第2話 歓迎パーティー

「久しぶり……?」

振り返って久里くりの顔を見てみるが、この黒髪、女の子らしい可愛らしい顔つき……。

「覚えとらんのかっ!」

「はいっ!すみませんっ!」

久里にぐいっと詰め寄られてつい謝ってしまう。

「まぁ、仕方ないかな」

そう言うと久里は肩にまでは届かない程のボブヘアーを後ろでかき集めてひとつにまとめる。

「これで、どう?」

「……あっ」

確かに、記憶の断片に残っている顔がある。

「思い出した?」

久里は髪をまとめていた手を離す。

髪がふわっと重力に連れられて元のボブに戻る。

「きゅうり……?」

「はい、正解です」

きゅうり、それは俺が小学生の時、決まって土曜日に公園で会う男の子に付けたあだ名だ。

『久里?きゅうりかとおもった!』と言ったのが理由だ。

「あれ、でも……」

確か、きゅうりは男の子だったはずだ。

「あの時は騙してごめんね」

久里は深く頭を下げた。

「私、あの時、友達がいなかったの。だから、一緒に遊んでくれる一郎くんとずっと一緒にいたかったの」

久里は昔を思い出しながら、少し懐かしそうに話した。

「何度も打ち明けようとしたよ?『私、本当は女の子なの』って……。でも、その度に、打ち明けたら君が離れてしまうんじゃないかって……打ち明けるのが怖くなったの」

久里の表情は暗かった。

きっと、その時の気持ちが思い出されてしまっているのだろう。

「一郎くんと会える、最後のあの日、私が引っ越しちゃった日。言おうって決心して、あなたの目を見たの。そしたら、あなた……泣いてた……」

俺も覚えている。

きゅうりが引っ越してしまうと聞いて、急いで走って公園に向かった。

最後のお別れくらい言いたいと思ったんだ。

「寂しくなんかない、いつかまた会えるんだからなって、一郎くん、かっこよかった……」

あの頃は、信じればできないことはないなんて、本気で信じていた年頃だった。

またいつか、きゅうりに会えると心から信じていた。

「それでねその後、一郎くん、なんて言ったか覚えてる?」

覚えている。

「『きゅうり、お前、時々何かを一人で抱え込んでるような顔をするよな。俺にはわかる。隠し事があるんだろ?いいんだ、またいつか会えるんだから、言いにくいことなら、またその時に言ってくれればいい』だろ?」

思い出しただけで顔が赤くなるのがわかる。

あれはほとんどその頃はやってたバトル物のアニメの台詞の受け売りだ。

俺の厨二病は小学生時代から姿を現していたらしい。


「一郎くんは私と1番仲良くしてくれた。私はね、あの時から君には特別な想いを持っていたんだと思う」

「い、いや、でも……あの時のきゅうりは男みたいで……ってか男だと思ってたし……」

「でもね、よく思い出してみて。私が女だって、そうわかりそうな場面はいくつもあったはずだよ?」

「そ、そういえば……」

きゅうりは連れションと言うやつに誘っても来たことがなかった。

きゅうりはプールに誘っても、いつも用事かなにかで無理だと断っていた。

きゅうりは、体を触られると恥ずかしそうにすることが多かった。

俺がきゅうりの胸元についた汚れを払ってやった時、変な声まで出して顔を真っ赤にしていたこともあった。

「ね?口では言えなくても主張はしてたんだよ?」

「だがな、あの頃は俺も幼いし、男と女の違いなんてほとんど分かってなかったんだよ」

久里は俺の頬に手を添えてニコッと笑った。

「!?」

「わかってるよ」

久里の水色の瞳がほんの少し、潤んで見えた。

「わかってるから、だから……」


「この、本当の私を、これからの私をもっとたくさん知って欲しいなっ」


彼女の瞳は、俺達が小三だったあの日と変わらない輝きを持っていて、

彼女のその顔立ちは、あの頃とは全く違い、女らしさを帯びて、とても綺麗だった。


「お二人さん、イチャイチャするのはそこら辺にしようか!」

突然、瑠璃るりが間に入り、俺は現実に引き戻される。

そう言えば、周りには6人の姉妹が……。

「そろそろ辞めないと、リア充爆発教信者の珠理ねえが爆発しちゃうからさ」

見てみると、珠理じゅりさんはものすごい機嫌が悪そうだった。

その隣にいる真理まりさんはとてもにこやかだったのだが。

「じゃあ、今日は一郎くんの歓迎パーティーにしましょうか!」

真理さんが手をパンっと叩いて提案するとみんながそれに頷く。

「それいいね〜」

「やろうやろう!」

「パーティーだぁ!」

「えへへ、パーティー」

「仕方ないから、私もパーティー、参加してあげるわよ」

言うことはバラバラだが、みんなやる気は持ってくれているようだ。


その日の夜。

「一郎くん、これからよろしくね!それじゃ、乾杯!」

「「「「「「「乾杯!」」」」」」」

一体どんな手を使ったのか、食卓には豪華な食事が並んでいた。

夕方も近づいてきた頃から準備し始めたにもかかわらず、完璧な歓迎パーティーが設立されていた。

真理さん、恐るべし……。


「じゃあ、みんな一言ずつ、一郎君に歓迎の言葉を送りましょう!」

そんな真理さんの提案により、俺に7言の歓迎の台詞が送られることになった。


「こ、これから、よろしくお願いします……。一郎……お兄ちゃん……」

と、顔を赤らめたあいりが。


「いくらあいりが可愛いからって、あいりに手、出したら許さないから。あと、これからよろしく」

と、冷たい目をしたえりが。


「私とは同じ学校になる予定だし、わかんない事があったらちゃんと聞きに来ること!これから家族として、頼り合う関係を作っていこうね」

と、優しさいっぱいに瑠璃さんが。


「私とは学校は違うけど、家ではたくさん話して、たくさん家族として、暮らしていこうね」

と、きらきらな優里ゆりさんが。


「これから、たくさん私を見て欲しいの!家族としての思い出も、できれば男女としての思い出も……。たくさん思い出を作ろうね!」

と、元気いっぱいに久里が。


そして最後に真理さんが……、

「一郎くん、あなたはこれから私たちと一緒に暮らすの。

それはね、同居とか、厄介になるとか、そんなものじゃなくてね、『家族』になるということなの。

確かに、本当の親と一緒にいられることほど、幸せなことは無いわね。

私達は親戚だけど、血の繋がりもとても薄いわ。

でもね、私は家族っていうのは、そんな血の繋がりのことだけでまとめてしまっていいものだとは思わないわ。

家族というのは、『心』なの。

だからね、一郎くん。

遠慮なんてしなくていいわよ。

私たちはこれから家族になるの。

たくさん笑って、楽しんで、時には泣いてもいいわ。

そうやって思い出を積み重ねていって、あなたがここをあなたの帰る場所だって胸を張って言えるようになったら、その時は、


私のことをお母さんと呼んで」


「……はい!」

何故か涙が出てきた。

自分がこんなにも受け入れられ、歓迎されていると思うと涙が止まらなくなった。

「一郎くん、喜んでくれてるのね」

真理さんが優しく俺の背中を撫でてくれた。

あいりもそれを真似して優しく撫でてくれる。

そのふたつの手は大きさは違っても、2つともとても温かかった。


その後、落ち着いた俺は真理さんに聞いてみた。

「真理さん、お母さんって呼んでって……どういう……」

「どういうって、私がこの家のお母さんだからに決まってるじゃない♡」

「え、それってつまり……」

「珠理、瑠璃、優里、久里、あいり、えりを産んだのは私よ♡」

「えぇぇぇぇ!?」

今年で1番驚いたかもしれない出来事だった。

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