体験入部②

「ね?桜藍さくら彩楓あやか、大丈夫でしょ?」

前のめりに提案してくる優椛ゆうか先輩は珍しくはなかったが―

「それはあとから考えようね優椛ゆうか。それよりも今は体験入部なんだからそこは気にせずに楽器体験をやりましょ?」

桜藍さくら先輩が優椛ゆうか先輩の突発的な提案の答えを出しかねて悩んでいることが意外であった。

 桜藍さくら先輩の考えはよくわかる。自分が専念してきたパートを捨てて大会に望むなど難ししい話だ。ましてや最後の大会だ。すぐに賛成は出来ないだろう。

「うーん...うん、そうだね。今はその時間だもんね。さて、二千椛にちかちゃん、何やりたい?」

優椛ゆうか先輩も何かを察したようではあり、切り替えて明るく振舞おうとしているようだったが、どこか少し寂しそうな声だった。


 話は振り出しに戻ってしまったが、どうしようか。現実的な話をすると、先輩のパート以外の楽器をやったほうが今後のためになるだろう。しかし、できる人がいないのでは話にならない。

「...あれ?そういえば、先輩方の演奏ってまだ聞いたことがないのですが...?」

部活動見学でのインパクトが強すぎたために、すっかり忘れていた。実際、演奏⋯というよりはそもそも準備してるところすら見たことがなかった。

「あれ?見せたこと無かったっけ?じゃあ今日は演奏しようか。」

「でも優樺ゆうか先輩、この編成でやれる曲って何かあるんですか?」

この編成だとフレキシブルならできるが、曲はほとんどないことは推測できた。また金管のみの編成だとどうしても連符が難しくなる。

「ほら、アンコンの時にやったアレでいいじゃん。彩楓あやか、あれなら出来るでしょ?」

「出来ますけど...わかってもらえるでしょうか?」

⋯たしかに、彩楓あやか先輩の言うように、わかる自信はない。打楽器のものならわかる自信あるんだけどなぁ⋯

「まあ、やるだけやってみましょ?分からなかったらその時だよ」

桜藍さくら先輩の言う通りだ。もしわからなくてもどうにかなるだろうし、そこからたくさんの曲へと派生していく可能性だってある。

 ⋯しかしもう部活終了まで20分ほどであり、今から演奏ということはきっと今日楽器体験はないだろう。果たして大丈夫なのだろうか⋯?


 3人は準備をはじめ、私はそれぞれの楽器を初めて見ることが出来た。優椛ゆうか》先輩のトランペットは銀管であり、桜藍さくら先輩のチューバは銀管のロータリーのものであり、いたって普通であった。が、驚いたのは彩楓あやか先輩のホルンだった。まさかのトリプル。しかも銀管である。あんなもの実物はもちろんのこと、ネットですら見たことがなかった。しかし、通常のトリプルの値段を考えると数百万はくだらない代物である。一体どこで手に入れたのだろうか。話を聞くところによると、どうも先輩方の楽器は全て私物らしい。なおさら入手先が気になるばかりだ。


「さて、準備を始めようか。」

優椛ゆうか先輩の一言により、ようやく今日のメインディッシュにありつけるのだということ実感した。


 夕日は沈み、空は別の姿へと変化している最中であった。

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紺碧の空に輝くもの 香月碧空 @sora_eru

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