インターミッション 『陰謀の胎動』
インターミッション 『陰謀の胎動』
「はっはっはっ! ブラボー! ブラボゥーッ! こんなに思い通りに両機の性能が見られるとは正にブラボゥ!」
東京の巨大な超高層ビル群の中の一角。会社のオフィスと思しき一室で一人の小太りの男が大型モニターを前に手を叩いて大はしゃぎしている。机の上には書類や本に混ざってジャンクフードや清涼飲料水が山と積まれている。男はポテトチップスをを頬張りながら、書類に目を通し、モニターに見入っている。モニターには先日行われたアステローペとシグマリオンの模擬戦が一部始終写し出されている。
そこへ、一人の若い女性が入って来た。外観から歳は20代後半で、ロングヘアにタイトスカートのスーツを纏っている。女性は部屋に入ってくるなり呆れた様に言う。
「外山室長~。またお菓子をこんなに食い散らかして。医者から糖尿の気があるから控える様にって言われたばかりでしょ」
外山。そう、先日ドール振興協会でザン会長と金剛寺会長にアステローペとシグマリオンの模擬戦を提案した巨大企業グループ、フォスターの重工業部門の社員である。
外山は入ってきた部下と思しき女性に諭すように反論する。
「城崎くん~。折角、計画が順調に進んで良い気分なのに水を差す様な事言わないでくれよ。ボクはね、仕事とコレを楽しみで生きているんだから」
城崎と呼ばれた女性はぼやく様に言う。
「何言っているんですか。室長の場合は趣味を仕事にしているんでしょ。室長の趣味に付き合わされる私達の身にもなってくださいよ」
「はっはっはっ! 言う様になったな。城崎くん。ところで、『タロス』の整備と
「はい。衛星ドック『ギガンツ・ネスト』からの定時連絡によると、一応の戦闘シミュレーションは完了しています。機体本体の整備も4時間程で完了するそうです」
「結構、結構。『タロス』はね、言わば生まれたばかりの赤ちゃんなんだ。しっかり、世話をしてくれよ。じゃあ、12時間後に打ち合わせ通りに中国の八福星間開発公司の『天人3号』をターゲットに計画を始めて頂戴」
「かしこまりました。では、その様に手配します。……ところで室長、アメリカ、ロシア、
「だろうね」
「!」
城崎の不安に外山はあっさりと認めた。絶句する城山に外山は話を続ける。
「城崎くん。今更、何を言っているんだい。このプロジェクトを始める前にちゃんと説明したじゃないか。このプロジェクトには大きなリスクが伴うって。その結果、国家間紛争を引き起こす可能性があるとも。しかし、同時に我が社にリスクに見合う莫大な利益が還元される事も説明したよね。この件は非公式ではあるが、役員会の承認も得ている。リスク恐れてはビッグビジネスは成り立たないよ」
「……」
「心配するなって。『タロス』には我が社の製品だって事が判る様な痕跡は残していないし、偽装もしている。都合がいい事に今の所、世間じゃ『タロス』の事を『ゴースト』と呼んで正体不明機扱いになっているそうじゃないか。ターゲットは総て民間の物だし、軍関係には一切手を出していない。『天人3号』の襲撃が無事終われば、今モニターに映し出されているシグマリオンとアステローペでお終いだから」
城崎は模擬戦が映し出されたモニターを覗き込み呟く。
「これが、先日室長の策略で模擬戦をした
「城崎くん~。策略とは人聞きの悪い。提案と言ってくれよ。この両機体実に面白い。シグマリオンはあのカシオペア・グループの宇宙産業部門が建造した最新鋭の
「へぇ。それは色んな意味で興味深いですね」
「ボクはね。どうしても、あの2体の
「分かりましたよ。室長。私も室長みたいに趣味を仕事に出来ればこんな気苦労はしないのですがね」
外山は城山の肩をポンポンと叩きながらこう諭す。
「そうだよ。城山くん~。仕事は楽しんでやらなくちゃ。この業界長く続けるコツだよ」
「でも室長、手を出すのは
「黒崎くん~。冗談きついな~。ボクはね、熟女好きなんだ」
「はいはい。分かりました。それ以上言うとセクハラで人生破滅しますよ」
「参ったな。プロジェクトもまだ、道半ばなのに人生破滅とは……。ところで、マスコミへの介入の件どうなっているんだい?」
「はい。こちらの方も当社の広告を出しているテレビ、新聞関係を中心にそれとなく圧力をかけています。段階的にプレアデス・チームの偏向報道をする様に手配しています」
「結構、結構。マスコミへの圧力は万が一の保険の為だが流石、城崎くん。一流の秘書だけあって、やる事に手抜かり無いなあ」
「では、この後の手配がありますので失礼致します」
「うん。宜しく頼むよ」
外山は模擬戦の様子が映し出されたモニターを見ながら呟く。
「先の紛争の戦闘データを満載した
約半日後、中国の
衛星軌道のマリオネット 皆神コージロー @co-jiro
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