歓喜天

 密教で主に信仰される天部の神で、正式名称を大聖歓喜双身天王という。親しみを込めて聖天さん(しょうでん、と濁って読む)とも言われる。さんづけ様づけが基本である。

 あらゆる願望を聞き届ける神として非常に有名で、大日如来最後の方便身、不動明王最大の変身とも言われる。

 元はインドのバラモン教(現ヒンドゥー教)で古くから存在する神で、名をガネーシャという。ガネーシャは破壊神シヴァと女神パールヴァティ―との間に出来た子であり、象の頭にでっぷりの太鼓腹が特徴的だ。

 シヴァはインド世界の創生・維持・破壊を司る三大神の一人であるが、ある事情から父シヴァよりも息子ガネーシャに先に礼拝しなければならない。そういう特権を許された神でもある。

 そういう神を日本の真言密教の大僧侶・空海が中国より持ち帰ったのが我が国の歓喜天信仰の始まりである。

 本来ガネーシャは学問、商売に特化した神であるが、日本に持ち帰られることにより、恋愛・病気治し・受験などありとあらゆることに特化した神として、我が国の仏教界に隠然と君臨することとなる。

 新鮮な生け花と二股大根、そして日本酒が何故か大好きらしく、甘い和菓子も大好物である。歓喜天を熱心にお祀りしている寺院では、これらをふんだんにお供えしている。

 歓喜天は『卑賤の身もこの神を唱えればたちまちの内に富貴の身となりうる』と和讃で唱えられているように、強力極まりない神だが、扱いもまた極めて難しい。扱いを間違えると死罰が待っているのがデフォルトである。

 もちろん一般の在家信者には、よほど無礼なことをしない限り罰を当てられるということはない。だが、プロの僧侶、それも歓喜天を専門に取り扱う行者となると、礼儀作法も厳格に求められ少しでも下手な取り扱いを行うと正体不明の変死を遂げることも少なくないという(水場で焼死、など。枚挙にいとまがない)。

 従って、最近では歓喜天を封印し一般の信者に教えないとする寺院も数多い。ただでさえ密教は印を含めた作法に厳しく大変なのに、歓喜天の場合は輪に掛けて難しい。その上で己の命がかかっている。誰も進んで専門の行者になどなりたがらない。

 だがその効果効能はすさまじいの一言である。根気強く祈ればあらゆる願望が叶う。万能の神という看板は伊達ではない。

 日本では東京の待乳山と奈良生駒が聖天信仰の地で有名であり、これに埼玉の妻沼聖天を加えて日本三大聖天と言われる。

 何かお願いごとがありましたら、一詣でいかがだろう? 怪しい新興宗教でも何でもない普通のお寺なので、旅行参拝にぴったりでもある。

 信じるか信じないかは、あなた次第……。ふふふ……(・∀・)。 


 追伸:歓喜天に対して『願掛け・断ち物』は絶対にご法度である。願掛け断ち物とは『〇〇する代わりに〇〇します』の類の、一言でいえば契約類似の行為のことである。

 歓喜天は約束を破れば罰を下す神だが、上記の2つをして破ると一般信者でも遠慮なく罰を下す。従って、願掛け等をしたい場合は細心の注意を持って専門の僧侶に相談すること(恐らく強く止められるが)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仏教について 乙倉 @ai0319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る