第10話

「あの魔法使いが、帽子のなかにほんとうのお月さまを隠していたのだわ」

 そう思ったとたんに、クラリとかんがえが変わりました。

「あれは、月じゃない!

 あれは、あれは、地球だわ!」

 そうです。ノベ姫が歌った青い月とは、地球のことだったのです。

 宇宙船からながめたように地球は青くかがやいています。

「ああ、なんて美しい星なのでしょう!」

 トキの感動をよそに、その星からはひとすじの光がS字にのびてきました。

 将軍はさけびました。

「あれは、ニセ月の軍隊だ!

 ぜんいん戦闘配置につけ!」

 よくよく見ると、その宇宙船とは河にながれていったはずのトキの部屋の本だなでした。でも、たしかにそこにはあおい服をきた兵隊が百名ばかりのりこんでいたのです。

 しかし、ノベ姫は戦いを好みませんでした。そして、地球の軍隊も三角月を侵略しにきたわけではなかったのです。広場に着陸した本だなのなかからは凛々しい王子さまがあらわれて、ノベ姫に会いにきたことを告げました。

 ふたりはあゆみよってにこやかに握手をかわしました。三角星人たちはいっせいに歓声をあげました。

「ああ。よかった。よかった」

 うしろからは、

「グワッ、グワッ、グワッ」と巨人の声がして、大木のような人さし指がトキにまっすぐにのびてきました。しかしトキは誤解しませんでした。トキは、王子さまとお姫さまとが握手をしたように、巨人おっぺと握手をしたのです。

 ああ、ほんとうによかった。よかった。

 あとは、地球にもどるだけ。


 トキは影法師とひとつになり、巨人おっぺに青い星まで送りとどけてほしいとたのみました。巨人はうなずいて、トキを座布団にのせ鳥のように空へ飛ばせてくれました。

「さようなら、ノベ姫さま。

 さようなら、みんな。

 ありがとう、おっぺ」

 三角月はみるみるうちに遠ざかり、風車のようにクルクルクルクルと回りはじめました。月が回っているのか、トキが回っているのか、それはよくわかりませんでしたが、三角が六角になり、六角が十八角になり、角はしだいにその数を増してきれいにすんだ満月になりました。

「ついに、ほんとうの、ほんとうのお月さまをみつけたわ!」

 トキはそう思いました。そして銀河のながれに抱かれたようにふかい眠りについたのです。



 ふとめざめると、そこは自分の部屋でした。わたしは人間にもどっていました。魔法使いの呪いがとけたのです。部屋も電灯も昔のままです。ああ、なんてうれしいのでしょう! すべてのものが新しく生まれかわったようにかがやいています。

 下の部屋ではお父さんとお母さんとが話している声が聞こえます。そうです。たしかにわたしは、ふつうの世界にもどったのです。

 わたしは夢をみていたのでしょうか。それとも・・

 人形のトキは、机のうえでにっこりとほほえんでいました。わたしはベッドから起きてトキを抱きしめました。いつものようにあたたかい感触がありました。

 窓をあけ夜空を見上げると、そこにはまあるいお月さまが光っていました。ほっとひと安心。そして星を見ていると急になつかしさがこみあげてきて瞳がうるみました。そこには、三角の星座や四角いベッドの星座、流れ星や、小人や竜や巨人の星座などが、まるで星空のパラダイスのように光っていたのです。

 きっとあの月のどこかに、ノベ姫の国もあるにちがいありません。わたしは夜空をながめていて心からそう思ったのです。

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三角月夜 日野 哲太郎 @3126

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