特等席

仲のいい幼なじみ

7時13分発△△駅行き2車両目のその席、そこには少し大柄で誰かをにらめつけるような目をした学生が座っていた。

「ところでさー今回のテスト、範囲広すぎるよー。」

その学生の隣に座っている学生が彼に話しかけた。すると彼はうん、とだけ答えそっぽを向いてしまった。

「次はOO駅ー、OO駅ー。」

「いっちゃん、次だよ。ほら、起きて。」

いっちゃんと呼ばれた彼はあまりに激しく揺さぶられるものだから不機嫌そうに目を覚ました。そして再びアナウンスが流れる。

「おい湊。何回も言うようだが俺らの降りる駅は△△駅だ。それに、△△駅はまだまだ先だ。」

「え?あ、そうだった、かな?」

えへへと笑う湊に彼は子供に言い聞かせるように何度も△△駅だ、と繰り返した。

まもなくして「OO駅ー、OO駅ー。」というアナウンスとともにドアが開き、大量の人が流れ込んで来た。車内の温度が一気に上がる。

「あっちー。こりゃ蒸しサウナだよー。ねえねえ、手、つなごうよ。」

いきなりの湊の馬鹿げた提案に彼は、は?としか言いようがなかったようだ。

「だってさ、だってさ、こんなに人が多いんじゃ僕迷子になっちゃうし、それに」

「馬鹿言え、座ってんだから迷子になんかなるはずないだろ。」

そんな馬鹿げた会話をしていた彼らのもとに三人ほど、彼らと同じ制服の学生が近づいて来た。

「やあやあ、誰かと思えば超天災の湊くんじゃありませんか。」

その三人のリーダーだと思われる一人が茶化すように湊に話しかける。

「相変わらずお二人は仲がよろしいようで。」「おい、樹よくそんなアホとつきあってられるな。」

後の二人も口々に茶化す。

「ねえ、そろそろその辺にしといたら?」

いきなり口を挟んだ湊にリーダーはうるせえ、阿呆は喋るな、と言い捨てる。

「おい、てめえら。次で降りろ。」

明らかに機嫌の悪い樹を見てあーあ、やっちゃった。と湊は小さな声で吐いた。

「次で降りろとかいつの時代の人だよ。だっせー。そんなまどろっこしいことしないでさー、今ここで来いよ。」

ここぞといわんばかりに挑発してくるリーダーに樹は立ち上がり、リーダーの胸ぐらをつかんだ。そして拳を振り上げる。しかし、その拳は振り下ろされなかった。なぜならその拳は湊の手で振り上げたままの形で固定されていたからだった。

「もう△△駅着くよ。」

湊のその一言でドアが開いた。


「いっちゃん、僕トイレ行きたいから先行っといてー。」

それを聞いた樹はおお、と返事をし、学校の方へ歩いて行った。


「ありがとう、いい感じだったよ。」

湊が話す前には先ほどの三人組がいた。

「やっぱりいっちゃんは僕の事が1番大切なんだね。」

彼はうれしそうに微笑んだ...

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特等席 @yotsuba0623

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