近くて遠いふたりの行方

 記憶は時に人に取り憑き、人生を翻弄させ、大きなしこりを残すことがある。嫌な思い出は消えてしまった方がいい。都合の悪い過去はなかったことにした方がいい。

 では、誰かを好きになることはどうだろうか。この人にはもう出会えないかもしれないという、逡巡の先。忘れたいこと、忘れたくないことは同時に存在し、残しておきたい大切な記憶は、二人の胸の内に宿っている。

 読み終えた時、こう思った。もし人の記憶を消すことができた時、私だけは覚えていてほしい、と願うことは我儘だろうか、と。

 レモンティーが飲みたくなる話。