第四章 海沿いドライブ! デコトラと化した俺
第12話
ついに念願の異世界デビューを果たした。今も大勢の美女を侍らせているところだ。
「ユトリン様、今日も見目麗しいことですわ! その玉体は、まるで神様のよう!」
俺は誰よりも強い力を持って生まれた、言わばナチュラルボーンチーターだ。苦しい修行も逆境もまるで縁がない。
ああ、幸せだなあ。
それに隣の娘、本当にいいカラダをしていやがるぜ。実に俺好みだ。
「もう、ユトリン様ったらエスティマばっかり! 私も見て欲しいですわ!」
おいおい、この子の流線美も実に見事じゃないか。いくら見ても見飽きない、最高のフォルムを持っている。
ここへ来てよかった……と、そこへ空気の読めない従者が現れた。
「ユトリン様! 朗報に御座います! その御身に相応しき、最良の図案が完成いたしました!」
「よい、後にせよ」
「はっ!」
従者は勢い良く排気ガスを撒き散らしながら去っていった。
そう。俺は無双でハーレムでチートな生活を満喫してはいるんだが……。
唯一の難点が、人間が全てクルマに置き換わっていることなんだよ!
女神いわく、俺にはあのデコトラが魂のカタチとしてミラクルフィットしていたらしい。そのため、そこからさらに姿形を変えるというのは難しいと言われた。下手にいじれば魂ごと崩壊するとまで言われ、しぶしぶ車体の修理だけ受けた。その後、折衷案として「俺を含めて全員が車」という異世界へ転送された……というわけだ。なので今もデコトラの姿のままです!
つーか周り全員クルマて。おかしいだろ。チョロ9ワールドじゃねえんだからさ。
はあ。こうやっていろんな人、もといクルマから慕われるのは気持ちいいけど、複雑な気分だ。
突然、轟音が鳴り響いた。近くに雷でも落ちたのか?
「来ちゃった」
その声は、俺の車内から発せられていた。一人の少女が、助手席にちょこんと座っている。
即座に理解した。俺は、その娘を知っている。
小さくて、孤独で、でもとびっきり優しくて。
唯一の違いは、人間の姿であることだった。しかもめっちゃ可愛いんですけど。すげえ美少女。年齢も、八歳から十五歳くらいに上がってるし。
「って、なんでだよ! 蜜柑ちゃん、もっと他の来世があっただろ! 俺なんかと一緒にいたって……」
「ここが私にとって最高の場所だから。お兄ちゃんは、私のお願いを叶えてくれたでしょ? お父さんときちんとお別れできたのはお兄ちゃんのおかげ。だから、恩返しをしに来たんだ。迷惑、かな?」
「そんなわけ……」
言いかけたその時、側にいたクルマ達が騒ぎ出した。
「キーッ、あの泥棒猫! ユトリン様とベタベタしちゃって何様のつもり!?」
ヤバい! このままじゃ美少女たちが怒りのあまり暴走運転を始めてしまう!
「よし、まずは逃げるぞ蜜柑ちゃん」
「うん! ついでにドライブしようよ!」
「よっしゃ任せろ! 海の見える綺麗な場所知ってるんだ!」
こうして、俺と蜜柑ちゃんは。
なんだかんだあったけれど、幸せな来世を掴むことが出来たのだった。
デコトラ転生 ~トラックに轢かれたら異世界転生できると信じていたのに~ 小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ @F-B
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