第4話 言霊揺らしのティータイム

 地上に降りる機会が増えた。言霊揺らしであることを、言霊に触れてしまうことを必要以上におそれて遠慮する必要は無いのかもしれないと気付いてからは、地上の紅茶が飲みたくなるたびに一休みして気軽に降りた。

 気に入りの喫茶店を見つけたのは幸運だった。小さな店内には店主一人、客もそろって物静かで、BGMはささやかなジャズ。居心地が良くてもう何度も通っている。だがその日は様子が違った。

 いつも落ち着いた雰囲気の店内に突然の嵐が訪れる。二人組の罵り合いがあっという間に店内を、とげとげした言霊でいっぱいに埋め尽くす。持ち上げたティーカップから口までのわずかな隙間にもみっちり言霊が詰まってしまうとさすがに無視もできず、そっと横へ押しのけた。

 それをたまたま店主が見ていて、びっくりした顔で皿を拭く手が止まっていた。店主は見える人だったのか。しかしそれではさぞかしこの嵐の中で息詰まる思いをしていることだろう。ためしに手近な言霊のとげを指でなぞって取り除いてやると、届いた相手の表情の険が薄れる。次々に撫でていくと、だんだんと二人の表情が落ち着いてきて、言霊の嵐が穏やかになった。

 どうやら和解したらしい二人は握手を交わすと連れだって店を出ていった。これで残りの紅茶はゆっくり楽しめそうだと思っていたら、店主がやってきて小皿に載せたチョコレートを置く。横にあたたかな色の小さな言霊を添えて。

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言霊揺らし 呉葉 @KurehaH

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