第2話「出会い」

突然、背後から声を掛けられ驚きながらも後ろを振り向く。

そこには、女性が一人立っていた。

「…ふふっ。」

不敵な笑みを見せた彼女は、私に近寄る。

「く…来るなっ…!」

後退る。

しかし、これ以上下がることは出来ない。

後ろは崖だ。


──嫌だが、仕方あるまい。…己の不運を恨むがいい。


私はスッと体を身構え、彼女に向かって走り一気に距離を詰める。

「…覚悟!」

右手を手刀の形にし、彼女の首元に向かって打とうとした。

角は無かれど私は鬼。

ニンゲンの首など容易く切れる。

そのまま彼女の首に向かって右手は吸い込まれていく。


──しかし。


当たる寸前の右手の首を彼女は左手で掴んだ。

「なっ…!」

必死に振りほどこうとする。

だが、振りほどくことは出来ない。

「…乱暴な子ね。」

彼女は悲しそうな目で此方を見た。

その目は紅かった。

…彼女はニンゲンではない。

鬼の私の攻撃を止めたのだ。

恐らく妖の類なのだろう。

「…私の負けだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。」

振りほどくことを諦め、頭を俯かせた。

「私は闘う気など無かったのよ?其方が勝手な思い込みで襲ってきたのでしょう?」

クスッと苦笑いを浮かべる彼女。

「…それは、来るなと言ったのに近づいてきた貴女が悪いのでは…」

そう言い返すと、

「それもそうね…。ついつい首を突っ込んでしまうのが、私の昔からの悪い癖なの。ごめんね。」

深々と頭を下げた。

「い、いや…此方こそ、突然襲うようなことをして申し訳ない。…貴女、名は?」

「私は聖月。あっちの方角から来た『妖』。」

そう言って彼女は海の方角を指した。

「…私は、鬼月。角がないが、『鬼』。…あそこから来た…というか追い出された。」

私は自己紹介をし、先ほど来た洞窟を指さす。

「へぇー、貴女『鬼』なのねぇ。だから道理で力が強かったのかぁ。…『追い出された』というのは?」

「…。」

彼女──聖月に話すか否か迷ったが、悩んだ末に話すことにした。


私が大罪を犯し、黄泉の世界から追放された事。

その大罪が何なのか自身でもわからない事。

そして、現世の各地で不穏、強大な妖10体を見つけ、殺すことが出来たら読みに変えれる事。


「…大罪、ねぇ。」

全てを話し終え、彼女は何かを考えていた。

「…あ、もしかして私が此処に来た時に出会ったあの妖…貴方の言っていた『強大な妖』なのかもしれない。」

「それは真か!?」

思わず大声で聖月に向かって言った。

「え、ええ…その話は後でしましょう。もうすぐ日が沈んでしまう。一晩過ごす準備をしなくては。」

気が付くと、いつの間にか日は傾き、沈みそうになっている。

「…そう、ですね。私が出来る事なら手伝いますよ。」

「ありがとねぇ。それじゃあ、ちょっと其処ら辺で薪になりそうな枝を拾ってきてくれないかしら?」

「分かった。」

私は彼女に指示された通り、近くにあった森へ枝を採りに向かう。

その時、聖月はとても小さな声で呟いていた。


「……あの妖を倒せば『呪い』は解けるのかしら」



続.

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角を失った鬼と呪われた妖の旅物語 @miduki_kikyou

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