第4話 嗤う君

 さて、私にもそろそろお迎えがやって来たようです。先程から骨の軋みは愈々大きくなり、暖かさを感じられなくなってきました。砂時計の音は大きくなるばかりです。白の牢獄に囚われた私も到頭地獄の業火に焼かれる時が来たのです。腹を括りましょう。私も逃げ続け、目を背け続けていた私自身の醜さと闘わねばなりません。お迎えも来てくれましたよ。

 嗚呼、君が迎えに来てくれたのですね。君は確か、私が丁度良く見繕った心中の為に用意したひとだったでしょうか。君だけ先に彼方あちらの世界に行っていたのですよね。あの時は本当に申し訳ないことをしました。私は君にも謝らねばなるまい。傷付けた白木蓮の貴女と、そして心中の君。此の罪は償っても償いきれないのでしょうね。

 ところで何故態々君が私なんかをお迎えに来てくれたのでしょうか。嗚呼そうか、君も私からの愛が足りなかったのですね。枯渇した愛を埋められるのは対象たる人間のみなのですから。私は君の為に、君を私の愛で満たしてあげねばなりません。漸く君の願いを叶えてあげられるのですね。

 然しその前に、私は君にあげられる程の愛を今は所持しておりません。なので先ずは白木蓮の貴女に逢いに行かなければなりません。私は彼女の愛で満たされねばなりません。そうして私はやっと君を愛で満たしてあげることが出来るのです。

 ……やっと嗤ってくれましたね。君はもっと素敵な男に愛されただろうに、何故こんな大罪人の愛を求めるのでしょうか。私は君の気持ちが分かりません。それでも君がこんな陸でなしの愛を求めるというのなら、私は君を満たしましょう。

 ええ、死ぬのは怖いですよ。でも先程より幾分かは楽になりました。だって迎えに来てくれたのが君だったのだから。私の愛を求めてくれた君が来てくれたのだから。さあ、そろそろ逝きましょうか、あのひとの元へ。愛を求めて。


 ――此れが私の往生際の、現世うつしよでの最期の言葉なのでした。

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往生際で君は嗤う。 東雲 彼方 @Kanata-S317

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