人間タバコは人に無害って本当ですか?

ちびまるフォイ

タバコの作り過ぎには注意しましょう

「33番の山田太郎タバコをください」

「はい、どうぞ」


「げっ、また値上げしてない?」

「最近、人間タバコにも税金入りましたからねぇ」


「知らなかった……まとめ買いしておけばよかった」


コンビニを出て人間タバコに火をつけた。

煙を吸い込むと、山田太郎の過ごした人生の味が鼻に抜ける。


いろいろな人間タバコを試してみたけれど、

最終的には一番クセがないわりにちょっぴり辛い、山田太郎銘柄に落ち着いた。

安いというのも評価ポイント。


人生が豊かな人間のタバコは当然高いが、

高い金を払ってまで人煙吸いたいかと言われれば困ってしまう。


「ふぅ~~。いい人生だなぁ」


口から吐き出される煙からは山田太郎の初恋の味がした。


翌日、また同じコンビニにやってきた。


「33番の山田太郎タバコをください」

「あ、それもうないですよ」


「えっ!? 売り切れ!? 人気の銘柄ってわけでもないのに!?」


「いえいえ、そういうわけじゃなくて。

 メーカーからもう出荷されてないみたいですよ」


「マジか……気に入ってたのに。それじゃ19番……。

 いや、やっぱり5番のマイルド=セブン=山崎ください」


「ハーフの人間タバコですか。チャレンジですね」

「新天地開拓しようかと」


コンビニ外の喫煙所でタバコを吸ってみると、

あまりに濃ゆい人生にむせ返ってしまった。ダメだ。


「げほっげほっ! なんだこの人生! ハッスルしすぎだろ!」


明らかな体育会派ウェイ系パーリーピーポー教の人生が受け付けない。

やっぱりおとなしい文化人の山田太郎タバコが恋しくなった。


その後も、なにか代替できる人間タバコは無いものかと

さまざま試してみたがどれ劣化のように感じてダメだった。


「山田太郎みたいな人間なんて、ごまんといるだろうに……。

 どうしてメーカーは濃い人間のタバコやら、

 変に味付けた人生の人間タバコしか出さないんだ……」


足りなくなってきたヒトニコチンでイライラしてきた。

もうこうなったら自作するしか無いと、夜に外に出た。


死体安置所にある死体をかたっぱしから集めて、

老若男女さまざまな死体をもとに人間タバコを作った。


人間を細かく砕いて、巻くだけなので意外と楽だった。

それに細かい製法はネットの有志たちが書いていた。


「よし、それじゃ一服」


老衰したおじいちゃんの人間タバコに火をつけた。

さぞや深みがあり味わい深い人生を――


「げっほげほ!! なんじゃこりゃ!!」


ドブのような味がした。

人生を味わうどころか、煙の味が曇ってわからない。


他の人間でも試したがどれも似たり寄ったりだった。

かつての山田太郎タバコに近いものはついぞ出来上がることがなかった。


「ああ、せめて近いものでもあれば……」


安置所で落ち込んでいると、顔にライトが当てられた。



「お前! そこで何をしている!!」



翌日の朝刊では「現代の墓荒らし」などの文字が並び、

写真は人間タバコを吸っている俺の姿が映し出された。


「犯行の動機は?」


「美味しい……美味しい人間タバコを味わいたかったんです……」


「反省の色なし。刑務所行きだ」


刑務所に収監されると生活の大変さよりも、

人間タバコの禁断症状のほうが辛くなってきた。


「囚人番号33番! やかましいぞ!! 静かにしろ!」


「ああああ! 人間タバコが欲しい! この際何でも良い!

 安いホームレス人間タバコでもいいから吸わせてくれ!!」


「看守は囚人にものを与えることが許可されていない」

「あああああ!! あああああ!!」


「わかった! わかった! 1本だけ吸わせてやるから黙れ!!」


「本当!?」


看守は胸ポケットからタバコを1本出すと、檻越しに火をつけて渡した。


「1本だけだからな」

「ありがてぇ!!」


人煙を肺いっぱいに吸い込むと、あの懐かしい人生の味がした。


「ああ……なんて懐かしい味……これは山田太郎タバコ!?」


「いや、違う。これは田中一郎タバコだ」


「違う銘柄か。味がそっくりだったから同じかと思った」


「山田太郎みたいな人生の人間なんて、いくらでもいるからな」


「でも、コンビニのタバコ全部試しても田中一郎なんて銘柄はなかった。

 いったいこの人間タバコはどこで?」


「うちの刑務作業の一環だよ。

 人間タバコの製造もやっているからある意味お前にはぴったりかもな」


「なにその楽園!」


人間タバコの製造ラインに配属されれば、ちょろまかすなんて簡単だ。


「なんだ、やりたいのか?」

「もちろん!」


「かけあってみるが、途中で辞めることはできないぞ」

「やめるもんか! 噛み付いてでも離れない!」


「よし、掛け合ってみよう」


結果はすぐに出た。


「おめでとう、人間タバコ製造ができるぞ」


「やったーー!!」


「製造前にちゃんと汚れは落としておけよ」


「はい! 髪の毛1本も不純物を入れません!」


やがて、看守に連れられて人間タバコの製造ラインに配属された。




それきり、戻ってくることはもうなかった。


コンビニで俺の名前の銘柄を見たときは、ぜひ人生を味わって欲しい。

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