角を失った鬼と呪われた妖の旅物語

@miduki_kikyou

第1話「追放」

──此処は黄泉。

「……。」

「お主は大罪を犯した!黄泉から出ていけ!」

甲高い声が黄泉中に響き渡った。

そして、1人の女性が、鬼に向かって長剣を振り下ろした。

その女性は伊邪那美命。

黄泉を統べる女王。

彼女は、容赦なく剣を振り下ろした。


──鈍い音がした。


鬼は、角を切られた。

2本の角が鬼の目の前に落ちる。

「………え?」

その鬼は、元々角が生えてた箇所を触ろうとする。

しかし、空を切るばかり。

「己の犯した罪を恨むが良い。…其処の者、其奴を黄泉の外へ追い出せ。」

伊邪那美命の背後から現れた鬼が角を失った鬼を羽交い絞めにする。

「はっ。然し、黄泉と現世への洞窟は伊耶那岐命が岩で塞いでしまったのでは…。」

抵抗はしなかった。

鬼の象徴である角を失い、絶望と虚無感で抵抗する気もないのだ。

「何、あんな岩砕くことは出来なくとも動かすことぐらいできるからの。それに妾はここでの生活も悪くないと思うとる。…大体、あの馬鹿が勝手にこちら側に来ただけだし。」

「さ、左様ですか…。」

そして、彼等は洞窟の奥へと進んでいく。

その間も、その鬼は抵抗しなかった。


「着いたな。…ふんっ!」

伊邪那美命は岩に手を掛けると同時に途轍もない力で岩を動かす。

隙間から僅かに光が零れた。

「おぉ…流石です、女王殿」

「こんなこと、動作でもない。其方、奴を。」

鬼達は、角を失った鬼を隙間に向かって、蹴るように追い出した。

「…1つだけ、其方に黄泉へ帰す方法を教えよう。今、現世の各地で不穏、強大な妖が暴れておるらしい。…全部で10体。其等を全て殺すことが出来たなら黄泉へ帰ってきても良い。まぁ…今のお主じゃ10体どころか、1体も倒せなかろう。これからどうするかはお主の自由じゃ。妖を全て殺すか、何処ぞへ野たれ死ぬか、現世でひっそりと生きるか…。また逢うことがあれば、変わったお主を見てみたいものだ。…さらばだ。我が友、鬼月よ。」

そう言い残し、伊邪那美命は岩を閉じた。


*****


静寂が訪れた。


「…何故?私が何をしたというのだ。」

角を失った鬼、鬼月は1人呟いていた。

「……ここで考えていても仕方あるまい。」


此処は猪目洞窟。

島根にある洞窟で、黄泉の入り口とされている。

閉ざされた岩を背後にし、歩きはじめた。

洞窟の入口に出る。

角を失ったせいか、体力が落ちたような気がしたが、そんなことを気にせず外へ出る為の道を進んでいった。

「…っ!」

太陽の光に思わず目を隠す。

「…何なんだ、此処は。」

目の前には蒼い海が広がっていた。

黄泉で見ることの無かった美しい其れを、彼女はぼぅっと眺めていた。


──現世で生きるというのも悪くない。


そう思ったが、そうもいかない。

母様、父様、弟にもう1度逢わなければ。

迷惑をかけてしまった事を謝らなければ。

彼女は、空を見上げ淡々と輝く太陽を見上げた。


「…貴女、其処で何をしているの?」


背後から声がした。


続.

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