電線劇場
安良巻祐介
電線劇場というのが大通りの向こうにできたというので、友達を誘いだして、早速皆で行ってみようと思ったけれど、町に出ていた広告の地図に従って行けども行けども見えてこない。そのうち日が暮れて、辺りが暗くなって、友達も一人また一人と帰って行って、情けない気持ちと怖いような気持ちがないまぜになってふと見上げた僕は、空に張り巡らされた送電線の上に発光虫がいくつも止まり、少しずつ蠢いて、不完全な人の形のようなものを描いていることに気付いた。その人の形が、口の端をぐじゃぐじゃと歪めて笑ったように見えたと思うか思わぬかのうち、昏倒してしまっていたと見えて、気付けば小児科のベッドの上であった。目が覚めてからもしばらくの間、僕はあの不思議な笑みの作る曲線が瞼の裏に焼きついて、事あるごとに大きな声を発したり、頭をかきむしったりして、ちゃんとした日常生活も送れなかった。
電線劇場 安良巻祐介 @aramaki88
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