『刃物が使えないはずの世界で、斬殺死体が見つかる』という作品あらすじの時点で既に魅力的でした。
小さな町で発生した『発生するはずのない殺人事件』を、ハードボイルドチックなガンマン『ジャム・ストライド』と、相棒の球体関節人形『キィハ』、そして町の保安官『ユヲン』で調査していく斬新な推理ファンタジーでした。
魔法や魔物が存在する世界だから、何でもアリなんじゃないの~? と最初は正直思っていました。
ですが登場する容疑者達の言葉や開示される設定、調査の末に集まった情報をキチンと整理すれば、必ず論理的に犯人や真相に辿り着く構成になっています。なので、ミステリー好きの人達も充分楽しめる内容になっていると感じました。
犯人発覚後の緊迫する戦闘シーンも迫力があり、ページごとに視点がコロコロ変わる内容でありながら、確かな文章力によって破綻なく最後までスムーズに読み進めることができました。
ジャムとキィハの掛け合いや協力も素晴らしく、この魅力的なバディで続編や別シリーズも読みたいと思える読後感でした。良作です。面白かったです!
当たり前に用いられているものに疑問を呈する。そんな習慣を当たり前に身につけるのがどれほど難儀なことか。
しかも、思いついただけではすまない。造物主よろしく、その世界に肉付けもすれば骨やら毛細血管やらを備えさせねばならぬ。
本作は、作者がいかにその世界を苦心して造り上げたかが随所に滲み出た労作であり力作である。その最大の特徴がそのまま作中の筋と推理に噛み合わされている。
一人一人の登場人物に丁寧な演出を行いつつ、読者に必要な情報を無理なくもたらし続けるのは相当な根気がいったことだろう。
字数も手頃なので、ファンタジーにおけるミステリーとして過不足なく楽しめる一作である。