姉妹7人
プル・メープル
第1話 姉妹全員集合!
俺は一郎、佐藤 一郎だ。
メジャーな苗字にメジャーな名前。
普通くん、だなんて呼ばれたりもするくらいの普通さ。
そんな俺は1年前、事故で両親をなくした。
保険金やら、ご近所さんの厚意もあり、1年間は何とか勉強と家事と、両立できたのだが、最近は手が回らなくなることも多い。
そんな話を聞いた親戚の
なにやら、ここからは遠い場所に住んでいるらしく、親戚の集まりにも1度も顔を出したことがないんだとか。
「アポは取れてるし、ここの住所に言ってちょうだいね」と、美穂さんはそれだけ言って帰って行った。
そう言うわけで今、この場所に立っている。
メモに書かれた住所と表札の文字を何度も確認し、あっていることを確認する。
庭もあって、とても綺麗な外装の家だ。
親戚と言えど、顔も知らない人なのだから、緊張するのも無理はないと思う。
最後に大きく深呼吸をして、インターホンを押す。
「――――」
「あれ?」
上手く押せなかったのか、そう思いもういちど押す。
「――――」
先ほどと同じ、無音だ。
インターホンとは、押せばこちらにもあの、『ピンポーン♪』という音が聞こえるものなのではないのか、そういう仕様なのだろうか。
そう思い、しばらく待ってみたけれど誰も出てくる気配はない。
ふと、視線をしたにやる。
「あっ……」
インターホンの真下、地面スレスレの壁に一枚の紙が貼ってあるのが見えた。
『インターホン、故障中です。
御用の方は呼びかけてください。』
「って、なんじゃそりゃ!」
驚きと困惑のあまり、つい、紙を剥がして2度見、3度見。
「さっきの勇気を返してくれ……。てか、ここに貼ったら意味ねぇ……」
だが、こう書かれている以上、呼びかける他ないらしい。
さっきよりもハードルが上がった気もしなくはないが、いつまでも家の前にいる訳にもいかない。
「すみませーん!」
「はぁい」
呼びかけると、すぐに返事が返ってきた。
2、30秒程して、庭の先のドアの向こうから、どすーんという何かが崩れた音と、「いたっ」という女性の声が聞こえた後、ゆっくりとドアが開いた。
「いらっしゃい」
中から出てきたのは優しそうな女性。
背は自分と同じくらいで、ピンクの髪をしている。
なにより、目立つのが大きな胸と整った顔立ち、見たところ、大学生くらいだろうか。
「というか、大丈夫ですか?すごい音がしてましたけど……」
「な、なんのことでしょう」
あ、目を逸らした、なんて思いながら家の中を覗いてみると、ダンボール箱が散らばっているのが見える。
てか、あれ俺をの荷物だ。
先に送っておいた荷物が崩れてしまったみたいだ。
「さぁ、中に入って」
女性に手招きされて、門を開いて中に入る。
庭は小さいけれど、とても綺麗に整えられていた。
ドアをくぐって家の中に入ると、またもビックリする。
綺麗なフローリングの廊下がまっすぐ続き、脇にあるのはリビングへの扉だろうか。
奥に見えるのがダイニングとキッチンの部屋で、ダイニングとリビングは繋がったいるらしい。
右側には2階への階段がある。
というか、何よりも玄関が広い。
左側には積み直された自分の荷物があり、他には7足ほどの靴が置かれていた。
「綺麗なお家ですね」
「私、掃除には気を遣っているのよ」
どうやら、この女性が掃除をしているらしい、ここまで綺麗にできるのは素直にすごいと思う。
「一郎くん、私のことは
女性の名前は真理さんと言うらしい。
それにしても、見た目のおっとりさに比例して、声もおっとりした人だ。
「じゃあ、そこのリビングで座って待っていてもらえるかしら」
女性はそう言って左側の扉を指さし、彼女は階段を上がって行った。
俺は言われたとおり、リビングに入って椅子に座る。
それにしても、椅子の数が8もあるのはどうしてだろうか。
しばらく家具などを目で観察していると、ダイニング側の扉が開く。
「あ、真理さん」
「……え?あなた、だれ?」
俺が呼びかけると、その女性は驚いたように固まった。
というか、真理さん、なんでバスタオルだけ……?
「あ、もしかして一郎くん?」
「そ、そうですけど……」
「そっかぁ、一郎くん来るの、今日だったのかぁ」
もしかして、真理さんって二重人格?
それとも、お風呂で滑って頭打ったのかな?
「私は
確かに、言われてみればさっきより背が少し高い気もする。
それに胸もそれなりにあるが、さっきよりもボリュームダウンしている(ように見える)。
なにより、話し方がハキハキしている。
「ねね、一郎くん。私のカラダ、どうかな?」
そう言って珠理さんはバスタオルの結び目を解いた。
「あ、え、じゅ、珠理さん!?」
当然、バスタオルは床に落ち、珠理さんの豊満なボディが……。
「あ、ユニフォーム……?」
珠理さんはバスタオルの下に陸上部らしきユニフォームを着ていた。
肩の部分に見えるはずの細い部分をわざわざ内側に折りたたんでいるところから見て、確信犯だ。
「どう?ドキドキした?」
「し、しました……」
「顔真っ赤だ〜!かわいいぃぃぃっ!」
ユニフォームを着ているとは言っても、陸上部のである。
かなり際どい格好であることに変わりはないのだから、ぐいぐい近づいてくる珠理さんにたいして、目のやりどころに困る。
「あらあら、珠理ちゃん、あんまり一郎くんを困らせちゃダメよ?」
そこに真理さんが入ってくる。
「はーい」
珠理さんはのらりとした返事をして僕から離れる。
しかしまぁ、こう並んでみると本当にそっくりだ。
双子とかだろうか。
「たっだいまー!」
玄関の方から元気そうな声が聞こえてきた。
「あ、帰ってきたみたいね」
真理さんはダイニングのドアを開けて、帰ってきたその人を出迎える。
「え、だれ?」
「おねーちゃんのかれし?」
帰宅者は2人、どちらもランドセルを背負っている。
「彼氏じゃないわよ〜。一郎くんは親戚の人よ。ほら、うちにお世話になりに来るって言ってたでしょ?」
「あ、思い出した!」
「あ、今日だったのか〜」
2人の少女は顔を見合わせて、「わすれてた〜」と笑い合っている。
「一郎くん、紹介するわね。こっちのツインテールの方が
真理さんが丁寧に教えてくれる。
「私の方がえりよ。漢字はあいりと同じだけど、呼び方違うから、間違えるんじゃないわよ」
えりがツインテールを揺らしながらツンツンした言葉遣いと目付きで俺を指す。
「私があいりです……。よ、よろしくお願いします……」
あいりはえりと違い、大人しい、というよりかは人見知りが激しいのだろう。
ただいまの声は元気だったし、根暗という訳でもないようだし。
2人とも、違う意味で慣れるのが大変そうだ。
「真理さん、この家に住んでる人って、これで全員ですか?」
俺の言葉に真理さんは首を横に振る。
「いいえ、あと3人いるわね」
「ということは、全部で7人!?」
「えぇ、一郎くんも合わせて8人ね」
「ま、まじすか……」
想像していたよりも大家族だ。
「あの3人なら、もうすぐ帰ってくると思うけど……」
珠理さんがそう言うとほぼ同時に玄関のドアが開く音と、ただいまーという2つの声が聞こえてきた。
「ナイスタイミング、かな?」
「珠理ねぇ、何がナイスタイミングなの?」
「みんな揃ってどうし……って誰だっ!」
そこで部屋に入ってきたのは、紺色のブレザーを羽織った2人の少女。
歳は高校生くらいだろうか。
「今日来るって言ってたでしょ?一郎くんよ」
これで3度目になる紹介を、またもや真理さんがしてくれる。
「あーね、そう言えばそんなこと言ってたね」
「瑠璃ねえも忘れてた?私も〜」
ブレザーの2人は「ね〜」と言いながら顔を見合わせて笑っている。
さっきもこんな光景あったような気がする。
「一郎くん、覚える名前、多くて大変でごめんね」
「いえ、大丈夫です」
あんまり大丈夫じゃないけど……。
「2人はそっくりだから、尚更大変だと思うけど、瞳の色が赤い方が
確かに、瞳の色以外の特徴といえば、サイドテールの向きが優里さんが左で瑠璃さんが右だということくらいしかない。
簡単に変わる特徴で覚えるのは、やっぱり違う気もするし、瞳の色で覚えることにしよう。
「久里が遅いわね」
「何かあったのかしら」
「ただ遅いだけじゃない?」
「寄り道してるだけかもしれないし」
「久里ねえも一郎が来ること忘れてるんじゃない?」
「久里ねえ、あれでも抜けてるとこあるもんね」
さすが、6人もいると会話もポンポンと進んでいる。
聞いているところ、7人目は
帰りが遅いらしいが、何かあったのだろうか……。
「ただいま!」
「っ!?」
声が聞こえると同時に肩をバンッと叩かれて、思わずビクッとしてしまう。
「遅くなってごめんね!委員会の仕事があったから……」
「頑張ってきたのね、お疲れ様」
「いやぁ、それが大変でさ〜……って、こんなこと話してる場合じゃないよね!」
「ん?」
そういうと、久里は俺の前に立ち、ニコニコしながら俺に言った。
「久しぶりだね、一郎くん!」
「へ?」
ついひょうきんな声が漏れてしまった。
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