体験入部①

 あの衝撃的な光景から2、3日ほどが過ぎ、私は体験入部という名目でいろんな楽器を体験する⋯という先生からの話だったが、部室に着いてみると―

「え?私達は自分の楽器以外は吹けないよ?」

部長であり天然な黒森くろもり 桜藍さくら先輩。

「私がホルン、あとの2人がチューバとトランペットだよ」

唯一の2年生であり、部の中では1番しっかりしていそうな日倉ひくら 彩楓あやか先輩。

「とりあえず何やりたい?トランペット?それともトランペット?」自由人という言葉がピッタリの金峰かねみね 優椛ゆうか先輩。鬼ごっこの主犯でもあるようだ。


⋯このように三者三様に主張していて、なんだかもう色々詰んでいた。しかし、彩楓あやか先輩の話の中でひとつ疑問に思ったことがあった。

「あれ、木管っていないんですか?」


『 あ、うん、いないよ?』


この3人、相性はとてもいいらしく、いつも私の質問には1字1句違わずに声を揃えて答える。

「打楽器もですか?」


『 もちろん!』

⋯金管3人で吹奏楽部か。もはやブラスバンドではないか。しかし桜藍さくら先輩いわく「去年までは先輩方が多かったから大編成での参加が可能だった」とのこと。今年はアンサンブルコンテストへの出場が関の山だろうと。私自身としては夏の大会にも出場したかったが、この人数では仕方がないだろう。しかし、私のパートはどうなるのだろうか。元々は打楽器を専攻してきたが、今回は事情が事情だ。他のパートになったとしても仕方がない。


「あれ?、そういえば二千椛にちかちゃんって経験者だよね?元々は何をやってたの?」桜藍さくら先輩が唐突に尋ねてきた。先生には話したのだが⋯もしかして何も話は聞いてないのだろうか。

「はい、打楽器ですよ。なので管楽器はあまり...」

「じゃああれとかも出来るんだ。―」

⋯「あれ」とはドラムとかティンパニのことだろうか?

「―えーっと...ほら、ジャンベとかアゴゴベルとか」

⋯すごくマニアックな所を突いてきた。

「そ、そうですね。アゴゴベルはやった事ありますが、ジャンベはなかなか中学では持ってるところは少ないと思います」

さすがに私も少し狼狽えてしまった。どこでそんな知識を仕入れたのだろう。もしかして実はこの人も経験者なのだろうか。

「いや、私の彼氏が中学生のときにやっててね...」

なるほど、それで詳しいのか。

「ってことは、元々打楽器やってたってことはやはりそのまま打楽器を志望かな?」

優椛ゆうか先輩が本題に切り込むように話に割り込んできた。

「そうですね。本当はそうしたいです。しかし、編成的に管楽器でも仕方ないかなとは思ってます。」

実際、この編成にアンサンブルコンテスト⋯アンコンに出場するのなら打楽器ではなく管楽器、具体的にはトロンボーンが無難だなと思っていた。

「え?いいんじゃない打楽器で。」

「え、でもアンコンは―」

「いいじゃん、私たちが打楽器やれば。楽しそうだし」

 この言葉にはさすがにその場の全員が驚きを隠せなかった。私は何も答えられなかった。どうして私のためにそこまでしようとしているのかが謎であった。他の先輩方2人も私と同じようになにも反応できずにいた。どうしてこの人は管打の可能性を考えなかったのだろうか。そんなことを思っているようだった。


夕日が私たちの結末を眺め、近くの教会の鐘が鳴り響いていた。

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