Vol.3|物語を広げてみよう

 第三回のテーマは、「物語に広がりをもたせる」です。

 ただただ思うままに物語を書くことも大事ですが、より魅力的な作品、よりたくさんの人に読んでもらえる作品を目指すのであれば、いくつかのポイントをしっかり押さえて物語をより広がりのあるものにしなければならないのです。



 第一のポイントとして「オリジナリティとパターンのバランス」を紹介します。

 創作を志す人は、「オリジナリティ」こそが重要だ、と考えがちです。誰も見たことがない、どこにもないような作品こそ面白いのであり、オリジナリティのない、どこかで見たような物語はそれだけで面白さが減じてしまう、というわけです。

 このように思ってしまう人は、「書く人」にありがちな落とし穴にはまっています。自分で書こうと思うくらい色々な作品を読んでいるせいで、読者視点を失ってしまっているのです。

 意外かもしれませんが、一般的な読者はそこまでオリジナリティを重視しません。物語に触れる機会が少ないので、ベタな話であっても比較的新鮮に感じられるからです。

 彼や彼女にとって魅力になるのは、むしろ「どこかで見た話」であることです。勇者が魔王を倒す旅に出る話、平凡な少年の周りに魅力的な美少女が幾人もやってくる話、平凡な少女が個性的な美青年たちに気に入られる話……。すなわち、「パターン」です。

 では、どうして読者はパターンに引き付けられるのでしょうか。理由は二つあります。


 一つは、どこかで見た話には「安心」があるからです。

 これ、たぶん創作を志す人にはびっくりする話ですよね。皆さんは安心を求めて作品を選んだりはあんまりしないんじゃないでしょうか。これまでに読んだことのない作品、自分に新鮮な驚きを与えてくれる作品を探している人が多いはずです。

 でも、多くの人は必ずしもそうは考えないのです。通勤通学時間のちょっとした暇、放課後の楽しみのためにカクヨムに接続する人たちは、新しい作品への挑戦という冒険よりは、自分の時間を安定して素晴らしいものにしてくれる作品を選ぶ傾向にあるのです。

 もう一つは、パターンというものが自然と面白さを内包している点にあります。

 無数にあるストーリー展開の中で、どうしてそれが「パターン」と呼ばれ、また「ベタ」と言われるくらいに何度も様々な作家の手で使われるのか。それは、多くの読者が面白いと感じるような展開こそがパターンだからです。先人たち――小説家、漫画家、脚本家、吟遊詩人、神話の制作者たち――が荒野に切り開いた道こそがパターンだ、といってもいいでしょう。

 逆にいえば、パターンを外れようとすれば自然と「面白くなる展開」も外してしまいがち、ということになります。「誰もやったことがない展開」の多くは、「先人たちが面白くなりそうもないと行かなかった道」や「一度行ってみたけれど面白くなかったから続く人がいなかった道」なのです。


 とはいえ、パターンをそのまま踏襲するだけでは面白くならないのも事実です。読者が求めているのはパターンをなぞって定番の面白さを提供しつつ、ここぞというタイミングでは他の作品で見たことがない新鮮な面白さをアピールしてくれる作品なのです。

 ここに、オリジナリティを発揮する余地があります。たとえば、以下のような形が求められます。それぞれ具体例も挙げてみました。



・王道パターンの面白さのツボをつくアイディア

 →青春恋愛もので、泣ける悲劇的シチュエーションとそこからの主人公の奮闘による逆転。スケールの大きな異世界ファンタジーで、世界の命運をかけた最終決戦。

・王道パターンを一風変わった展開にみせるアイディア

 →「勇者と魔王」もので、魔王側を主人公にする。異世界転生もので、派手な冒険をしない。

・二つのアイディアをくっつけて新たなパターンを作り上げる

 →「魔法使い」と「刑事」。「勇者」と「バトルロワイアル」。



 全体としてはパターンの面白さを活かしながら、目立つところではオリジナリティを発揮して、「こんな作品は初めて見た!」という感想を読者に与えられる作品。それこそが真にオリジナリティのあるエンターテインメント小説なのです。



 では、パターンとオリジナリティを両立するには、どのような手法が効果的なのでしょうか。

 一つの手法は、既存の作品をたくさん読むことです。それも、なるべく普段自分が読んでいるのとは違うジャンルの作品に触れることをおすすめします。そうすることで様々なパターンを自分の中に取り込むことができますし、「成る程、このパターンではこうすると面白くなるんだな」ということがわかるからです。

 「いや、あくまで自分は自分の考えで物語が作りたい」という人もいるかもしれません。しかし、先ほども紹介した通り、パターンとは先人たちが作り上げてきた偉大な面白さの遺産です。これを活用しないのはあまりにも勿体ないとは思いませんか?

 特におすすめなのが、明治~昭和の文豪と呼ばれる人たちの古典作品群です。芥川龍之介、太宰治、宮沢賢治……国語の授業でその名前や作品に触れる機会は多くありましたよね。彼らの作品はその多くが著作権切れになっていますので、「青空文庫」で無料で読むことができます。

 文豪の作品はその時代の中でも特に評価の高いものが多いので、あまり苦労せずに良質の物語に触れることが可能です。また、彼らの作品はしばしば現代の言葉でいうところの純文学的、つまり「物語のテーマ的な部分をはっきりと説明せず、読者に想像をゆだねる」ところがあります。

 これは、作品を読み、テーマを解釈し、その答えを自分なりに考えることで、エンタメ的作品に作り替える(あるいは自分の作品にその一部を取り込む)ことが比較的容易だということを意味します。


 彼らの作品の設定やストーリを参考にして自分なりに再構築してみましょう。この行為は「パクリ」にはなりません。あくまでテーマやストーリー展開の参考にしただけだからです。他人の文章を自分のものとすることは盗作ですから絶対にやってはいけないのですが、アイディア、ストーリー、キャラクターを取り込み、自分らしいものに変換することはむしろ創作の世界では推奨されることなのです。是非、文豪の作品を己の血肉にしてください。



 最後に、ここまでの流れとはちょっと違う、ワンポイントテクニックを紹介して、私の講義を締めくくろうと思います。このテクニックを頭の片隅に置いておくだけで、あなたの創作力はぐっと上がるはずです。

 それは書いた文章を「音読する」こと。

 意外に思いますか? 声を上げて読む、なんてテクニックのうちに入らないと思われるかもしれませんね。しかし、これが要所要所で効いてくるのです。

 文章を音読することによって得られる最大の成果は、「文章の適切なバランスとリズムを把握することができる」ことです。

 榎本メソッドでは、小説文章では以下のことを気をつけて欲しいと強調します。



・一文を短く、それでいて接続詞は最低限に

→これによって「主語と述語がはっきりわかる」、「修飾過多でないシンプルな文章」になる。読者に作者の意図を伝えるための丁寧な状況描写は必要だが、何も考えずに書くと一文が長すぎたり、複雑な文章になることが多い

・文書の末尾をバリエーションよくする

→「~だ。~だ。」「~である。~である」などワンパターンは避けたい

・「あの」「その」「この」などの指示語はなるべく減らす

→これらの言葉が多いと文章に水増し感、あやふや感が出てしまう



 これらの点を確認するのに適切なのが音読なのです。声に出して読み上げると、バランスが悪かったりリズムがおかしかったりするところはどうにも読みにくく、引っかかってくるものです。似たような言葉が続くケースも、音読によって見つけやすくなります。

 黙読で十分だと思うかもしれませんが、ただ目で追うのと、読み上げるのでは見つけやすさが全然違います。騙されたと思ってやってみてください。

 それではこの音読、どんなタイミングでやればいいのでしょうか。推敲、つまり自分の書いた文章を読み返して確認するタイミングで、と思う人が多いでしょう。もちろん、推敲は相応しいタイミングです。ただ、あんまり長い文章を音読するのは辛いでしょう。この時は、気になるところだけ音読するので良いと思います。

 もっとも音読して欲しいのは、実際書いている時や、その日1日分の文章を書き終えたタイミングです。書きながらの音読はその時その時のリズムを作ることができますし、1日分くらいならそう負担にもならず音読できます。適切な分量のブロックに分けて音読するのがおすすめです。



 以上、駆け足ではありますが、榎本メソッドの骨格部分を中心に、カクヨムユーザーの皆さんに有用そうなお話をさせていただきました。皆さんの創作に少しでも役に立てば幸いです。

 最後に、もう一つだけ。創作をするのに一番大事なのは、実はここまであれこれと紹介してきたどんなテクニックでもありません。

 それは「創作を楽しむ」ことです。

 楽しくないことは続きません。プロ作家は仕事でやっていますが、それだってどこかに面白さ、わくわくする気持ちを見出せなければ、とても続けられるものではありません。

 だから皆さんも、いつだって「小説を書くことが楽しい!」という気持ちを忘れないでほしいのです。逆に言えば「どんな作品を書いているときが自分は楽しいかな」「どんな物語、キャラクターならわくわくできるかな」と常に追求していってほしいのです。

 書く人が楽しくない作品は、読む人だって楽しくないのですから。


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