Vol.2|キャラクターを作ろう
魅力的なキャラクターを作り出すには、どうしたらいいのでしょうか。榎本メソッドでは二つのポイントを特に重視します。
一つめは「あこがれ」です。それは例えば、こんな気持ち。
「あんな風になりたいなあ」
「ああいう状況にいられたらどんなに幸せだろうか」
「あんな風に勇気を持って誰かを助けたり、悪に立ち向かえたらいいなあ」
優れた身体能力や現実にはあり得ない超能力、一を聞いて十を知る賢さにあこがれることもあるでしょう。人に好かれ、惹きつける人望や性格にあこがれることもあるでしょう。もっとシンプルに、巨大な組織を自在に動かせたり、助けてくれる人がたくさんいたり、大金持ちだったりと、恵まれた状況にあこがれることだってあるでしょう。
創作の中のキャラクターを見て、そんなあこがれをいだいたことは一度や二度ではないはずです。自分にはないものを持ち、自分にはできないことができるキャラクターがいかに魅力的であるか、説明の必要もないでしょう。
誰かを好きになるにあたって、あこがれは非常に大きな要素なのです。
二つめは「共感」です。今度の例は、こんな気持ちです。
「ああ、その気持ちわかるなあ」
「こんなことになったら何もかも嫌になるよなあ、わかるわかる」
「ここは頑張らなきゃ嘘だよな!」
あんまり自分から遠いキャラクターはなかなか好きになれないものです。自分と同じ弱点や苦手なものがあったり、一つの物事に対して自分と同じ感覚を感じたり、そして何よりも自分と似たような立場にあるキャラクターに、私たちは共感の感情を抱きます。そうして共感できるからこそ、物語の中での主人公の活躍をまるで自分のことのように思えます。
このような心の動きを「感情移入」ともいいますね。
感情移入は物語における魅力のすべて……とはいいません。自分とは違う立場のキャラクターに自分を重ね、自分では絶対にできないような冒険を楽しむのも、物語の面白さであるからです。
しかし、例えばファンタジー世界の壮大な冒険のような、読者とはかけ離れた世界の物語であっても、「友人との関係に悩んでいる」「親にあこがれつつも反発している」のような読者が共感できる要素が一部あれば、そこに感情移入していくことは可能なのです。
この共感を高いレベルで物語の中で表現することができると、「応援」という新たな要素を生み出すことができます。
ちょっとネタ的にも扱われる光景で、幼い女の子がプリキュアシリーズを見ていて、テレビ画面にかじりつきながら舌足らずの声で「ぷいきゅあ、がんばえー!」と応援している姿、というものがありますよね。あれ、物語を作る人間にとっては一つの理想だと私は思います。
たいていの場合、物語の中の架空のキャラクターの運命は、すでに決まっています。読者がどれだけ応援しても、結果が変わることはありません。それでもなお応援してしまう
一つ注意点として、「あこがれ」と「共感」は水と油めいた関係にある、ということがあります。あこがれは自分と遠い存在に、共感は自分に近い存在に感じるものですから、これはある程度仕方がないですね。
その解決法として、「弱点」をつけてあげる、ということがあります。
誰もかなわないような伝説の傭兵に共感することは難しいですが、彼が実は子煩悩のパパで最近娘から距離を置かれていることに悩んでいる……となると、親しみを感じますよね。これが「共感」になるのです。こういう人が苦手だとか、食べられないものがあるとか、トラウマがあるとか、他にも様々な弱点を設定することが可能です。
それでは具体的に、キャラクター設定を作るときにどんな情報を決めればいいのか、考えてみましょう。
私は以下のようなポイントを意識してほしいと考えています。
・そのキャラクターはどんな外見をしているのだろうか?
(容姿は勿論、服装や装備なども)
・そのキャラクターはどんな素性や生まれなのだろうか?
(どう生まれ、どう育ち、今どんな状態にいるのか)
・そのキャラクターには何ができるのだろうか?
(身体能力、知性、技術、特殊能力だけでなく人脈や財力なども)
・そのキャラクターはどんな性格をしているのだろうか?
(熱血や冷静、穏やかなどだけでなく、ポリシーや大事なものなど、精神的な特徴もここに書いておきたい)
これらの要素は、上から順に埋めていけばいいというわけではありません。思いつくところから自由に書き込んでいけばよいでしょう。もっと言えば、それぞれの要素は相互に関係性があるので、一つの設定を決めれば他の要素も自然と埋められるようになるのです。
たとえば、キャラクターの立場が学生とかサラリーマンとか勇者とか決まれば、自然と「じゃあ、こういうことはできるんだろうな」と能力が決まっていきますよね。もしくは「いや、普通こういう立場だったらこういうことができて当然なんだけど、あえてこのキャラはこういうことができないんだ」なんてことになることもあるでしょう。これこそ、キャラクターの個性です。
そうした特別な個性が生まれたなら、「じゃあなんでそんな特別なことになったんだろう」と考えてみましょう。他の要素もどんどん埋まっていくはずです。
これはみなさんが考えながらキャラクターを作っているということでもありますが、それ以上に頭の中にふわふわとしてあやふやな形で存在するキャラクターに、疑問をぶつけることではっきりとした形を取らせる、という意味合いが大きいものです。この発想法はストーリーや世界設定でも使えるのですが、特にキャラクターに対して有用です。キャラクターに対して「あなたはどうしてそのような要素を待っているのか?」「君はなんでそんなことをしたいのか?」と問いかけることで、より生き生きしたキャラクターを作ることができるのです。
しかし、人によっては先ほどのポイントではうまくキャラが作れない、イメージが固められない、問いかけに対して答えが返ってこない、という人もいるでしょう。大枠のポイントでしたから、そういうこともあるはずです。
そこで、別のやり方も提案します。もっと細かく、キャラクターのパーソナリティに関わるような具体的なポイントについて考えるのです。
たとえば、次のようなものです。
・出身地
・家族構成
・誕生日、星座
・血液型
・好きな料理、嫌いな料理
・趣味
・休日の過ごし方
・座右の銘
・スポーツは見る方か、やる方か
・贔屓のスポーツチーム
これらにはキャラクターの個性に深く関わるものもあれば、一見あまり関係がないように思えるものもあります。星座や血液型は性格に影響しない(少なくとも科学的には実証されていない)ですからね。
しかし、キャラクター性というものは意外にこのような細部にこそ現れるものです。
食べ物にはこだわらず毎日コンビニ弁当で済ませてしまう人と、週に一度レストランに行くのが楽しみの人と、冷蔵庫の余り物でささっと料理をこしらえるのが得意な人は、明らかに性格やそれまでの人生に違いがありそうですよね。仲間と一緒にフットサルに興じるのが何よりも楽しみの人と、スポーツなんて大きなイベントのあるときにちょっとテレビで見るくらいの人と、地元サッカークラブのサポーター集団に加入している人もです。
星座や血液型だって、「仮に星座が性格に表れるとしたらどれかな」くらいの気持ちでいいのです。それが頭の中にあるあやふやなイメージに形を与えるヒントにさえなれば。
このカクヨムをはじめ、WEB小説を書こうという人の多くは、漫画の雑誌連載にも似た、スケールの大きな作品を書きたいと考えておられるでしょう。
実際、正解だと思います。プロを目指して新人賞に投稿する際には作品を長編一巻分でしっかり区切りをつける(それでいて書く気になれば二巻以降も書けるような余地を残す)ことが必要ですが、WEB小説では事情が違います。あなたが望むなら、そして読者が付いて来てくれるなら、物語はどこまでも広げていくことができるのです。これがWEB小説のいいところですね。
この時、最も注意する必要があるのがキャラクターのことなのです。新人賞投稿用の作品では物語が広がりすぎることを防ぐため、しっかり掘り下げるメイン級のキャラクターの数は絞った方がいい、と学校では普段教えています。まずは主人公とヒロインとライバルの三人くらいから考えはじめて、そこに必要なキャラクターを慎重に増やしていった方がいいよ、というわけです。
しかし、WEB小説では話が変わってきます。物語としてのスケールを大きくしていくために、あるいは読者が気に入ってくれるようなキャラクターを出せる確率を上げるために、キャラクターの数を増やす、という手はなかなかに効果的であるようです。
とはいえ、キャラクターは無闇に増やせばいいというものではありません。増やしたキャラクターを処理しきれない、つまりストーリー上意味のある活躍をさせられないことがままあるからです。せっかく登場させたキャラクターなのに他のキャラクターとの違いが小さかったり、そのキャラクターだからできる活躍をさせられない、という経験は多くの人にあるのではないでしょうか。
でも、「ストーリー全体を見渡して、展開上必要なキャラクターのみを厳選して……」と言われても、難しいですよね。そこで、まずキャラクターありき、で物語を作っていくことをお勧めします。こんなキャラクターを登場させたい、そのキャラをこんな別のキャラと関係させたい……と登場させたいキャラクターを並べた上で、「じゃあどうしたら物語の中で活躍させることができるかな?」と考えるのです。そうして考えた上で、どうしても出番を作れないなら涙を飲んで物語から排除する。そのくらいでちょうどいいようなのです。
キャラクターを多数登場させるような物語では、他にも気をつけて欲しいことがあります。それは、「このキャラクターの動機(目的)は何かな?」と考えることです。
物語を書いていると、ついつい作者の都合優先、ストーリー進行優先でお話を作ってしまい、「このキャラはどうしてこんなことをするのか?」まで考えないことがあります。ある程度仕方がないことではあるのですが、やはり作者の都合だけで作ったお話は全体としてスケールが小さなものになったり、キャラクターの魅力が出てこないものになってしまいがちです。
この辺り、現実と創作の違いという問題があります。現実に理屈の通った動機や目的がなく行動する人はいます。そのような人に「そんな人がいるわけがない!」という人はまずいません。現実に存在しているからです。
しかし、創作では「筋の通った動機や目的がないからおかしい」と感じる人は結構いるのです。ですから、皆さんも物語を作るにあたっては現実以上に動機や目的について思いを巡らせる必要があります。
また、各キャラクターの目的や動機をしっかり決めていれば、最初のプロット段階であまりかっちり展開を決めていなくても、
「このキャラならこういうときはこうするよね」
「この二人が出会ったら絶対喧嘩するなあ。目的が合致しないから、仲良くはなれない」
などと、お話を自然と膨らませて行くことができます。そのためにも、キャラクターの動機や目的ははっきりさせておいたほうがいいのです。
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