陸・情報の雪崩

 川沿いを歩く足取りは軽い。数日前のそれとは生まれ変わったのかと間違われる程の変貌。茶色だった髪は緋色に染まり、首にまで伸びていたものと似て非なる枷は左の手首にも。腕の枷は鬼灯が既に実らせているものであった。これは婚約の契りの証。一般人には気色の悪いタトゥーの様にしか見えないのだろう。然し構わない。美しいと俺が思えればそれで良いのだろうから。

 調子に乗ってふと河川敷の小さな石を蹴る。


「……?!」


 急にどっと押し寄せる情報の波。十年前、異能力、悲劇……これは何だ。俺の記憶じゃない。これは誰かの記憶、それも一人じゃない。


 ――いや、人ならざる者の視点なのか?


 一瞬で脳裏に浮かんだあまりの情報量の多さにパンクした俺は、一人砂利の上に倒れ込む。気持ち、悪い……なんだこれ。誰の記憶だ。何故、襲ってもない日向兄弟の幼い頃の事件が、何故、十年前の花咲町が、何故……ハルサキとナツキが笑っている光景が?

 今回の『花の日』、そして『空気圧』、『偽の黒幕マツリ』は何か十年前の事件と関係しているのだろうか。


 そもそも、十年前の事件ってなんだ。俺はまだその時異国の地に立っていただろう?


 知らないけど知っている。そんな情報の波に呑まれた俺は、暫くその場から動く事が出来なかったのだ。










「……ははっ、お楽しみはこれからだよ?」




        〔続〕

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鬼灯【物リン】 東雲 彼方 @Kanata-S317

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