな…


エクストが自転車に乗り込み、相変わらずの猛スピードで加速する。

立ちふさがるモンスターも容赦なく轢いていて、更に水鉄砲とバズーカを乱射する。

「マッハで追跡!撲滅!ロボ!」

すっげーな…大量の薬瓶を乗せたリヤカーをつけた自転車を操縦しながら足元がガタガタの悪路を難なく自転車で駆け抜けてる…

「いっくよー!飛翔投斬撃(ひしょうとうざんげき)!」

なながブーメランの要領で大きく振りかぶり、龍虎丸をモンスターの群れに向かって投げつける。

小気味良い音が響き、モンスターを吹き飛ばして行く。

「よっしゃ!薬もあるし!行くか!"まほうしょうじょおち"!」

「まほうしょうじょおち!」

俺は腕輪を使いリムの魔法を発動する。

魔法を発動すると、リムの服装は魔法少女の服装に変化する。

「よし、これで行こう、地割れっ!」

リムが大地の魔法を発動すると、地割れを引き起こし、モンスターの群れを飲み込む。

そろそろ魔力切れを心配していると、エクストの方向から薬瓶が飛んで来た。

リムはそれをキャッチして、一気に飲み干す。

ただし、凄く不味い物を飲んだようで、綺麗な顔も苦痛に歪んでいた。

「あ、相変わらず不味い…あーちゃん…次頼む…」

リムが薬の不味さに怯んでいるスキに、ゴブリンがリムに飛び掛かって来た。

「ガアッ!」

こん棒がリムに迫る。

「"ぶしどーそーど"!」

俺が腕輪を起動すると、一瞬でリムの姿は女忍者に変化する。

「ぶしどーそーどっ!」

リムの杖はハンマーに変化し、瞬時にカウンターの要領でゴブリンを殴り付け、吹き飛ばす。

女忍者がハンマーを持っていると言う異様な光景になっていた。

これも魔法だぞ!一応!

俺はこの流れを崩さないために、どんどんリムに魔法を発動してもらっていた。

「"だりあおぶですてぃにー"!」

俺の声と共に、リムに眼鏡が装着され、リムの服装が可愛らしい司祭服へと変化する。

「だりあおぶですてぃにー!」

リムは勢い良く腕を振りかぶり、爆弾を敵陣に向かって投げつける。

爆発が敵陣に広がった。

「"くらっしゃーほっけー"!」

俺の声と同時に、リムは普段の格好に戻る。

「くらっしゃーほっけー!」

リムの前には大きなエアーホッケーのような円盤が出現する。

リムはそれを勢い良く杖で弾き飛ばす。

するとその円盤の質量で次々とモンスターの群れがなぎ倒されて行った。

中には撤退して行くモンスターもいる。

勝てる!俺はそう確信した、だって圧倒的じゃん!

「はっはっはっ!無敵無敵ぃ!!かかってこんかい!」

俺は魔力切れがないとわかると、とことん図に乗っていた。

「ま、アキラの力じゃなくてお姉ちゃんの力だロボね」

エクストが呆れた顔で呟く。

「あ、ああ…そうだね…調子乗ってごめん…」

俺はエクストの冷静なツッコミによって、一気に頭が冷えた。

確かにな…戦闘力は俺がぶっちぎり最下位だし…

「でもお姉ちゃんの力を的確に引き出しているのは評価するロボ」

エクストが小声で何かを言ったが、俺は聞き取れなかった。

「ん?何か言ったか?」

「なんでもないロボ」


俺たちは先に進んで行くと、その先にはおごそかな大きな扉があった。

鍵がかかっているようで、引っ張ってもびくともしない。

「まさか!RPGみたいに鍵探しイベントか!?」

俺はテンションが上がっていた、鍵見つけられると嬉しいよね!

「飛翔投斬撃(ひしょうとうざんげき)!」

だが、突如扉は轟音を響かせ破壊された…

ななが龍虎丸を投げつけて扉を破壊したのだ。

「よーし!行こー!」

まあ、フツーはななみたいに破壊するわな…

鍵探しイベントなんてわざわざ侵入者に鍵見つかるような事するわきゃないし…

だけどどこか釈然としない…


俺達がしばし進んで行くと、そこは城だと言う事がわかった。

いわゆる地底城ってやつか?

城の大広間に出ると、メタルブルーの鎧をまとった科学兵士がいた。

「お!お前は!」

俺は科学兵士が現れた事に警戒を強くする。

他の皆も皆警戒を強くしていた。

「乗り物で自爆したアホだけど、エクストちゃんにダメージ負わせた奴だから油断は禁物だよ」

ななは褒めてるのか、けなしているのかどっちなんだろう…両方か。

「もう水鉄砲なんて効かないロボよ!」

エクストがびしりと科学兵士を指差して言う。

「相手が誰だろうととりあえず倒すだけだ」

リムは冷静に科学兵士に言う。

「ははは!威勢が良いな!貴様らは!」

科学兵士は余裕そうに笑っていた。

「だが!無計画に乗り込んで来た貴様らの愚かさを悔いろ!」

科学兵士の言葉と共に、周囲に置いてある魔方陣が描かれた機械の箱が割れる。

するとその中から、大量のゴブリンや他の科学兵士が溢れ出てきた。

質量の法則を無視していると言うのが恐ろしい。

「くっ!町にはこうやってモンスターを出現させたのか!」

俺は町にモンスターが襲撃していた理由を理解した。

井戸から侵入して、あの箱を使ってモンスターを出現させたんだろう。

次々とモンスターが出現する!部屋を埋め尽くさんばかりにどんどん!どんどん!

「流石に多勢に無勢ロボ!」

エクストがあまりの数にひるむ。

「科学と魔法の融合だ!

はっはっは!はっはっは!」

科学兵士はひたすら得意気に笑っているが、俺はある事に気付いた。

「なあ…このままなら人数多すぎて

すし詰め状態にならないか…攻撃すら出来ないぐらいの密度で…」

俺の不安は的中していた、人工密度のせいで、エクストのリヤカーも質量で破壊されていた、中の薬と共に。

「ふぐっ!ロボ!」

エクストは敵の群れの中にぎゅうぎゅう積めのすし積め状態にされて、何も出来なかった。

「ぐ!ぐえっ!」

ななも敵にもみくちゃにされて、動きもロクに取れない様子だった。

「ぐっっ!ぐぇ!ブボァ!ど!どけ貴様ら!」

科学兵士も呼び出したのは自分なのに、自分が被害を食らって悲鳴をあげていた…

「あっ…」

リムが甘い声をあげる、柔らかい胸が俺の顔に当たる…ひたすら柔らかい胸が俺に押し当てられていた…

嬉しいけど!今はそれどころじゃない!

「まじい!このままじゃ圧死しちまう!"げーむとけい"…っ!」

俺はなんとか腕輪を起動して、叫ぶ。

俺は仲間全員がペラペラになる姿を想像した。

昔のゲームでペラペラなデフォルメされた黒い人間がレスキュー活動などをするゲームがあったんだ。

「げーむとけい!」

すると、リムと俺達の格好が黒くてデフォルメされたペラペラな姿になる。

俺たちはそのペラペラさを活かして、モンスターの隙間をすり抜けて行く。

「そ!そこロボ!そこの座標に強い力があったロボ!」

俺たちはエクストの指示に従い、エクストの言う扉の隙間を潜り抜けた。


魔法が解けると、俺たちの姿は元に戻っていたら、

「ぜえ!ぜえっ!」

俺たちは予期せぬ攻撃を受けて、ダメージを受けていた。

不幸中の幸いは、モンスターに接触したおかげでななの背中の矢が全部抜けたって事だろうか。

本来はただの人海戦術だったんだろうけど、ある意味こっちの方が効果的だったかもしれない。

俺たちに(本人が予期してなかったとは言え)すし詰め攻撃をしてダメージと疲労を与えた上に。

リヤカーも壊されて魔力回復薬も破壊されたから。

「真剣勝負に情けは無用だね!」

そう言い、ななはしたたかに足元に大量に地雷を仕掛けていた…

もしも扉が開いて追っ手が来たらその時に爆発するようにしてるのか。

結構ダーティな部分あるよな、ななは…

「ああ…薬壊されちゃったロボ…お姉ちゃんごめんなさいロボ!」

エクストがリムに対して申し訳なさそうな表情をして謝る。

リムは気にした様子もなく、優しく笑いエクストの頭を撫でる。

「気にするな、誰もあんな事になるなんて予測出来ないよ」

エクストはリムの優しさに胸を打たれて、じーんとしてその場に立ち尽くしていた。

「お、お姉ちゃん…ありがとうロボ!」

俺はエクストに気を使ってあえて口にはしなかったが、魔力切れを効率して戦わないといけない、そう考えていた。


俺たちは再び探索を続けていた。

すると、また大きな部屋に出る。

「ふははは!また会ったな!ネズミ共!」

大きな笑い声と共に、その笑い声の主が現れる。

そこには、角を携えた魔族の男、グロウがいた。

「んげっ!?」

俺はグロウの鎧を見て絶句する。

鎧の頭部には大きなハートマークがついていて、全身がピンク色と言う痛々しいデザインになっている!

前の鎧の方が絶対かっこ良かったのに!

「グロウちゃんか、装備を変えたようだな

だけどな、リム達もパワーアップしてるんだ」

リムが冷静に言う、確かにそうだけどさ…あの格好にツッコミ入れてくれよ…

「ま、まあ…戦うロボよ…うん…」

エクストは脱力しきっていた、スク水姿の幼女に脱力される辺り相当だそ。

「その鎧だっさ!」

ななの言葉はごくシンプルだった、確かに言いたい事だけ言うとそうなるわな!

「行くぞ!魔王様LOVEプロージョン!!」

グロウが魔法陣を描くと、リム、エクスト、なながいるエリアに爆発が起こる。

今まで受けた攻撃のダメージが積み重なっていたせいで皆の動きが鈍くなっていて、爆発を回避しきれなかった。

俺は少し離れた所にいるので、俺には爆発が届かなかった。

「きゃっ!」

「あ!ああっ!ロボ!」

「ああああっ!」

リム、エクスト、ななが爆発に吹き飛ばされる。

くっそ…リムの魔力に余裕があれば先制攻撃が出来たのに…薬を失ったのはやっぱり痛手だったか。

「みんな!大丈夫か!」

俺は急いで駆け寄るが、グロウの攻撃は止まらなかった。

「魔王様萌え萌えLOVE斬!!」

グロウが剣を振りかざす、黒い雷のオーラがハートの形を描いて、リムの元へ向かう。

その威力は以前よりも確実に増していて、近くにいる俺にも雷の余波を感じさせるほどだ。

リムは回避を試みたが、回避しきれず、ダメージを受けてしまう。

「ああっ!」

普段冷静なリムから似合わない悲鳴が聞こえる。

俺がふとグロウの方に目をやると、ななが背後に迫っていた。

「くらえ!」

ななは龍虎丸をグロウに叩き込もうとする、グロウの顔はななの方を向く。

「魔王様LOVEファイヤーサンダーブレス!!」

グロウの口から強力な炎と雷のブレスが吐き出される。

「あ!ああああっ!」

ななの身体は炎上し、同時に雷に包まれた。

「まさかブレス攻撃なんてロボ!

メガネビーム!」

エクストは眼鏡からビームを発生させる、だがグロウはそれをギリギリで回避していた。

「お返しだ!魔王様LOVEアイス!」

グロウが先ほどのように剣で魔法陣を描く、天井から巨大なつららが落ちて来た。

それがエクストに炸裂し、エクストは大きなダメージを受ける。

「あ!い、いつつロボ…」

ダメージはエクストに異変を及ぼしていた。

「えっ!?」

俺はそのエクストの様子に絶句する、スク水の肩紐が破損し、大きな胸が剥き出しになっていた。

身体とは不釣り合いの大きな胸はとても色っぽい。

「き…きゃあああっ!ロボ!」

エクストの絶叫が響き渡る。

俺はTシャツを脱ぎ、それをエクストに渡す。

「と、とりあえずこれ着ろよ…目のやり場に困る…」

エクストは顔を赤くする。

「あ、ありがとうロボ…」

グロウはトリップしていた、変な妄想をしている事だけはわかる…

あれ?男なら誰しも可愛い女の子のお色気シーンになったら見るよな?

こいつはエクストに見向きもしなかった…

「魔王様ー!褒めて下さい!それとご褒美に罵って下さい!こいつら倒したら婿にもして下さいー!」

グロウがとことんヤバイトリップをしている。

こいつが他の女の子のお色気シーンに興味がなく、とことん魔王一筋だと言う事がわかった。

「き、気持ち悪いロボ…」

エクストが直球過ぎる感想をもらす、そりゃあな…

俺は突如、ある作戦を閃いた。

あいつがトリップしてる間にスマホを取り出す。

「グロウ!これを見ろお!!」

俺はトリップしているグロウの前にスマホで編集しておいた魔王のお色気写真を突きつける。

胸とかも増してやったぞ!これでこいつもイチコロだ!

「…………………」

だが、メロメロになるどころかグロウの顔はどこか怒りに包まれていた。

「魔王様はもっと質素な身体をなさっているのだ!!それにこのような媚びたポーズもしない!もっと見下す感じにだ!ゴミムシを見るような氷点下より冷たい目だ!優しさもないSなのだ!魔王様に踏まれる事こそ私の喜び!」

グロウの怒りっぷりはこだわりからだろうか…流石に俺でも理解出来ないし、したくもない。

「…………」

「…………」

俺とエクストは絶句していた。

「世の中にはいろんな人がいるんだな」

リムはグロウの痛すぎる趣味に全く動じていなかった、肝が座ってるな。

「聖炎木砕巨斬(せいえんもくさいきょざん)!」

突如ななの声が響く、グロウの背後にはなながいた。

ななの身の丈以上に巨大化し、炎をまとった龍虎丸がグロウに叩き込まれる。

その質量は恐ろしく、紙切れのようにグロウが吹き飛ぶ。

さっきから姿を見ないと思ったら、不意打ちの準備をしてたのか!

ボヤボヤしてると背後からバッサリだ!

「グボァッ!ひ!卑怯なっ!」

グロウは悲鳴と恨み言を残しながら、炎上しつつ宙に舞っていた。

エクストも多少戸惑いながら、ぺっとりハンドを取り出す。

「つ、追撃して良いロボかね…ぺっとりハンド!!」

エクストはぺっとりハンドを空中のグロウに張り付ける。

「えいっ、えいっロボ!」

そして、ぺっとりハンドを振り回し、グロウを何度も何度も持ち上げて、その度に地面に叩きつける。

「ゲボァッ!グハァッ!」

エクストの可愛いらしいかけ声とは対照的に過激な攻撃だ…

「え、えげつねえ…」

リムが俺の前に立つ。

「あーちゃん、腕輪を操作して『ぶるーうぉーず』と叫んでくれ」

俺は何だかわからないが、リムの指示に従う事にした。

リムの知ってるゲームの事だろう。

プレートを操作すると、ぶるーうぉーずの文字が出ていた。

「よし!"ぶるーうぉーず"!」

「ぶるーうぉーず!」

リムの服装こそ変化していないが、杖は青い光で神々しく輝いていた。

膨大な光のエネルギーを携えて。

リムは高くジャンプし、グロウに全力で杖を叩きつける。

「今の全魔力だ、受けろっ、ええいっ!!」

叩きつけられた杖の先からは、光のエネルギーがグロウに直接叩き込まれる!

「ば!バカな!ま!魔王様にゴミムシを見る目で踏んでもらう計画がっ!!」

そのエネルギーは膨大で、リムが退避すると同時に青い光は大きく爆発する。

その衝撃により、グロウの鎧は粉々に砕け散った。

「か、勝てたっ」

リムは勝利の感触を確かめ、杖を大きく掲げた。

確かに強敵だったし、リムのぶるーうぉーずも凄かったよ。

だけど、俺は一つ気になる事があった。

「な!なんだよあの気持ち悪い断末魔は!最悪だよ!」

そう、グロウがあんな気持ち悪い断末魔をあげたせいで、俺の気分はどこか冷めていた…

ちなみにグロウは気絶しているので。

武器を奪って、壁に拘束して、ミノムシみたいにぐるぐる巻きにして、口輪もしておいた。

鼻の部分は空いてるから死にはしないだろ。


「はあ…はあ…はあ…」

俺たちは、疲弊しきっていた。

すし積め攻撃にグロウとの戦闘で余力もほとんど残っていなかった。

とは言っても、引き返す余地もないから進むしかない。

「わーい!強い相手がいるんだね!」

ななだけがご機嫌な様子だった、とにかく強い相手と戦って、(卑怯な手だろうと)勝てれば良いと思っているようだ。

「行くしか、ないロボね」

俺の目線の先には、悪魔の紋章が大きく刻まれた禍々しい大きな扉があった。

そしてそれは、ギギギ…と不気味な音を立てて、静かに開く。

俺はツバを飲み込む。

そこには、尖った耳を持ち、立派な角を携え、大きなマントを身に付け。

黒く露出度の高い衣装を着た女の子がいた。

グロウの持っていた写真からわかったが、この娘が魔王なのだろう。

「来たわね、阿呆の有象無象共が!貴様らを捕らえて魔界カレーに3日3晩煮込んでやるわ!!

それが運命!destiny(デスティニー)よ!

この魔王アーリエルが引導を渡す!」

高い声で、恐ろしいのか恐ろしくないか意味がわからない事を大声で言い放つ。

そんな魔王にリムは冷静に返す。

「君の元には今は部下はいない、君1人だけだ、降伏してくれ」

リムが言うが、アーリエルと名乗った魔王は平然としていた。

「ふふふふ!わたくしの力を甘く見ているわね!刮目しなさい!この魔力に!」

そう言うと、アーリエルは俺達とは別方向に闇の魔法を放つ。

禍々しいオーラが放たれ、壁は粉々に碎け散り、大きな風穴を開けていた。

確かに凄い力だが…

「な、なーんだ!これぐらいの威力はリムなら出せるぞ!」

俺はリムの力の方が上回ってると推測して、安堵した。

なんだ!負ける要素ないじゃん!

「いや…今のは所詮ただ力の片鱗を見せただけだ

それに詠唱を行う様子も無くて、軽い魔法を撃っただけだよ…それであの威力だ…

魔法は繰り出すスピードも大切だ」

リムはアーリエルの魔力を見て冷や汗をかいていた。

自分が魔法使いだから相手の実力が理解出来るんだ。

「それに戦闘開始前に自分の力を全部見せるわけないじゃん!甘いよ!」

「素人丸出しロボ、魔法使えないボクでもそれぐらいわかるロボ

火力さえあれば良いと思ってるのは素人だロボ」

うわ…ななとエクストが辛辣な事を俺に言い放って来る…

「いいよいいよ…どーせ俺なんてさ…ゲームと陸上しかロクにやってませんよ!

俺だって自分の甘さぐらいわかっとるよ!陸上始めた理由もモテたいからだし

コーヒーに何倍も砂糖ぶち込むぐらい甘い物好きな甘い男だよ!!」

俺はやけくそになっていた、異世界初心者なんだから仕方ないじゃん!

「あー…言い過ぎた…悪かったよ…」

ななが俺をフォローしてくれる、エクストは『事実なんだからしょーがないロボ』とでも言いたげな顔だ…

俺たちがそうこう言っていると、魔王の身体から禍々しい闇のオーラが溢れている事に気づいた。

「っ!?これ程の魔力は…めったに拝める物じゃないぞ…」

リムが恐れが混じった声を出す、俺も魔力なんてないけれど、本能的にその力の恐ろしさを肌で感じていた、鳥肌が立ち、俺はその場に立ち尽くしてしまう。

「わたくしを侮ったそこのお前!この技を受けなさい!シシリアン・キッスッ!」

アーリエルが闇のオーラを放つ!その力は射程内の物体を何もなかったかのように綺麗に完全に消滅させながら俺に迫る。

当たれば死が待っている、俺だってそれくらいはわかる。

「う!うげえっ!!」

俺はつい間抜けな悲鳴をあげてしまう。

闇の魔力は…炸裂した…

「はっ?」

だが、その魔力はあさっての方向に炸裂していた…

俺とは全然違う方向に大きな風穴を開けて…

「……ミスか?これ?」

俺は拍子抜けした、だけど!ミスはたまたまかもしれない!油断しちゃいけない!!

「た!たまたまだわ!シシリアン・キッス!シシリアン・キッス!シシリアン・キッス!」

闇の魔力が、俺たちに迫る!


数分後、そこには廃墟と化した魔王城と、無傷の俺たちがいた…

魔法は10発も放ったが、建物にばかり炸裂し、俺にもリムにもエクストにもななにも当たらなかった。

流石のリムとエクストも呆れ顔だった。

リムが呆れるなんて相当だ…

「………………………」

「ノーコンだロボ…」

「甘い!甘いよ君!まず的に当てられるように訓練しないと」

ななが余計なアドバイスをする、威力だけは凄いから余計な事言うなっての!

「威力は凄いけど、命中率ゼロじゃねーか!!!」

俺の叫びが山彦のごとくボロボロの魔王城に響いた。

「…とりあえず…倒すか…あーちゃん…」

リムが脱力した様子で俺に指示を促す。

「ああ…"まほうしょうじょおち"…」

リムの姿が黄色の魔法少女の姿に変わる。

「まほうしょうじょおち」

リムが棒読みで魔法を唱えると、アーリエルの頭上に岩が出現する。

そしてそのまま、アーリエルの頭上に落ちる。

「えっ!?へぶっ!」

岩はアーリエルに炸裂し、そのままアーリエルは気絶した。

「か、勝ったね…」

勝ちはしたけど…ななは勝利を全然喜んでいなかった。

拍子抜けだったからな…



エクストがアーリエルを先ほどのグロウのように縛ろうと縄を持って迫る。

「さあ!さっさと捕まえてお金もらうロボ!!」

エクストがアーリエルの身体を縛り付けようとする。

「ん?なんだ…」

リムが何かを感じたのか、身体がぴくりと震える。

魔法使いだから魔力を察知しやすいのか?

「な!なんだロボ!」

エクストの驚愕する声が聞こえると同時に周囲に黒い霧が充満する。

その黒い霧は視界を覆い尽くす。

以前グロウ達が撤退した時より規模が断然大きい。

「きゃっ!」

「げほっ!げほっ!」

黒い霧の発生は数分間続き、それが収まる頃には。

アーリエルも俺達が立っていた魔王城も綺麗に消えて、俺達の眼前には地下の空洞が広がっていた。

「な!なんだこれは!?なんにもなくなっちまったぞ!」

俺が驚愕してると、リムは本を取り出してそれを眺める。

「これは強力な転移魔法のようだな!

きっとリーダーがやられるとそれが魔法発動のキーになって

対象者と対象物をどこかに転移する仕組みのようだ」

リムも自分の目で見るのが初めての規模が大きい魔法に興味があるみたいだ。

「とりあえず、だ、あそこまで暴れたからしばらくは悪事も起こさないハズだろ」

リムが空洞を眺めて言う。

だが、俺は一つ不安があった。

「あのさ、逃げられたならまたあいつら襲って来るの?

あのアホ共と今後も関わるかもしれない思うと…」

俺は頭を抱えた。

多分呆れと恐れが半々の顔をしていると思う。

「うん、そう思うロボ……」

エクストがこくんと頭を下げる。

それとは対照的にななは楽しそうに笑っている。

「あっはっはー!どんどん来なさい!ぶっ飛ばーす!」

ななはむしろやる気満々だった。

俺はあいつらに金輪際関わりたくないから。

なながやる気なら是非なな一人に全部まるごとお任せしたい…

「とにかくだ、報告しに行くぞ」

リムはただ一人冷静だった。


俺達は町長さんの家に向かっていた。

町の中はすっかり暗くなっている。

町中でスク水で歩くわけにはいかないので、エクストは再びメイド服を着ている。

井戸に落ちて、エクストのリムへの愛パワーで発見してもらって合流して。

紆余曲折あった末に魔王軍を撤退させた事を報告するために。

俺達が家のドアを開けると、そこには異様な光景が広がっていた。

「あ…あ…」

町長さんと萌えグッズの売買した男性が並んでいて。

フィギュアを神像のごとく拝んでいた。

「ああ!お救い下され!」

町長さんが藁にもすがるように真剣に祈るのは対照的に、男性の方はにやけていて、萌えフィギュアをただ眺めてるように見える。

「もっと真剣に祈れよ!!」

俺はついツッコミを入れてしまった、俺の声に反応して、町長さんと男性が振り向く。

「あれ…あなた達、随分ボロボロだけど何が…」

町長さんが俺達が大分ダメージを受けた様子を見て、何かを察した様子だった。

「……」

男性は何も言わずにエクストの方をガン見している。

「?何だロボ?」

「はうっっ!!ロリ眼鏡メイドがっ!!」

そう言い残すと同時に、顔を真っ赤にして、鼻息を荒くして、倒れた…

ああ…エクストに萌えて、そして気絶したのか…確かに萌え初心者には威力が高すぎるな…


とりあえず男性はベッドで寝かしといて、俺たちは事の顛末を町長さんに説明した。

「お!おおお!魔王を撤退に追い込みましたか!流石です!」

「妙にあっけなかったですけどね!まあ俺たちにかかればこんなもんですよ!!」

俺は多分ドヤ顔で言ってたと思う。

「お姉ちゃんの強化パーツの分際でえらそーロボ…」

エクストが辛辣なツッコミを入れて来る、俺は悔しいが、それに言い返す事が出来なかった…

「それで、その魔王の特徴とは?」

町長さんが訪ねると、リムはアーリエルの写真を取り出す。

「そうだな、この女の子で、名前はアーリエルって言うんだ」

町長さんは辞書ばりに分厚い本を取り出す。

「魔王アーリエル…

この『魔族大図鑑』で見たような…」

そして、図鑑を眺める。

「わかりました!この図鑑に載ってる魔族です!」

しばらくすると、アーリエルの詳細を調べ終えたようだ。

俺はファンタード界の文字が読めないので、リムに通訳してもらうと、こう書いてあるようだ。



・42代目魔王 アーリエル

1ヶ月前程に父親が引退したため魔王の座を受け継ぐ、実力はせいぜい村魔王程度。

カリスマ性と可愛らしさはあるが、ワガママで知力も武力も低い。

あと可愛い。



アーリエルの特徴は、こう書いてあったらしい。

確かに間違えてないし!嘘もついてないだろうけど!

「アバウト過ぎるわ!1ヶ月前じゃなくて具体的な日にち言えよ!本の発行日から1ヶ月前っていつだよ!村魔王って何だ!」

なんなんだ!この読書を舐めた本は!

「わあ!わっかりやすい!」

ななはシンプルな事を好みそうだけど、逆に俺はシンプル過ぎてあの本はわかりづらい…

新人魔王だから弱い、って事だけはわかった。

「とにかく、よくぞ水の町を侵略から守って下さりました!ありがとうございます!」

町長さんは頭を下げて感謝してくれた。

「い、いえ…どういたしまして…」

実はアーリエル本人はすっげーあっさり倒せたんだが、言わないが花だな…

可愛いから部下の数が多かっただけで。

まあ、組織のトップ=最強じゃないのは常識だが。

いかんせん拍子抜け過ぎた…


俺たちは報酬を受け取り、町長さんの家を後にする。

帰り道でななが立ち止まる。

「ねえ、ここ数日間で凄い体験しちゃったよね」

ななは遠い目をして夜空を見上げる。

「そうだなあ…退屈はしなかったけど、良くも悪くも濃密だったな…ここ最近」

俺たちは魔王軍と成り行きで戦う事になり、成り行きで魔王軍を撤退まで追い込んだ。

リムとエクストもななの言葉に頷く。

ここ数日間、いろんな事がありすぎた。

俺の世界では味わえない出来事だ。

俺はこの世界に来て何度ツッコミを入れたんだろ…

一番印象に残ってるのは、リムのお風呂シーンだけど、それを言ったらエクストに即刻ぶっ飛ばされるので言わない事にした。

しょうがないだろ!健全な男子高校生なんだから!

「私さ、まだ強くなる余地があると思うんだ

だから、また別の所行って修行したいっ!ボヤボヤしてられないっ!」

ななが拳を強く握って言う。

「と、言う事はそろそろお別れロボね、強くなりたいのはわかるロボ、がんばれ」

エクストがななの手を優しく包む。

「そうだな、出会って日が浅いけど

なーちゃんの技には大分助けられたよ、ありがとう

イカとやり合った時に君がいないと全滅してたかもな」

リムが柔和に微笑んで言う。

「俺は詳しい事はよくわからないけど、なながいてくれたおかげで賑やかになったのは確かだ

目標があるってのは良いよな、応援するよ」

俺はななに言う、俺にも目標があって、それに尽力した事があるから、ななの言う事は共感出来る。

ななは俺の言葉にこくんと頷く。

「うん、うんっ!皆ありがとう!老若男女、プロアマ問わずに戦いの心得ある人に無差別で試合挑んで強くなるよ!

お世話になりましたっ!」

ななはそう言い、俺たちに手を振りながら、歩き始める。

俺たちもななに手を振り続けた、彼女の姿が見えなくなるまで。


ななの姿を見送った後、俺は疑問を口にする。

「なあ…無差別に試合申し込むって…通り魔みたいな事言ってたけど冗談だよな…」

俺はななの発言に不安を覚えていた、可愛い顔に似合わずに結構容赦なくて、それでいて卑怯な部分もある。

マジで無差別試合もやりかねない…

「…………………………」

エクストが真顔で何も言わない…ななは本当にやりそうだから止めなかった事を後悔してるんだろう…

「いろんな人から学ぶのは大切だぞ?戦い以外にも大切な人生の基礎だ」

リムは名言っぽい事を言ったが、相手はあのななだ…

「その学ぶべき相手に対して無差別で通り魔まがいの事をしそうなのが怖いんだよ!!」



ななと別れた次の日、俺たちは報酬を手にアーガス家へ帰還していた。

歩いていると廃屋と勘違いされそうな程ボロボロだけど、広大なアーガス家が見える。

歩いていると、遠目にアルエットさんの姿が見える。

「あ、お姉ちゃんっ」

リムとエクストが駆け寄る。

アルエットさんが手を振りながらこちらに迫って来た。

アルエットさんが目が眩む程に眩しそうにリムとエクストを見ていた。

三人は駆け寄る、感動の再会で抱き合うとかするのかな?

うんうん、良かった良かった。

「えっ!?」

だが、アルエットさんは予想外の行動を取った。

急転回していきなり俺の方に向かって来て来て…それから…

強烈なラリアットを一発放つ!

「ぐぼっ!!」

始まりは突然嵐になる!初めて感じた衝動!

俺は大きく吹き飛ばされた!中身が出そうな程の衝撃!

「あなたが変な魔法をリムに使わせたせいで私は大変な目に合いました…

可愛い可愛いリムがあんな事するはずないですから、あなたの仕業に決まってます!!裁きを受けなさい!」

俺は全身に暴風をまといながら強烈な一撃で吹き飛ばされた!

「っっっっ!!!!」

陸上なら世界新が出そうな程のスピードで吹き飛ばされて悲鳴すら出ない程!

だ、だめだ…思考が追い付かな…


俺はしばらくすると、水浸しになってアーガス家の前にいた。

気絶していたのでわからなかったが、アルエットさんのラリアットを受けて気絶して。

水の神の湖まで吹き飛ばされて湖の中に落下し、それからリムとエクストが救助してくれたらしい…

「ありえねーな…それ…」

そこまで吹き飛ばすなんてアルエットさん恐るべしだ…

俺は抗議しようとも一瞬思ったが、アルエットさんがリムの魔法を受けたせいて町で大恥をかいたらしいので。

俺には何も言えなかった。

「お姉ちゃん、リムたちは村魔王レベルだけど魔王を撃退したんだ、それなりにお金ももらったよ」

そう言い、リムは自分の分のお金をアルエットさんに差し出す。

続いてエクストも同じように差し出す。

「お疲れ様!私の妹達なら魔王なんて雑魚虫ですから討伐出来て当然ですよ!

この可愛さで焼尽宇宙魔王すら瞬殺です!」

アルエットさんがそう言い、リムとエクストをねぎらう。

「雑魚虫って…可愛さと強さはあまり関係ないだろ!焼尽宇宙魔王ってなに!?」

俺のツッコミが聞こえていないのか、無視しているのか、アルエットさんはそのまま続ける。

「このお金はあなた達のために使おうと思ってますが、よろしいですか?

あなた達の幸せが私の幸せです」

アルエットさんがリムとエクストに向けて言う。

リムがこくんと頷き、エクストが無邪気にはしゃぐ。

「わーいロボ!ボクのために使ってくれるならお任せするロボ」

俺もお金もらったけど、部屋と自分の身を守ってもらってるし。

お金渡した方が良いのかな?

「アルエットさん、俺も報酬もらったんですけど…どうします?」

俺は取り分を差し出す、するとアルエットさんが珍しく裏表のない柔和な表情で言う。

「アキラさんには協力して頂いてますし、この世界でもお金は必要でしょう

あなたの分はご自由に使って下さい」

俺はさっきラリアットでぶっ飛ばされたり、半ば脅迫されたりしたけど。

アルエットさんの気遣いが嬉しかった。

やっぱり金銭面で苦労してるだけあって金の大切さを人一倍知ってるのか?

「ありがとうございます、アルエットさん

それで、アルエットさんはどれぐらい稼いだのですか?」

俺が訪ねると、アルエットさんが顔を真っ青にして財布を取り出す。

「え…ええ…それが…ズバッシャードガーバシャッと巨大サラマンダーを倒して来たまでは良かったのですが…」

財布をひっくり返すと、チャリンと音を立てて5枚の硬貨が落ちて来た。

「こ、これはっ…」

リムが驚愕する、ま!まさか重要アイテムか!?

「なんだ!まさか魔法のコインや値打ちのある代物か!」

リムが静かに口を開く。

「ただの小銭だ、まさかサラマンダー倒したのにこれぽっちだったのか?

お姉ちゃん程の人がお金を盗まれたりするとは思えないからな」

リムが疑問を口にする。

「紛らわしいから…たかが小銭でそんな大袈裟なリアクションやめてくれ

で、何かあったんですか?」

アルエットさんは重い口を開く。

な、何かきっとシリアスで重い理由が!

「ひ、久しぶりにお金入ったから!酒場で久しぶりにお酒沢山沢山飲んでたら!お金が無くなって!

しばらくお酒飲んでなかったから!つい!」

俺はアルエットさんの言葉に共感を覚えた。

典型的なダメ人間のパターンだ!

「俺も小遣いが入ったから調子に乗って漫画買いまくったら小遣いが無くなった事がありますよ!」

だから、俺はアルエットさんを責める事が出来なかった…

金銭面で苦労してて、好きな酒も飲めなかったんだから俺より大変だろうし。

「ま、まあ…普段お酒飲めてなかったんだから…仕方ないロボット…」

エクストの口調が『ロボ』ではく『ロボット』になってる辺り、彼女の戸惑いっぷりがわかる。

「そ、そうだな、いつもお金の事で苦労してるからたまには」

リムも同じように戸惑いながら言う。


倒した魔王は小物、アルエットさんが金を無駄遣いすると言う結果で。

俺たちの旅はなんともしまらない形で終わった。

まだ地球に帰れるメドも立ってないし、俺はこれからどうなるんだろ…



俺はようやく部屋に戻る事ができた、すぐさまベッドに潜り込む。

「ふう…どっと疲れた…」

嬉しいけれど、起き抜けにサービスシーンとか男なら耐え切れないような刺激的な事があったからな…

やっぱり女の子と同じ部屋で寝るなんて落ち着くわけがない!

そんなわけでおやすみ…


「あ!そこもうちょっと右で!」

翌朝、大きな声と大きな音で目を覚ました。

トンカチなどの工具の音が敷地内で響き渡る。

「もうちょっと壁紙も可愛いので!可愛い妹のためですから!」

一際大きなアルエットさんの声が響く。

「な!なんだ!?」

俺はパジャマを着替える暇がないまま、外に飛び出す。

そこには、予想外の光景があった。

「な!?なんじゃいこりゃ!」

アーガス家を眺めると、リムの部屋とエクストの部屋がある位置で『だけ』改築が行われていた。

他はボロボロのまま放置している。

「な!何が起こってる!?」

突如爆音が聞こえる、俺がふと振り向くと、どういうわけか大工の人が爆発の魔法を使って部屋の壁を破壊していた。

「もっと部屋を広く!快適にして下さい!」

「へい!了解しました!」

アルエットさんが特に戸惑う様子もなく指示をする。

「この世界では増改築に爆発魔法を使うのか…ワイルド過ぎんぞ!」

アルエットさんがキラキラとした幸せそうな目でリムの部屋を眺めていた。

「私は妹の幸せがだいいちなんです!この前稼いだお金を全部つぎ込みました!

リムとエクストから了承ももらってます!」

アルエットさんがドヤ顔で言う。

うん、アルエットさんの言い分はよくわかる、家族の幸せは大事だし、姉妹愛は美しいよ。

だけど…だけど!

「いや!金稼ぎしてるのはアーガス家の名誉回復も兼ねてるんでしょ!?

それならまず強くなってお金稼ぐためにアイテム集めるとか!

長い目で見たらその方が家の復旧も早くなりますよ!」

俺の声が響き渡った、きっとアルエットさんはまとまった金が手に入ったらすぐに塚本タイプなんだろ…


俺は増改築に興味はあったが、見ているとツッコミが止まらなくなりそうなので部屋に戻っていた。

ジャージに着替えて部屋で休んでいると、ドアを叩く音が聞こえる。

「あーちゃん、いいか」

リムの声が聞こえたので、俺はドアを開ける。

「うん、大丈夫だ」

するとリムとエクストがいて、二人でクッキーと紅茶を持っていた。

クッキーと紅茶の良い匂いが食欲をそそる。

「クッキー焼いたロボ、二人でどうぞロボ」

エクストが俺とリムにクッキーと紅茶を差し出す。

俺はそれをありがたく受けとる。

紅茶を飲むと、さっぱりした上品な味と温かさが伝わって来る。

「ありがと、エクスト

なんでわざわざ俺の薄汚い部屋に?」

リムが部屋に座り込む、俺は女の子を自分の部屋に入れた事なんてないから、少しドキドキしていた。

リムは少しもじもじした様子だ、裸を見られても平気なのに、ギャップが可愛らしい。

「あのな、君の世界のゲームって面白そうだから、遊ばせてもらいたいなって」

そう言い、リムが机の上のうさちゃんパラダイスを手に取る。

リムの魔法の元ネタのゲームだ。

「別に構わないが、テレビもゲームも…」

それは据え置きゲーム機なので、今電力が存在していない俺の部屋では遊ぶ事が出来ない。

「あ!それなら大丈夫ロボ、これぐらいの電力なら補えるロボ」

エクストが小型のバッテリーを置く。

エクストはテレビとゲーム機のコンセントを見て、新しいパーツを作成していた。

変換プラグだろう。

「見切ったあ!!ロボ!せいっ!はっ!」

エクストが突然大声をあげたので、俺は驚いた。

直後のエクストの動きは神がかっていて、パーツを用意した直後、10分で変換プラグを作り上げあげていた。

コンセントをつけた変換プラグをバッテリーに取り付ける。

「ふう、出来たロボ、試してみるロボ」

俺はエクストに促され、テレビとゲーム機の電源をつける。

「うっそだろ…」

するとテレビとゲーム機が両方共起動した。

「え…マジで?どれどれ?」

俺が試しにゲームを動かすと、ピンクの胴着の男は全必殺技ゲージを消費してまで挑発行為を行っていた。

『ヒャッホー!超余裕ッス!』と調子の良い声がテレビから響く。

流石にテレビ番組は見れないが、ファンタジー世界でなんて技術だ!

「かがくのちからってすげえっ!」

俺はつい、エクストに拍手を送っていた。

リムは柔和に笑い、エクストの頭を撫でる。

「ありがとう、エクちゃん」

エクストは嬉しそうに笑っていた。


リムの操作するウサギの軍団が敵の戦闘員に襲いかかる。

指揮を取るのはバニーガールの女の子だ。

ドワーフのコスプレをしたウサギが先陣を担って、斧で次々と敵を吹き飛ばして行く。

「おお、これはなかなか…」

リムは楽しそうに色々なアクションをこなして行く。

画面下のゲージが貯まり、それを使用するとウサギは20メートルに巨大化する。

巨大ウサギが次々と敵軍を蹴散らす!

カオスな光景だが、実際に魔法で見たせいか、リムとエクストの驚きは薄かった。

俺はふと多人数プレイがあった事を思い出し、エクストにコントローラーを差し出す。

「エクスト、やってみるか?」

「ふえ?ボク機械には強いけどゲームは下手ロボ

お姉ちゃんは才能あるけどボクには…」

エクストが遠慮しているが、リムが言う。

「いや、そんな事よりも、リムは純粋に遊びたいな

エクちゃんとあーちゃんといっしょに」

リムのその声は優しかった、エクストはそれを受けて、迷わずにコントローラーを手に取る。

「わかったロボ、やるロボ!」

「よっしゃ!俺も加わるとしますか!」


「リム、右を頼む

エクストは俺といっしょに来てくれ」

「わかったよ」

「りょーかいロボ!」

ゲームの中で俺の操作するウサギとエクストの操作するウサギが中央を担い、リムのウサギが右に行く。

リムが笑っていた、その可愛く明るい笑みにドキリとしてしまう。

「あーちゃん」

「ん?ど、どうした…」

リムは俺の方を見て言う。

「君がこんな無茶な状況なのに旅に付き合ってくれて助かったよ

それとな、ゲームしたいってリムのワガママにまで答えてくれて感激したよ

ありがとう」

俺は確かに巻き込まれたけど。

部屋も自分の身も守ってもらってるようなものだからリムみたいに考えた事はなかった。

それだけに、リムの純粋な言葉に胸が熱くなる。


まだ地球に帰れるメドはつかないし、俺もこの世界では最弱クラスだけど。

友達も出来たし、その友達と遊ぶ事が出来るから。

悪い事ばっかりじゃないかな?異世界生活も。


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異世界はまるちわーるど! 響鬼ぎゅねい @gxyunei

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